メキシコビールの代名詞「コロナビール」が、新型コロナウイルスと発音が似通っているとして、風評被害を受けていると話題になったのは記憶に新しい。しかし、実際には店頭販売はかえって伸びたとのデータもあり、風評は根拠のないデマだった。企業にとって、ある日、突然、難癖をつけられるのは悪夢以外の何物でもない。不測の事態に、企業はどう臨めばいいのか。「投稿監視のプロ」に聞いた。

24時間365日体制で、ネット上の投稿監視に当たるイー・ガーディアンのオフィス
24時間365日体制で、ネット上の投稿監視に当たるイー・ガーディアンのオフィス
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 終息の兆しが見えない新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)。消費マインドが大きく冷え込み、疑心暗鬼から、デマの拡散が問題となっている(前編参照)。コロナビールのような、いわれのない“風評被害”は、決して対岸の火事ではない。ネット上の誹謗中傷リスクに対し、企業はどう向き合えばいいのか。

 毎日、膨大な投稿を分析しているイー・ガーディアンの立川センター(東京都立川市)で、ソーシャルメディアチームを率いる池田威一郎氏は「ネット上で何が起きているのか。いち早く変化に気づく体制を構築するのが重要」と助言する。

 池田氏によると、ネット上の投稿は、夜のうちに一気に広まるケースが多い。「一番盛り上がるのは夜10時以降」だという。企業にとっては、営業時間外に当たるため、朝の始業時にいち早く異変を察知することで被害を最小限に食い止められる。

 風評対策は、何よりも準備が肝心だ。「いざというときに慌てないよう、覚悟を決めておくのが大事。気づいた時点でどんな行動を取るか。ひとごとと思わずに『例えばコロナビールの立場だったらどうするか』と考えてイメージトレーニングしておく」(池田氏)。風評被害が起きてしまった後だと、浮足立って冷静な判断ができなくなるからだ。

 行動に移すかどうかを決めるのは、自社にとって看過できない投稿が、どれだけ多くの人々にリーチしたかによる。「ごく一部の層でしか話題になっていなければ静観もありだが、広範に拡散されているのであれば、きちんとリリースを出し、どこまでが正しくて、どこからが正しくないのか、事実関係をはっきりさせたほうがいい」(池田氏)。

「いざというときにどんな行動をとるか覚悟を決めておくことが大事」と助言する、イー・ガーディアン立川センターのソーシャルメディアチームリーダー池田威一郎氏
「いざというときにどんな行動をとるか覚悟を決めておくことが大事」と助言する、イー・ガーディアン立川センターのソーシャルメディアチームリーダー池田威一郎氏
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ツイッターの話題量で風評状況をつかむ

 新型コロナウイルスの感染拡大は国難ともいえる緊急事態のため、現状、特定の日本企業が名指しで猛烈に批判されたという例はないが、この先もそうとは言い切れない。異変にいち早く気づくためにも、企業としては、自社や自社の製品、サービスのネット上での話題量を常に観測することが求められているという。

 観測すべきSNSは1つしかない。ツイッターだ。拡散力では群を抜いており、近年はツイッターを情報源とするネットニュースまで飛び交っている。イー・ガーディアンでも重点的に投稿監視しているのは、ツイッターである。

 「インスタグラムでもフェイスブックでも激しい議論になることはあるが、それが無責任に拡散して炎上というパターンはほとんどない。結局、フェイスブックやインスタグラムの投稿もツイッターに転載されてツイッターで炎上するパターンが多い」(池田氏)

 5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)などの掲示板や、Yahoo!ニュースのコメント欄も、基本的には閉じたコミュニティーのため、監視の優先度は低いという。つまり、企業としては徹頭徹尾、ツイッターの“世論”を読み解くのが、身を守る最善策となる。

 例えば、普段は10件程度の投稿しかない企業、サービスにまつわる投稿が、100件に急増したら大きな異変が起きている。一方、1万件の投稿が1万100件に増えても、それは誤差にすぎない。

 「普段と比べて自社に関する話題がどの程度あるのか、その中身をポジティブ、ネガティブ、ニュートラルで判断すると、どれが最も多いのかという観測をしていくと、ネット上の風評状況はつかめる。我々はそれをソーシャルリスニングと言って、お勧めしている」(池田氏)

 1つの投稿に引っ張られるのではなく、あくまでも全体の話題量を把握する姿勢が鍵を握る。「ネット上では、ネガティブな声のほうが大きく見えてしまいがちだが、本当にそれがみんなの意見なのかと意識する必要はある」(池田氏)。全体の中で、ネガティブな意見の割合が、突出して増えて初めて、事前に準備した行動を実行に移すフェーズが訪れるのだ。

 この話題量の把握に役立つ無料ツールが、「Yahoo!リアルタイム検索」だ。ツイッター上の話題量の増減がグラフで確認でき、ポジティブな投稿と、ネガティブな投稿の割合も、ざっくりとつかめる。イー・ガーディアンは今でこそ専用のツールを使って投稿を分析しているが、かつてはこのリアルタイム検索を駆使していた。

 池田氏によると、ソーシャルリスニングの頻度は「BtoCでかなり大きなサービスを抱えている場合はほぼリアルタイムに、BtoBで普段から話題量が少ないサービスの場合は、1日に1回でも有効」。とにかく継続的かつ定量的に投稿をパトロールすることが、いざというときの明暗を分ける。

ツイッター発信のNGは「ユーザーへの反論」「3密行動」

 「中の人」として企業を代表してつぶやく場合に、絶対にやってはいけないことがある。それは「個人のユーザーをあおったり、反論、言い訳をしたりすること」(池田氏)。それがさらなるツイートを呼び込み、収拾がつかなくなるからだ。

 もう1つは、誤解を生まないようにすること。例えば、新型コロナウイルスの感染防止のスローガンである、密閉・密集・密接の「3密」に反する可能性のある投稿は瞬く間に拡散される。「季節柄、気を使うべきは式典や歓迎会。普通に投稿すると、批判を浴びることは十分予想される。どれだけ3密に配慮しても、人が集まったという事実だけで非難される可能性がある」(池田氏)。

 例年、6月に集中する株主総会も、感染拡大がある程度収束しないうちは、積極的に投稿するのは注意を要する。投稿ボタンを押す前に、この時期にこの投稿をして大丈夫かと、一呼吸おく。不要不急の投稿かどうかを今一度顧みることが、火の粉を防ぐ一助となる。

前向きなメッセージを

 逆に、先が見えないからこそ、いつも以上に、心が和むツイートや、前向きなメッセージに共感が集まる。休園中の東京ディズニーリゾートが3月25日、「ファンタズミック!」のスペシャル動画をYouTubeに公開したところ、2週間で約230万回再生され、感謝のコメントが次々と書き込まれた。全国各地の動物園や水族館が、休業中の動物たちの様子を動画で公開したところ「癒される」と大きく拡散された。

 歌手で俳優の星野源が自身のインスタグラムに自作曲の弾き語り動画を公開し、「誰か、この動画に楽器の伴奏やコーラスやダンスを重ねてくれないかな?」と呼びかけたところ、さまざまなアーティストが賛同し、コラボ曲が次々と生まれた。逆境を逆手にとって、希望を与える取り組みを発信すると、災いもきっと福に転じる。