新型コロナウイルスの感染拡大をめぐり、インターネット上のつぶやきに世界中の人々が翻弄されている。我々はデマやフェイクニュースとどう向き合えばいいのか。年間100万ものつぶやきを読み解く「投稿監視のプロ」に聞いた(全2回)。
<後編はこちら>
その1「一次情報以外は信じない」
刻一刻とネット上にあふれるつぶやきの群れ。情報が氾濫し、錯綜する「インフォデミック」時代に、真偽を見破るポイントはあるのか。話を聞いたのは、イー・ガーディアンのソーシャルメディアチーム。24時間365日、交代制でネットパトロールに当たり、顧客企業にまつわる投稿を監視、分析している。対象となる投稿数は月間約1000万件、1人当たり年間約100万件を受け持つ、投稿監視のプロ集団だ。
立川センター(東京都立川市)でチームリーダーを務める池田威一郎氏の答えは明快だった。それは、一次情報以外は信じないこと。「まず、誰が何を言っているのかを見極めるのが一番大事。公的機関がきちんと発表した情報かどうか。発表前に出回っている噂のような情報は、基本的にすべて信ぴょう性がないと考えたほうがいい」。
信頼が置ける一次情報とは、自治体や省庁が運営するサイトやSNSアカウント、首相や知事の記者会見動画だ。政治家個人の発信も信じないほうがいいという。往々にして発信者の主観や憶測が含まれるからだ。たとえメディアであったとしても速報を急ぐあまり、誤まったニュースを流布してしまったケースが、ここ最近目立っている。
その2「1人1人がファクトチェックを」
「フェイクニュース」を見破るポイントはあるのか。池田氏は、ここでも「誰が何を言っているか」が重要だと語る。切り取られた発言の要旨を追うのではなく、例えば、実際の記者会見動画を視聴する。「今の時代、やろうと思えば、一次情報に当たることができる環境はある。一般ユーザーであっても、ファクトチェックをしていくことが、今後ますます大事になってくる」(池田氏)。
新型コロナウイルスの感染者数や検査実施数、入院患者数、死亡者数、退院者数といった統計データは、自治体ごとに閲覧できる(参考リンク「東京都のオープンソースを活用した新型コロナウイルス感染症対策サイトの紹介」)。報道機関に頼らずとも、自ら現状を把握するに足るデータは、ネット上に転がっているのだ。
その3「悲劇をあおる、大げさ、作り物めいた投稿は要注意」
ポイントは他にもある。「センセーショナルな表現だったり、悲劇をやたらあおったり、ストーリーが大げさで明らかに作り物めいているような投稿」はデマの可能性が高いという。イー・ガーディアンが注目した、最たる例が2020年3月28日に投稿された以下のツイートだ。
「突然すみません。Twitterを使うのは初めてですがこの話を皆さんに聞いてもらいたいのでアカウントを作りました。どうか、聞いてください。広めてください。お願いします。コロナウイルスについてです。結論から言いますと家族をコロナウイルスで失いました。私含め5人がコロナに感染しました(原文ママ)」
「現在、既に祖母、祖父、父親が亡くなりました。母親は自分では呼吸が困難な状況です。私は肺炎にかかりましたが現在異常はありません。家族への感染源は私でした。私のせいで、家族を失う事となりました。私は健康なのに。です。(原文ママ)」
投稿主は「コロナへの危機感をもっと持って欲しいです」という名前で、この3月にアカウントを開設したばかり。この「突然すみません」から始まる投稿は爆発的に拡散され、30万以上のいいね、25万以上のリツイートを生んだ。「フォロワー稼ぎやRT(リツイート)稼ぎなどというリプライが沢山あるのですが、コロナウイルスが収束しましたらアカウントを消させていただきます(原文ママ)」と断っておきながら、このアカウントは既に削除されている。
その4「議論を呼ぶ投稿、誰かを悪者にする投稿は独り歩きする」
国内感染者数の動向を追っていれば、そんなはずはないと気づけたはずだが、投稿があたかも真実であるかのように独り歩きしてしまったのだ。池田氏いわく、デマは災害時に発生しやすい傾向がある。新型コロナウイルス以前にネット上でデマやフェイクニュースが最も駆け巡ったのは11年の東日本大震災だった。「『嘘だろ』『いや、本当かもしれない』と議論が発展し、拡散していった。真偽はさておき、議論が盛り上がる内容というだけで、十分拡散はする」(池田氏)。
その後、16年の熊本地震では「動物園からライオンが逃げた」という投稿が画像付きでツイッター上に出回り、18年の北海道胆振(いぶり)東部地震では、「自衛隊の方からの今来た情報です。地響きが鳴ってるそうなので、大きい地震が来る可能性が高いようです(原文ママ)」といった不確かな伝聞情報がLINE上で飛び交った。
災害時によくあるつぶやきは「××に気をつけろ」との注意喚起や、人種差別的な投稿だという。「特定の誰かを悪者にする投稿は、賛否両論で議論を呼んで話題化していくため、拡散されやすい」(池田氏)。
その5「善意の拡散もデマにつながる」
池田氏は現状を「何千万人で伝言ゲームをやっているようなものだ」と表現する。「とりわけ、ネガティブな話題、恐怖心や疑心暗鬼を生む話題のほうが拡散されやすい。井戸端会議で盛り上がりやすい話題は結局、ネットでも盛り上がりやすい。そして、ネットのほうがそのスピードが桁違いに早い」。
注意すべきは、デマが広がるのは悪意からとは限らない点だ。先の家族が3人亡くなったという投稿も、こんな深刻な現実があると友人に伝えたいとばかりにリツイートした人が多かった。「注意喚起をしたいなど、よかれと思ってした行動が拡散を生むパターンが多い」(池田氏)。
2月27日、大西一史熊本市長が「デマにご注意」という書き出しで、ツイッターに以下のような投稿をした。
「熊本でデマが流されトイレットペーパーやティッシュなどの買い占めが起こっているようですが確認したところティッシュ等はほとんどが国産で製造に全く影響ありません。まとめ買いしなくても大丈夫です。熊本市の指定ゴミ袋も在庫は数ヶ月分あります。皆さん落ち着いて行動して下さい(原文ママ)」
マスクはともかく、トイレットペーパーもティッシュペーパーも、新型コロナウイルスとは直接関係がない。しかし、デマをきっぱりと否定したことで、全国ニュースになり、全国的な買い占めに発展した。「善意で『デマだからみんな安心してね』と呼びかけたはずなのに、かえって不安をあおってしまい、みんな買うのなら、私も買わなきゃと買いに走ってしまった」と、池田氏と同じチームで投稿分析に当たる佐々木晴菜氏も振り返る。
新型コロナウイルスをめぐっては、医師や看護師を名乗るツイートも増えている。佐々木氏は「そういう方々がツイッターやフェイスブックで発信した投稿の一部だけを切り取り、ツイッターに投稿するユーザーをよく見かける。善意で拡散していたとしても、切り取れば切り取るだけ事実とはかけ離れていく。いくら知らせてあげたくても、拡散をとどまるのも必要」と警鐘を鳴らす。

その6「不用意なリツイートは思いとどまるべき」
識者や評論家の見解を、深く考えずにリツイートしてしまうのも要注意だという。賛否どちらにもとられてしまうからだ。慎重になったほうがいいのは、「特定の人や組織を攻撃する投稿や、誰かを傷つけそうなネガティブな投稿、政治色が強い投稿、名指しで批判する投稿のリツイート」(池田氏)。
新型コロナウイルスの感染拡大が今後、さらに深刻化すれば、「リツイートをしただけで『リツイートした人も同罪』だと、たたかれる人が出てくるかもしれない」と池田氏は危惧する。だからこそ「信ぴょう性のない情報をむやみに拡散することは避ける。善意であっても、それを発信すべきなのか、発信したことによって誰にどういう影響が出るのか、想像力を働かせる」のが肝要だと指摘した。
自らが投稿者となる場合も、人種、ジェンダー、政治的な投稿は極力控えたほうが無難だ。とりわけ、新型コロナウイルスに関する投稿は、特に細心の注意を払うべきだという。「そもそもコロナに関して一般人は誰しも専門知識を持っていない。発信したところで嘘になる可能性のほうが高い。100%善意の投稿であっても(投稿を)思いとどまる勇気が必要」(佐々木氏)。
後編では、もし風評被害を受けた場合に、企業はどう対応するべきかに迫る。