千葉県南部、人口5万人に満たない富津市が、SDGs(持続可能な開発目標)の“聖地”になろうとしている。東京湾アクアラインを使えば、都心から1時間ほどと近く、まとまった敷地も確保できるとして、廃棄物を資源に変えるリサイクル関連企業が集積。「BtoB版のメルカリ」を目指すスタートアップも進出した。
浦安から東京湾に沿って広がる京葉工業地帯。その一角を担う富津市の工業団地に2019年11月末、広大なリサイクルセンターが開業した。敷地面積は東京ドーム1.6個分の約7万7000平方メートル。BtoBのフリマアプリ「ReSACO(リサコ)」を運営するトライシクル(東京・大田)の新たな拠点だ。
「ここは、日本最大級の中古品リサイクル用地になる。テクノロジーと現場力を融合し、サーキュラーエコノミー(循環経済)の担い手となりたい」。トライシクルCEO(最高経営責任者)の福田隆氏はそう力説した。サーキュラーエコノミーとは、廃棄物を資源に変えて循環させ続ける経済モデルのこと。その一翼を担うべく名乗りを上げたのだ。
ReSACOは、オフィスや店舗の移転、備品の買い替えなどで不要になったアイテムを企業間で出品、売買できるアプリとして、19年1月にリリースした。目指すは「BtoB版のメルカリ」だ。写真を撮るだけで参考価格をはじき出す「AI(人工知能)査定」機能を備え、仮に買い手がつかなくても、資源リサイクルに回したり、産業廃棄物(産廃)として処分したりする手続きがアプリ上で行えるのが特徴だ。
トライシクルの母体は、1902年に創業した老舗の産廃処理業者、東港金属(東京・大田)。大田区京浜島に産廃処理工場を持ち、2007年には富津市にも4万平方メートルを超す敷地を確保して工場を増設した。今回のリサイクルセンターは、富津市内2カ所目の拠点となる。
なぜ富津なのか。東港金属の社長も兼ねる福田氏は「サーキュラーエコノミー・シティーとしてのポテンシャルが非常に高いから」と説明する。
実はこの富津市の工業団地には、東港金属、トライシクル以外にも、サーキュラーエコノミーを担う企業が密集している。
汚れた使用済みカーペットを再生原料に変える独自技術を持つ東証マザーズ上場のリファインバースや、再生ドラム缶を製造する日本ドラム(東京・中央)、さらにはトーヨーメタル(愛知県豊橋市)、エス・イーティ(埼玉県所沢市)、岡本産業(千葉県君津市)など有力企業が次々と進出。プラスチック包装を物流パレットに再生するエム・エム・プラスチックやリ・パレット、産廃処理から建物の解体までを担う大滝商会の3社は、富津に本社を構えている。
「関東全域あるいは東日本全体を見回しても、1つの工業団地の中に、これだけの先進的なリサイクル企業が集まっている地域はおそらくない」(福田氏)
多彩なリサイクラーが一堂に集まり、リサイクルから処分までワンストップで完結する。巨大市場の首都圏に近接し、広大な用地も確保できる。東京湾アクアラインの通行料が大幅に値下げされ、港にも面しているなど、物流網にも恵まれている。これだけの要素がそろった場所は他にない、というわけだ。
「エコテック」で環境産業を変える
福田氏は2002年、28歳で家業である東港金属の4代目社長に就任した。新たな取引先を次々と開拓し、03年6月期には10億円だった売上高を、18年6月期には73億円まで引き上げた。しかし、事業規模が大きくなるにつれ、疑問を抱くようにもなった。大量回収、大量廃棄した「ごみ」の中には、まだ使える「資源」が数多く眠っている。これを再び流通に乗せることはできないかと、18年にトライシクルを創業した。
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