「無印良品」を展開する良品計画が、次世代タンパク源として注目される食用コオロギを使った菓子を商品化。数量限定発売されたネットストアで即日完売した「コオロギせんべい」の開発ストーリーに迫る。

良品計画が売り出した「コオロギせんべい」(税込み190円)
良品計画が売り出した「コオロギせんべい」(税込み190円)

 薄茶色の少々粉っぽいせんべいを口に放り込むと、パリパリと小気味よい食感とともに、エビのような風味が口いっぱいに広がる――。

 しかし、パッケージ裏面の原材料表記を見ると、エビ由来の成分は入っていない。馬鈴薯(ばれいしょ)でん粉、コーンスターチに続いて現れるのは、「食用コオロギパウダー」の文字だ。そう、これは良品計画が2020年5月20日から無印良品のネットストア限定で売り出した同社初の「コオロギせんべい」なのだ。

 コオロギせんべいは少数の数量限定販売だったが、想定以上の注文が集まり、発売初日ですべて完売。同社は原料の確保を急ぎ、6月中旬にネットストアでの販売を再開し、今後は日本国内の限定店舗での販売も予定しており、継続的に世に問う商品とする計画だ。では、なぜコオロギだったのか。

コオロギは将来の重要なタンパク源

 世界的な人口増加による食糧危機は、一般的な日本人が思うより目前に迫っている。19年6月に国際連合が発表した人口予測によると、世界人口は現在の77億人から2050年には97億人へと激増する見込み。その後、21世紀末ごろに約110億人へ達した後、減少に転じる可能性はあるが、それまでは食糧資源を今より増やす必要がある。

 ところが、だ。人間が摂取すべき主要な栄養素の1つであるタンパク質を例にとると、現在の牛や豚、鳥などの家畜を大幅に増やすことにはリスクが伴う。家畜を育てるには大量の水が必要で、特に牛のゲップに含まれるメタンガスは地球温暖化を加速させる温暖化ガスの1つとして知られている。そこで世界では、家畜に代わる効率的なタンパク源として、エンドウ豆などを基にした植物肉や、家畜の細胞からつくる培養肉の研究や市場投入が盛んに行われている。こうした代替タンパク源を探索する文脈の1つにあるのが、コオロギだ。

 コオロギは100グラム当たりのタンパク質量が60グラムであり、鶏(23.3グラム)や豚(22.1グラム)、牛(21.2グラム)よりも重量比で効率的な摂取が可能。必須アミノ酸の含有比率を評価するための指標であるアミノ酸スコアこそ、牛肉、豚肉が満点の100に対し、コオロギは90弱と少々劣るが、亜鉛や鉄分、カルシウム、マグネシウム、ビタミンなどの栄養素をバランスよく含有している。

 環境面でいえば、タンパク質を1キログラム生産するために必要となる餌や水の量、温暖化ガスの排出量は、いずれも他の家畜に対して圧倒的に少なく済む(下図参照)。工業的に見ても、コオロギは省スペースでの飼育が可能で、約35日で出荷可能な成虫になるため、効率的な生産ができる。また、雑食が故に餌の選択肢が広く、例えばフードロスとして社会課題化している食品廃棄物で育てることも可能だ。あの黒光りする虫の姿形にとらわれず、タンパク源として見るなら優秀な部類といえる。

無印良品ホームページより(注:コオロギはパウダー、鶏はムネ肉、豚・牛はモモ肉で算出。コオロギの数値は日本食品分析センターで分析、牛・豚・鶏の数値は文部科学省食品成分データベースより算出)
無印良品ホームページより(注:コオロギはパウダー、鶏はムネ肉、豚・牛はモモ肉で算出。コオロギの数値は日本食品分析センターで分析、牛・豚・鶏の数値は文部科学省食品成分データベースより算出)
無印良品ホームページより(注:いずれもタンパク質1キログラムを生産する際の数値。2013年FAO報告書より)
無印良品ホームページより(注:いずれもタンパク質1キログラムを生産する際の数値。2013年FAO報告書より)

 良品計画でコオロギせんべいを開発したのは、食品部菓子・飲料担当カテゴリーマネージャーの神宮隆行氏と、同菓子・飲料担当の山田達郎氏だ。2人が食品としてのコオロギと出合ったのは、19年2月ごろのこと。同年11月にオープンしたフィンランド・ヘルシンキの無印良品店舗の立ち上げメンバーが持ち帰ったチョコ掛けコオロギ菓子がきっかけだった。

 調べると、すでに欧州では多くのコオロギ菓子が販売されていたが、いずれも伝統的な菓子ではなく、ごく最近の商品だった。その背景には、タンパク源をめぐる食糧危機の問題があり、「それは日本人にとっても対岸の火事ではない。『すぐそこにある危機』ということを伝えるきっかけになればと、商品化の検討を始めた」(神宮氏)という。

 門をたたいたのは、コオロギ研究の国内第一人者である徳島大学大学院助教の渡邉崇人氏の研究室だ。渡邉氏は16年から食用コオロギの研究を本格化し、食用として知られるフタホシコオロギ原料の生産・販売を手掛ける、グリラス(徳島県鳴門市)のCEOも務める。そんな渡邉氏の協力を仰ぎ、二人三脚でコオロギ菓子の商品化プロジェクトがスタートした。