『アフターデジタル』『ディープテック』などベストセラーを執筆したことで知られるIT批評家の尾原和啓氏は5年前からテレワークを実践する先駆者だ。オフィスで顔を合わせることが難しくなった今、チームとしてどう働くのが生産性向上に結びつくのか悩むビジネスパーソンは少なくない。秘訣を同氏に伺った。
——具体的な話題に移りますが、 直接顔を合わせられないテレワーク環境に急きょ放り込まれた結果、うまくチームワークが機能せず困っている企業も多いようです。
尾原氏 テレワークで、チームとしてうまく仕事をするには、2軸で考える必要があると私は考えています。「みんな」「一人」という縦軸と、「目的型(Do)」「非目的型(Be)」という横軸でできる4象限を考え、それぞれについて足りないものを補うのです。
現在、テレワークについて多くの人が気にしているのは、ツールを使って効率よく遠隔で働く第1象限の「みんなでDo」の部分です。しかし、そこをきっちりしても決められた業務をただ効率的にこなせるようになるだけです。決まっていない問題を定義したり、問題が解決される未来を考えたりする、第2象限「みんなでBe」の視点が欠けています。
オフィスで働いていると日々顔を合わせられますから、チームの他のメンバーの動きを見て自分が進むべき方向は自然に軌道修正できます。それがみんなでBe。しかしテレワーク環境では、仲間の気配を感じられないばかりにとかくギスギスしがち。くだらないことでもあえて言いやすいような、心理的安全性を担保する工夫が求められます。
例えば週に1回、ビデオ会議システムを使ってリモートランチ会をやるのはアイデアの1つでしょう。定例会議の後に、しばらく雑談タイムを設けるのも、ありです。
その際に大切なことが3つあります。それが(1)マイクロインタレスト、(2)コミットメント、そして(3)弱さの自己開示です。この3点セットがチームの心理障壁を取り払ってくれます。人間はとかく、勝手に自分から心の壁を作ってしまいがちなので、自分ならではのこだわり(マイクロインタレスト)を開示して場に広がりを持たせ、何をいつまでにしたいのか(コミットメント)を明らかにして信頼を高め合い、さらにちょっとした失敗(弱さの自己開示)を打ち明けて共感を生み出すのです。
大事なことがもう一つあります。それがカジュアルコリジョンです。意識的に価値観の違う人たちと率先して話し、耳を傾けることで、想定外の気づきが得やすくなります。ふとした会話の中から、キラリと光るアイデアが生まれた経験はありませんか? あれがカジュアルコリジョンの効果です。
私の知り合いの会社では、部長の報告に対して参加者はその場で1分間自分が何を“ギブ”できるか黙って考え、それを最後に報告するスタイルで会議を行っているそうです。部長が一つ一つ目を通して、思わぬ気づきを得ているんだとか。偶然のアイデアとの出合いを上手に演出している好例でしょう。
ちなみに第1象限のみんなでDoについても、1つ良い提案があるのでご紹介させてください。それはリモート会議ならではのアジェンダの設定の仕方や、進行ルール、議事録係などをきちんと決めることです。オフィスでは当たり前にやっていた段取りが通用しにくいのですから、会議の中身のWhatだけでなく、会議の方式に関するHowについても改善点をみんなで出し合うのです。「今回のこういうところが良かった」「次回はこういうふうにしたらいいのではないか」など振り返ることで、どんどんリモートでの会議が快適になっていきます。
また私の知り合いの会社の事例なのですが、リモート会議の資料についてフォーマットを決めているそうです。冒頭にはみんながその日の議論したいことや気分を書き込める「チェックイン」、末尾には会議の中身の振り返りや進行についての感想などを書き込む「チェックアウト」という項目が用意されています。なかなかいいアイデアですよね。
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