新型コロナウイルスの感染が広がるなか、不要不急の外出を控える消費者との間をオンラインでつなぎ、新たな関係性を生み出そうと試みる動きが出てきた。このほど企業5社が協賛する「オンライン花見」が、ビデオ会議システム「Zoom」を使って開催された。そこで目にした今までにないコミュニケーションの姿の中に、今後企業がどう消費者と対峙すべきかのヒントが隠されている。
「今日私が作ったのは、これ。庭に生えている山椒(さんしょう)の新芽を摘んで、牛肉とたけのこを、この万能つゆでいためたんです。簡単でおいしいですよ」「わぁ、おいしそう。今度やってみよう」
「今日の私の一番のお薦めは、アボカドのぬか漬け。食べてみると、チーズみたいで、お酒に間違いなく合うんですよ」「これは、ぜひ食べたいかも」
2020年3月25日のお昼時、この日初めて顔を合わせた7人がビデオ会議システム「Zoom」を使って“オンライン花見”に挑戦した。仕掛け人は、料理写真共有アプリ「SnapDish」を運営するヴァズ(東京都武蔵野市)。「せっかく桜が満開の季節がやってきたのに、新型コロナウイルスの感染拡大で多くの消費者が外出すらままならない。なんとかオンラインで消費者をつないでお花見ができるようにし、しかもせっかくやるなら単にリアルの置き換えではない新しい体験を生み出したいと考えた」。代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者)の舟田善氏は狙いをこう話す。
2019年12月末時点で226万ダウンロード、投稿写真数は2300万枚に上る料理好きが集うSnapDishの利用者だけに、それぞれが作った料理を互いに紹介し合い、料理談議に花を咲かせた。初開催ということで今回は、ヴァズが指名したメンバーに声をかけ、参加を依頼した。
開催に当たって、いくつかのビデオ会議システムをテストしたが、簡便な使い心地で老若男女問わず、“輪”に加わってもらいやすいZoomが最適だと判断。開催者の側からしても、特別な手間がかからず手軽に配信ができる点も評価したという。
協賛企業が自宅に食材・商品を事前配送
盛り上がりを見せた理由として、実はちょっとした仕掛けがある。企業に協力を仰ぎ、料理に使える食材や商品を無償提供してもらい、「おうちでお花見体験キット」として事前に参加者の自宅に配送したのだ。協賛したのはオイシックス・ラ・大地、サントリーコミュニケーションズ、マルコメ、森永乳業、ヤマサ醤油の5社。例えばマルコメは、20年3月上旬に発売予定の「プラス糀(こうじ) 発酵ぬかどこ」を先行提供。パックに入ったぬか床の中に好きな野菜を入れるだけで、手軽にぬか漬けが作れる商品だ。冒頭の参加者の会話は、こうした企業の食材や商品を使って自ら考えたレシピを披露している実際の場面のものだ。
加えて植物SNS運営のGreenSnap(東京・中央)にも声をかけ、「桜の苔(こけ)玉」を手配してもらった。そして、参加者にこちらも無料で配った。桜が芽吹いていく様子を自宅で楽しみながら、思い思いのレシピをあれこれ考えて当日を迎えてもらうアイデアである。料理好きという共通点に加えて、指定食材を使った料理を事前に作る“お題”をこなした上でZoom会議に臨むので、初対面ながらすぐに打ち解け合うことができたわけだ。
お花見中は、自分の顔と一緒に桜の苔玉が映るようにカメラの位置を調整するルールを設けたのもポイントだ。自分を含む7本の桜が満開な様子を、それぞれ画面越しに楽しみながらおしゃべりに興じた。とかく殺風景になりがちなビデオ会議システムだが、おかげで華やかな空気感を演出できた。
最初に行った乾杯に使うビールも一工夫。サントリーコミュニケーションズが提供した「ザ・プレミアム・モルツ」と最新型の「神泡サーバー2020」を組み合わせ、全員がその場できめ細かい泡のビールをグラスに注いで“エア乾杯”をした。とにかく、オンラインでも体験を共有して分かち合えるように、事前に様々な仕込みを用意したのだ。
この施策のおかげで、30分で終了するはずが、気づけば20分以上オーバー。「そのバルサミコはどこで買えるの」「ハーブを使ったお薦めの料理はないかな」。運営側は、7人が順番に自己紹介しながら自分のレシピを紹介していく段取りを組んでいたが、誰かがレシピを紹介するたびに話は様々な方向に脱線し、園芸や好きな植物についての話題に及ぶこともしばしば。大いに盛り上がったまま、オンライン花見は終了した。
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