外出自粛で利用者が激減する外食店。加えて、納入する食材の生産者にもダメージは広がる。そんな中、食材を生産者から直接購入できるECサイト「食べチョク」が、生産者とシェフに新たな収益の形をもたらす取り組みを開始。同サイトを運営するビビッドガーデンの秋元里奈社長に現状と狙いを聞いた。

秋元里奈氏
ビビッドガーデン社長
神奈川県相模原市にて、農家に生まれる。慶応義塾大学理工学部を卒業後、ディー・エヌ・エー(DeNA)に入社。webサービスのディレクター、営業チームリーダー、新規事業の立ち上げを経験した後、スマートフォンアプリの宣伝プロデューサーに就任。2016年11月にビビッドガーデンを創業。生産者が、個人や飲食店に“直接”商品を販売できるプラットホーム「食べチョク」を展開する。今回の取材は、オンラインで実施

食べチョクでは現在、生産者が飲食店に卸す予定だった食材を直接、消費者に販売していますね。

秋元里奈(以下、秋元) 個人の消費者が生産者から食材を直接購入できる「食べチョク」と、飲食店などが生産者から食材を仕入れる「食べチョクPro」を運営していますが、外出自粛を受けて、明暗が分かれました。家庭で料理する機会が増えたこともあり、個人向けに食べチョクで販売してきた生産者には注文が大量に入り、供給が追いつかないケースが出てきています。

 その一方で、食べチョクProで飲食店や百貨店などに販売していた生産者は、外出自粛の影響で店舗が休業するなどして、取引が突然終了してしまうケースが相次ぎ、高品質の商品の在庫を大量に抱えてしまっている状況です。売り上げが7割減になっているケースもあるほどです。さらに、緊急事態宣言が出て、大型連休のイベントの中止が決まり、イベント用の食材を用意していた業者も大きな影響を受けました。これら全部を売り切ることは難しいですが、今は個人向けに活路を見いだすしかないので、飲食店向けの食材も食べチョクで個人へ販売するよう取り組んでいます。

食べチョクでは、「コロナでお困りの野菜や肉、魚の生産者さん」と題した特設ページを公開中
食べチョクでは、「コロナでお困りの野菜や肉、魚の生産者さん」と題した特設ページを公開中

飲食店向けの品物を単純に個人消費者に販売することでカバーはできないのでしょうか。

秋元 従来、生産者からすると飲食店や百貨店向けの方がロットが大きく、手間がかからないので好まれていた部分があります。また、自分たちで販路を開拓することができる場合は、まず収益の安定が見込める法人を開拓するというのが生産者のセオリーだったのです。

 個人向けの販売の方が単価を高くできるメリットもありますが、ある程度まとまった量を個人に販売するには、いかに固定ファンをつくり、数をどこまで増やせるかというのが課題。かつ配送に手間がかかるため、配送作業のオペレーションも相当効率化しなければなりません。実際には、個人向けに販売している生産者の中でも、ブランディングとして一部は個人へ直販をするけれど、売り上げの割合としては法人向けが多いというケースがよく見られます。ですから、いくら高品質の食材であっても、単にロットを小さくすれば個人消費者に買ってもらえるかというと、通常なら容易ではありません。食べチョクとして、今後はオペレーションコストを下げられるシステムも提供していきたいと考えています。

生産者も外食産業もどちらにもメリットがある仕組みを

食べチョクを利用する消費者や飲食店などにさまざまな支援プログラムを展開していますね。

秋元 最初は、3月2日から開始した個人の消費者向けの送料500円相当を弊社が負担するキャンペーンです(5月31日までの予定)。全国一斉休校が要請されて、自炊が増える家庭への応援プログラムでした。この時期、給食用に出荷していた生産者からは行き場がなくなった食材をなんとかできないかと問い合わせを受けましたが、まだ飲食店の一部が自粛を始めた頃で、出荷量はそんなには減っていない時期でした。

 その後、3月19日からは、食べチョクProで購入していただいている飲食店向けに、全商品の10%(食べチョクが受け取る手数料分)を弊社が負担して割り引く支援プログラムも実施。この時点で飲食店は営業していましたが、客足が鈍ってきていた時期でした。なるべく安く仕入れてもらおうと考えました。ところが、外出自粛が増えて客足が遠のき、飲食店側がそもそも買えない、生産者も厳しいという状態になってきたのです。そこから考え出したのが、今回のレシピ付きの商品です。

 以前から交流のある全国のシェフ集団「CookForJapan」とのやりとりの中で、「生産者を助けたい」という話になりました。レストランに卸すような食材ですと、品質は高いのですが、ロットが大きくて、例えばアスパラガス1kg(約100本)など、個人が買ってもそのままでは使いにくい。そこでCookForJapanさんが「僕たちでレシピを考えられないですかね」と言ってくれて、レストランで食べるような料理のレシピと食材をセットで販売することになりました。

4月17日に予約が始まったレシピ付き食材の宅配サービス
4月17日に予約が始まったレシピ付き食材の宅配サービス
CookForJapanは、19年の台風19号の際、神谷隆幸シェフ(南仏カーニュ/La Table de KAMIYA)のSNSでの呼びかけをきっかけとして、全国のシェフが募りレシピを提供することで生産者への支援活動を行っている団体
CookForJapanは、19年の台風19号の際、神谷隆幸シェフ(南仏カーニュ/La Table de KAMIYA)のSNSでの呼びかけをきっかけとして、全国のシェフが募りレシピを提供することで生産者への支援活動を行っている団体

 その中で、レシピ代をどのように支払うかも話し合いました。これまでよくあったのは、レシピ考案代として数万円を支払う形だったのですが、それだと微々たる金額ですよね。以前から食べチョクには「生産者の在庫が余って困っているという状況を助けたい」という、支援の文脈で買ってくれる消費者が多くいます。それなら、レシピが売れた分に対して利益をシェフと分配するレベニューシェアという形にすれば、生産者だけでなくシェフを支援したいという人の声にも応えられるのではないかと考えました。現状のプログラムでは、1購入あたり300円がシェフに還元されますから、例えば400個売れれば、12万円がレシピ代としてシェフに入ることになります。売れれば売れるほど、生産者とシェフの両者が潤っていきますし、シェフもより買ってもらうためにレシピを考えるやりがいも生まれます。また、消費者も、高級飲食店で口にするような本格レシピを自宅で楽しむことができ、生産者・シェフ・消費者三方にとってメリットのある仕組みだと考えています。

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