政府の緊急事態宣言を受けてテレワーク移行を決めた企業は少なくないが、1月末時点で経営トップが決断し、いち早く全社を挙げて移行したのがGMOインターネットだ。2カ月以上オフィスを離れて業務をこなし続ける同社。熊谷正寿会長兼社長・グループ代表に、決断の経緯や、経験して見えてきた課題について話を聞いた。

(写真/村田和聡)
(写真/村田和聡)

——2020年1月25日に災害対策本部を立ち上げ、翌日には全グループで大半の社員4000人をテレワーク移行させることを決断しました。他社に比べてかなり早い意思決定を経営者として下した原動力はどこにあったのでしょうか。

熊谷正寿氏(以下、熊谷氏) それは極めてシンプルな考えに基づいています。パートナー(GMOインターネットグループでは社員をこう呼ぶ)は会社にとって家族であり、誰一人欠けてもらっても困ります。

 1月25日の時点では、新型コロナウイルスは主に中国で感染が拡大し、感染者数も2000人に満たず死者も56人でした。ただ、武漢の惨状が克明に日本にも伝わってきて、当時3例目の患者が見つかったばかりの日本でも、いずれ大変なことになると確信しました。当時は東京・渋谷にあるオフィスの近辺は中国人観光客でごった返している状況でした。失笑されようが、そこまでやるのかと言われようが、パートナーの命を最優先に考えて、守るためにも即決すべきだと判断しました。段階的にテレワーク移行を進める、といったことも全く考えませんでした。

 もともとBCP(事業継続計画)については、03年に猛威を振るった重症急性呼吸器症候群(SARS=サーズ)のときにその重要性について考え始めました。そして11年、私たちは東日本大震災を経験し、天災や今回のようなパンデミック(世界的な感染症の大流行)など、あらゆることが起こっても事業を継続できる仕組みの必要性を痛感しました。そこで具体的なマニュアルとして落とし込んだのです。以来、毎年1回は全社を挙げて在宅勤務を行う実験を行い、年々改善してきました。ちなみにBCPに基づき、GMOインターネットグループの経営幹部は出張時に必ず衛星電話を持ち歩いています。

 ですから今回の意思決定は、決して特別なことではありませんでした。BCPのマニュアルに従って、手続き通りに発令しただけなんです。

熊谷正寿(くまがい まさとし)氏
GMOインターネット 会長兼社長・グループ代表
1963年生まれ、91年にボイスメディア(現GMOインターネット)を起業し、95年にインターネット事業を開始。99年に独立系ネットベンチャーとして国内初となる株式店頭公開。インフラから広告、金融に至る様々な事業を立ち上げ、2020年4月現在上場9社を含む114社を率いる。

——実際に2カ月以上、グループを挙げてテレワークに取り組んでみて、見えてきた課題はありますか?

熊谷氏 もちろん良い面もあれば、悪い面も見えてきました。2月に1回、3月に1回、テレワークで困っていることがないか浮き彫りにする大規模アンケートを社内で実施しました。そこで出てきた課題を今、一つひとつ潰しているところです。

 アンケートでは、「往復で計2時間かかっていた“痛勤”から解放されて、その分を家族時間や勉強の時間、趣味の時間に充てられるようになった」といった声が多く寄せられました。みんなのQOL(生活の質)を上げられるなら、新型コロナウイルスの感染が終息した後も数日でも自宅で仕事が続けられるようにすべきですよね。そう考えて、新たな制度を設けることを機関決定しました。

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