吉野家ホールディングスは2020年2月、スマートフォンで注文すると店舗で商品を受け取れるモバイルオーダーサービスの全国展開を始めた。17年に開発に着手。19年4月から約1年間の実証実験を経て、ようやくの全国導入だ。なぜそれほど時間をかけたのか。その理由を伊東正明常務が語った。

吉野家ホールディングスは2020年2月14日から、ネットで事前注文して店舗で受け取れるモバイルオーダーサービスの全国展開を始めた
吉野家ホールディングスは2020年2月14日から、ネットで事前注文して店舗で受け取れるモバイルオーダーサービスの全国展開を始めた

 「他社に比べてモバイルオーダーの導入が遅れたのは事実。検討を始めた17年から本格導入まで、3年もかけてしまったのはお恥ずかしい限りだ」

 先行してモバイルオーダーを導入している企業がいるなか、なぜこのタイミングでの導入だったのか。そう問われた伊東常務はこう認めた。ただ、その背景には戦略的な理由がある。

 それを説明する前に、新たに導入したモバイルオーダーの仕組みを紹介しよう。

 モバイルオーダーは、牛丼などのテークアウト商品をスマートフォンで事前に注文して店舗で受け取れるサービス。注文は吉野家のサイトから行う。店舗検索ページから最寄りの店舗を検索。店舗を選択後、「スマートフォン専用 テイクアウト注文へ」ボタンをタップ。受取可能な時間を確認して注文に進む。検索サービス「Google」の検索結果に表示される近隣の店舗情報とも連携しているため、検索結果から直接注文画面に遷移できるのも特徴だ。

検索サービス「Google」の検索結果に表示される近隣の店舗情報から、直接、モバイルオーダーサービスに遷移できる
検索サービス「Google」の検索結果に表示される近隣の店舗情報から、直接、モバイルオーダーサービスに遷移できる
メニューから注文したい商品を選択する
メニューから注文したい商品を選択する

 画面の指示に従って、商品や受取希望日時を選択する。日時は注文から30分後以降で指定できる。また、当日だけでなく翌日受け取りの予約注文も可能だ。時間を指定しない場合には、最短の受取時間が設定される。最後に携帯電話番号を入力して注文を確定すると、注文情報や注文番号の記載されたSMS(ショート・メッセージ・サービス)が登録した電話番号宛てに届く。会計は店舗で商品の受取時に行う。画面に表示されたバーコードをレジで提示する、または注文番号を伝えて代金を支払って商品を受け取る。こんな具合だ。

最優先は「オペレーションを変えないこと」

 このモバイルオーダー、吉野家は17年に開発に着手した。さらに全国展開に先駆けて、19年4月から東京・青山の1店舗で実証実験を重ねた。それほど慎重に進めたため、冒頭の伊東常務の言葉通り提供が遅れた。その最大の理由は「店舗オペレーションを変えないこと」だ。

 モバイルオーダーの導入によって店舗の作業が増えると、料理の提供スピードが低下したり、ミスが起きたりするといった恐れがあった。吉野家のような回転率が高い業態の場合、そのわずかな負担の増加が店舗効率に大きな影響を与えかねない。だから「オペレーションはこれまでと何も変えない」(伊東常務)ことにこだわった。そのために様々な工夫を施して開発した。

 まず、POS(販売時点情報管理)レジとの連携だ。店舗の注文とネット経由の注文を一元管理できる基盤の開発を目指した。ただし、レジ開発会社にとってレジを介さない新たな決済サービスは競合になるため、率先した連携は望まないだろう。そこで手を組んだのが決済ソリューションを提供するShowcase Gig(東京・港)だ。同社はPOSレジ大手の東芝テックと資本業務提携を結んでいる。そのため、吉野家が導入する東芝テック製POSレジとの連携を開発しやすかった。

 POSレジとの連携により、ネット経由の注文もリアル店舗で注文を受けた場合と同じように処理できるようになった。ネット経由の注文情報は、受け渡し時間の10分前に店舗での注文と併せてキッチンに受け渡される。調理する側は順番に料理を提供するだけでよいため、作業はこれまでと変わらないわけだ。

真の狙いは吉野家流オムニチャネル基盤構築

 こうして開発されたのが「オンラインオーダー基盤」である。今回、吉野家が目指したのはモバイルオーダーの導入ではない。真の狙いはさまざまなチャネルに対応するための基盤整備だ。POSレジと連携したオーダー基盤の構築によって、どのチャネルから入った注文も実店舗で受けた注文と同列で処理できるようになった。Webサイト上で受けるモバイルオーダーは、最大公約数に対応するための最初のチャネルにすぎない。

有料会員になると全記事をお読みいただけるのはもちろん
  • ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
  • ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
  • ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
  • ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー
ほか、使えるサービスが盛りだくさんです。<有料会員の詳細はこちら>