20ドルのファミリーセットが大ヒット、しかし

藤一番グアムの20ドルのファミリーセット
藤一番グアムの20ドルのファミリーセット

 それが、チャーハン2人前、ギョーザ1人前、唐揚げ1人前、スパイシー枝豆、キムチなど、2~3人で食べられる通常32ドル相当の商品を20ドル(約2160円)にしたファミリーセット。ローカルマネジャーが提案し、1時間で試作、撮影、SNS投稿を完了させたそうです。

 これをInstagramに投稿すると瞬く間にSNS上で拡散され、投稿直後から店の電話が鳴りやまない状況となります。

 喜びもつかの間、この後大きな問題が起きるのです。大量の電話注文により、店の電話回線がパンクしてしまいました。これにより「何度電話をしてもつながらない」「宣伝をしておいて、注文を受けないとは何事だ」といったクレームが殺到してしまいました。中には「この商品投稿はフェイクニュースだ」といった大変厳しい意見もあったそうです。

 「少しでもグアム島の皆さんのためになれば」という思いからスタートしたテークアウト販売でしたが、結果的に大きなクレームを招いてしまいました。安田社長はSNS上でのお叱りに対して1件ずつ、丁寧におわびをしていきました。

 こうした厳しい状況の中、安田社長は店内スタッフとミーティングを繰り返し、どんどん現場改善をしていきます。

 最初に行ったのが電話回線の増強。事務所で使用していた電話回線をテークアウトの予約回線に割り当てました。また電話対応を行う専用スタッフを電話機1台につき1人配置。その他にテークアウトメニューのオペレーション改善、感染予防のために商品受け取り待ちの列を整理するスタッフの配置など、あらゆる対策を講じて日々オペレーションレベルを向上させていったそうです。

 そのかいあってか、今ではテークアウトのみで1日300食以上を販売する、グアム島一番の大盛況テークアウト店となっています。一時は休業すら考えていた同店舗はたった1週間程度で見事に営業形態を変え、「テークアウト繁盛店」となったのです。

 安田社長がテークアウトのみの営業を決意した理由が、実はもう1つありました。今回のロックダウン前には藤一番グアム店にも多くの家族連れが訪れていました。しかし島民の数少ない娯楽である外食が禁止され、さらに観光業が大きな収入源であった地元経済はほぼ活動停止に。多くの島民が休職、または失職し、大きな所得不安を感じるようになっていました。

 そんな中、安田社長は「長年、地元の人たちの家族団らんの場を提供してきた我々だからこそ、できることがあるのではないか。店内でそういう場を提供できないのであれば、自宅で家族団らんできるメニューを考えてテークアウト販売をすれば、喜ばれるのでは」と考えたそうです。

 今回の取材を通じ、飲食店コンサルタントとして多くのことを学ばせていただきました。ロックダウンという厳しい状況の中で再び繁盛を実現した同店の戦略を、私なりにまとめてみました。

ロックダウンでも繁盛する飲食店から学ぶ“4つの大切なこと”

(1)店の存在意義を考える
 ロックダウンに伴って休業した他店と同様、安田社長も一時は店舗営業を諦めかけていました。しかし自分たちの店の「グアム島民の家族団らんの場」としての存在意義を改めて感じ、自宅での家庭団らんを提供する=テークアウト販売だけでも営業する決意を固めました。

(2)顧客のニーズを考える
 観光産業がメインのグアム島でのロックダウンは、経済活動の停止を意味しています。多くの島民が所得や先行きに大きな不安を抱える中、20ドルのファミリーセットという「価格の明確さ」「品目の明確さ」「ボリュームの明確さ」を打ち出したことで、顧客のニーズと見事に合致した商品を開発できました。

(3)いつでもタイムリーに情報発信できる環境を作っておく
 当たり前のことですが、せっかく良い商品を用意してもその商品を知っていただかないと意味がありません。そういった意味では藤一番は日ごろからSNSなどを使った情報発信を小まめに行っていました。同店のInstagramのフォロワーは2500人を超えています。既に多くのフォロワーがいたため、ロックダウンが発表された直後に投稿したテークアウト販売開始の案内には250件以上のコメントが寄せられています。

(4)店舗のオペレーションを構築する
 安田社長も今回のテークアウト販売では「当初は多くのお客様に迷惑をおかけしてしまった」と言っていました。通常とは違う営業形態でスタッフも慣れていない状況下では、さまざまなトラブルが発生します。こうしたときに店舗スタッフが一丸となって問題解決に向けたミーティングなどを繰り返し、オペレーションを改善していくことが重要となります。そして、もし顧客に迷惑をかけるような状況があれば、真摯におわびをすることも重要です。

 安田社長は取材の最後に、「ロックダウンが長引く中でお客様もメニューに飽きてくると思うので、今後は新メニューやデザートの販売に向けて商品開発に力を入れていきたい。今回のことをきっかけに、今までよりもっとお客様に支持される店になりたい」とおっしゃっていました。

 外食は家族の団らんや仕事仲間とのリラックスした会話の時間、大切な人との豊かな時間を提供しています。こんな素晴らしい役割を担っている多くの店が存続の危機を迎えています。安田社長のように、「異国の地でのロックダウン」という大変厳しい状況の中でも諦めずに戦っている飲食店経営者の奮闘を伝えることで、少しでも皆様の活力になれば幸いです。