消費者の行動は、気まぐれで衝動的な傾向が強くなっているのではないか? そんな消費者を「自社ブランドのファンにする」ことを目指すのは正しいのか? 消費環境が“液状化”している傾向に着目し、世界の消費者行動研究で近年注目される「リキッド消費」について、青山学院大学教授の久保田進彦氏に聞いた。

(前編)はこちら

 前編では、久保田進彦教授に「リキッド消費」の3つの特徴である「短命性」「アクセス・ベース」「脱物質」について解説いただきました。後編では、ブランドに強い愛着を抱かない「普通の人」に対して、企業はどう向き合えばよいかについて、話を進めます。

及川直彦氏(以下、及川) 「普通の人」を取り込むマーケティングとして、久保田先生は論文の中で「裾野を広げる戦略」を提案されていますね。

<b>久保田進彦氏</b><br>青山学院大学 経営学部 教授<br>日本消費者行動研究学会 会長<br>(写真/室川イサオ)
久保田進彦氏
青山学院大学 経営学部 教授
日本消費者行動研究学会 会長
(写真/室川イサオ)

久保田進彦氏(以下、久保田) はい。「裾野を広げる戦略」は、手軽で買いやすい状態を提供することで、できるだけ多くの消費者を自社ブランドのユーザーとして獲得しようとする戦略です。具体的には、消費者がブランドの間をスイッチすることを前提とした上で、特に自社ブランドのファンではない「普通の人」、もう少し正確に言えば、気まぐれで移り気な消費者に対して、選択や購買、使用のハードルを下げる。あるいはそもそも能動的な選択をしないで手に取ってもらえる状況をつくる、といったアプローチが挙げられるでしょう。

 例えば、アマゾンの商品紹介ページの中に登場する「Amazon’s Choice」は、特に特定のブランドにこだわりのない普通の人が安心して選べるよう“お墨付き”を与えることで、選択・購買のハードルを下げています。 あるいは、メルカリは、個人売買に伴う商品登録や購入者とのやりとり、決済、配送といった様々な手続きや作業を自動化することで、消費者自身の手を煩わせることなく利用できるよう工夫されています。いずれも選択・購買・使用のハードルを下げることによって、「普通の人」を取り込むことに成功しています。

 能動的な選択をしないで手に取ってもらえる状況をつくっているアプローチとしては、みなさんにとって古臭く聞こえるかもしれないでしょうが、ブランド認知の向上や店頭プロモーションといった伝統的手法が、実はなかなか有効だと思います。

 例えば、「普通の人」が、何かを飲みたいけれども、特に飲みたいものにこだわりがないときを考えてみましょう。こうした人は、たまたま「コカ・コーラ」を思いついたという理由で、「コカ・コーラ」を選択することがよくあります。本人は無意識に「コカ・コーラ」を手に取ったつもりですが、実はそうした状況はブランドによって作り出されていると言えるでしょう。あるいは、自社ブランドの商品を、リアルの店舗空間の中で目に付く場所に陳列してもらったり、手に取ってもらいやすい陳列方法を工夫して店舗と一緒につくったりするアプローチも、能動的な選択をしないで手に取ってもらえる状況をつくる有効なアプローチです。

<b>及川直彦氏</b><br>早稲田大学ビジネススクール客員教授、オープンロジCSMO(Chief Strategy & Marketing Officer)
及川直彦氏
早稲田大学ビジネススクール客員教授、オープンロジCSMO(Chief Strategy & Marketing Officer)

及川 オンラインの世界では、これまた古臭く、地味に聞こえるかもしれないですけれども、検索したらより良い場所に表示されやすくするSEO(検索エンジン最適化)とか、自社でECを展開しながら、同時に多くのユーザーがアクセスするマーケット・プレイスやモールにも出店するといったアプローチも、能動的な選択をしないで手に取ってもらえる状況をつくるアプローチでしょうね。

久保田 そうですね。マーケターは新しいアプローチや、華やかなアプローチを好むことがよくありますが、古かったり、地味だったりするアプローチに正解があることも少なくありません。リキッド消費という新しい消費動向に対応するには、そういった古典的なアプローチにも焦点を合わせていくべきでしょう。

 「裾野を広げる戦略」には、自社ブランドの中で多様性をつくり、変化に富んだ消費を楽しんでもらえる状況をつくるアプローチもあります。消費者のその時々の場面や状況にあわせたてポートフォリオを充実させたり、リニューアルさせたり、新製品を投入したりすることで、バラエティを求める欲求を満たすことができれば、気まぐれで移り気な消費者も、自社ブランドの中にある程度つなぎ留めることができます。

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