靴磨き世界チャンピオンの称号を持つ長谷川裕也氏が、独自のプリペイド型電子マネーを活用したファンマーケティングに乗り出し話題を集めている。最大の特徴は、ポイント還元でお得感を演出するだけでなく、利用回数が多い顧客ほど特別な体験ができるロイヤルカスタマー醸成術にある。1足当たりの料金が指名料込みで6000円にもかかわらず、ひっきりなしに予約が入る同氏が考えるファン獲得のための哲学とは。

2017年5月に英国ロンドンで開かれた大会「ワールドチャンピオンシップ・オブ・シューシャイニング」で優勝した長谷川裕也氏。最近は海外で開かれる大会の審査員に招かれるなど、ますます知名度が上がっている。2020年3月17日にはNHKの人気番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」にも登場(写真/村田 和聡)
2017年5月に英国ロンドンで開かれた大会「ワールドチャンピオンシップ・オブ・シューシャイニング」で優勝した長谷川裕也氏。最近は海外で開かれる大会の審査員に招かれるなど、ますます知名度が上がっている。2020年3月17日にはNHKの人気番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」にも登場(写真/村田 和聡)

 「導入から2カ月間で、来店客の約30%に当たる170人がカードを作成した。作った全員が独自の電子マネーで支払ってくれた」。長谷川氏は驚きを隠せない様子だ。同氏は東京・青山の「Brift H(ブリフトアッシュ)」など、靴磨きショップ2店舗を運営するBOOT BLACK JAPAN(東京・港)で社長を務めている。

 長谷川氏の靴磨き職人としてのキャリアは、20歳のときに地元千葉・木更津の100円ショップで手に入れた靴磨きセットを携えて、降り立った東京駅丸の内北口前の路上でスタートした。3日間日雇いの仕事にあぶれて所持金が2000円となってしまい、困った揚げ句にすぐにお金になるかもしれないと思いついて始めたビジネスだった。

 それから十数年。今では、ドレスシューズ愛好家では知らぬ者がいない、日本の靴磨き職人のフロントランナーだ。2017年5月に英国ロンドンで開かれた大会「ワールド・チャンピオンシップ・オブ・シューシャイニング」で優勝したこともあり、その名は世界にもとどろいている。

長谷川氏の靴磨き光景。20歳のときに初めて路上に立った日、同氏は朝8時から夜10時まで働き、初日の売り上げは7000円だった。当時の日雇いの仕事と同じだけ稼げたことから、「これは面白いビジネスだ」と確信したという(写真/村田 和聡)
長谷川氏の靴磨き光景。20歳のときに初めて路上に立った日、同氏は朝8時から夜10時まで働き、初日の売り上げは7000円だった。当時の日雇いの仕事と同じだけ稼げたことから、「これは面白いビジネスだ」と確信したという(写真/村田 和聡)

 長谷川氏に靴磨きを依頼すると即日仕上げなら、1足4000円(税別)に指名料として2000円が上乗せされる。にもかかわらず、予約が次々と埋まるというから驚きだ。Brift Hなどを訪れた客はまるでバーのような専用カウンターに通され、たっぷり1時間かけてぴかぴかに自分の靴を磨き上げてもらえる。

 今回同氏が独自の電子マネー「Shoeshine Member's Card」を発行しようと考えたのは、靴磨きをより多くの人に日常生活の中で当たり前のように取り入れてもらい、日本発の文化として根付かせたいという強烈な思いがあったからだ。

 Shoeshine Member's Cardを使うには、交通系電子マネーのようにまずチャージする必要がある。1000円ごとに5%分が上乗せされ、利用すると100円ごとに1ポイントがたまる。1ポイントは1円で靴磨き代金などに充当できる。しかしながら短期間に170人もの顧客がこの店でしか使えない電子マネーに飛びついたのは、単にお得感だけが理由ではない。

ためたポイントでしか交換できない「特別な体験」

 実は、ポイントでしか交換できない特別な体験型サービスが目当てなのだ。例えば極意を直接学べる「靴磨きグループワークショップ」(120分)、1対1で教えを請う「靴磨きマンツーマンレッスン」(90分)、買い物指南を受けられる「靴磨き職人といくショッピング同行」(120分)などがある。グループワークショップに参加するには400ポイント、マンツーマンレッスンを長谷川氏に依頼するには1200ポイントを集める必要がある。

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