社員5000人全員がテレワーク可能な体制で、月間5500回もの会議・打ち合わせを遠隔地の相手を交えて実施――。NECのグループ会社、NECネッツエスアイはIT活用による働き方改革の先進企業だ。その取り組みは、新型コロナのような事業継続リスクへの対策としても要注目だ。

NECネッツエスアイが活用するテレビ会議システム。新型コロナ対策としても企業からの関心が高まっている
NECネッツエスアイが活用するテレビ会議システム。新型コロナ対策としても企業からの関心が高まっている

 年間1万人以上が東京・飯田橋にある本社オフィスを見学に訪れるNECネッツエスアイ。NECのグループ会社で、システム構築を手掛けることから積極的にITを活用し、業務の効率化を進めてきた。例えば、東京本社と大阪、名古屋など各地の拠点、同社の社員が個別に持つPCやスマートフォンがビデオ(テレビ)会議システムでつながれ、月間5500回もの会議・打ち合わせが遠隔地の相手を交えて行われている。17年7月にはテレワークも導入済みで、約5000人に上る全社員がテレワーク可能な態勢となっている。

 こうした取り組みは、新型コロナへの対策でも効果を発揮している。同社では20年3月31日までの期間について時差通勤の推奨だけでなく、管理職と各社員が個別に相談し、可能な限り多くの社員がテレワークに移行するよう指示が出た。各部署の長に対しては、「やむを得ず出社する場合は、在籍人数の半分以下にするようにという指示も出た」(同社CSRコミュニケーション部の楓 慎一氏)という徹底ぶりだ。5000人という大所帯ながら、なぜスムーズにテレワークに移行できたのか。

 まず重要なのは、あたかも実際に会って話しているようなテレワーク環境だ。同社主要拠点のフロアには大型・小型モニターがいくつも設置されている。特に大型モニターには互いの姿はほぼ等身大で映し出せるので、テレワークをあまり意識しないで話すことができ、密なコミュニケーションが可能だ。部署間やチーム内の連携がスムーズになるのと同時に、出張に伴う費用や時間を節約できるメリットもある。

 また驚くのは、本社などのフロアのモニターで社長室の様子までのぞけること。社内向けとはいえ、ネット上で公開するのは同社の牛島祐之社長が風通しの良い社風を目指しており、社長自ら実践することで、意識改革を進めたいと考えているためだ。

 ビデオ会議システムは、「Zoom」を使用。NECネッツエスアイは代理店として同システムを販売しており、自社内で積極的に導入することでそのノウハウを蓄積しているのだ。「今回の新型コロナへの対策としても注目され、企業からの問い合わせが増えている」(楓氏)という。

通勤30分以内のサテライトオフィス

 19年10月からは「働き方改革」の一環として、横浜や武蔵小杉、立川など社員たちが自宅から平均30分で通勤できる場所7カ所にサテライトオフィス(同社では「アクティビティベース」と呼んでいる)を設置。20年3月までに本社勤務の人事や総務、経理などのスタッフ約400人のうち、7割を異動させる予定だ。「通勤で疲れてしまっては、新しいことを学ぶ時間も作れない」(牛島社長)という問題意識からで、社員を“通勤地獄”から解放するだけでなく、スキルアップによる生産性の向上も目指している。

 郊外のオフィスで働くといってもビデオ会議システムでつながっているので、本社の上司にも気軽に相談ができる。サテライトオフィス移動後も人事部門で働くスタッフにとっては、本社の人事部長が上司であり、経理部門で働くスタッフにとっては経理部長が上司のままだ。さらに横浜や武蔵小杉、立川など新設された7つのオフィスと本社のスタッフフロア、社長室は常時接続され、互いにビデオ会議システム上でつながっている。互いのオフィスの様子がすぐに分かるので、一体感を保ちやすい。

全社員がテレワークに対応している
全社員がテレワークに対応している
NECネッツエスアイの牛島祐之社長
NECネッツエスアイの牛島祐之社長

働き方改革への不安を取り除く

 もっともテレワークやサテライトオフィスを導入するだけで企業が改革できるほど、話は単純ではない。上司や同僚から離れた場所で働くことに、部下の側は「上司が自分の働きをきちんと評価してくれているのか」という不安を抱く。一方で、上司の側も「部下はちゃんと働いているのか」気がかりだ。そこで管理職が物理的に離れた場所で働く部下をどう指導して評価すべきかマニュアルを整備するといった、ソフトの面での対策も進めてきた。例えば、部下の報告を待つのでのはなく積極的なコミュニケーションを取る心構えを、管理職にはあらためて求めている。具体的にはテレワークなどで働く部下ともテレビ会議や電話、社内SNSを使った1対1のミーティングで情報共有を密に行うといったことだ。

 さらにテレワークとサテライトオフィス導入の鍵はペーパーレスだという。20年中には顧客向けの契約書や請求書くらいしか紙の書類はないという状態を目指している。10年に本社を現在の場所に移す際には、部署間をさえぎる物理的な壁のない大部屋タイプのオフィスに変更。同社ではこうした取り組みを「時間と場所の自由化」と呼んでいる。

 様々な働き方改革の取り組みで、20年中に17年比で社内業務の作業量を半分に減らし、営業職が顧客対応に使える時間は2割増やすことが目標だ。社員にIT活用での作業時間削減効果をアンケートしたところ、年間(17年と18年の比較)で社員1人あたり平均月間6時間にもなったという。

社内の風通しの良さ=生産性を高める

 現在、同社が目指しているのがイノベーションを生み出す生産性の高い組織作りだ。そのためには部署間の業務の垣根を越えた情報共有や協力がより重要になる。

 そこで同社が活用に力を入れているのが社内SNSの「Slack」。しかし、日常業務に追われる社員は、なかなか新しいツールを使わない。そこで、2019年12月にはSlackを活用する全社イベントを開催した。約5000人いる全社員をランダムに5~9人のグループに分けて、非公開のチャネルで「自社の好きなところ、嫌いなところ」を議論した。

 狙いは2つある。1つは誰でも意見があるテーマについて書き込んでもらうことで、Slackの便利さを知ってもらうこと。そして、もう1つが組織の壁を越えて自由な意見を言える場を作り、より風通しの良い会社を作ることだ。Slackでの少人数グループによる議論実施後に、匿名でアンケートが実施され、経営陣に聞いてみたい質問が集められた。その回答もSlackを通じて行った。こうした努力もあり、同社のSlackアクティブユーザー比率は19年12月の時点で「イベント前の7割から8割に増加した」(Slack活用のイベントを担った同社の北川龍樹氏)。

 社内の連携を密にする取り組みと同時に進めているのが、外部との連携によってイノベーションを生み出すことだ。20年2月10日には東京・日本橋に新拠点「イノベーションベース」を創設。米国のシリコンバレーにあるスタートアップ支援企業とも連携し、新技術や新商材の発掘を進める。その密なコミュニケーションに役立つのが、同社にとって既に使い慣れたビデオ会議システムだ。同社の主力事業の1つは通信工事関連。20年の夏には川崎に技術センターを作る予定で、研究のメインテーマは5G関連となる。こちらでも社外との連携を重視している。

 同社は本社スペースとして東京・飯田橋のビルを12フロア借りていたが、それを郊外へのサテライトオフィス設置によって4フロアまで減らすことができた。節約したコストで、東京・日本橋や川崎のオフィスの賃料をまかなっている。働き方改革はコストの面でもイノベーションを高める取り組みに貢献している。

 時短から生産性の向上、新型コロナのような事業継続リスクへの対処までIT活用による「働き方改革」の効用は幅広く、今後さらに注目されていくはずだ。

NECネッツエスアイの本社。大型のモニターが並ぶ
NECネッツエスアイの本社。大型のモニターが並ぶ

(写真/NECネッツエスアイ)

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