丸井グループは百貨店型からショッピングセンター(SC)型へと業態転換を進めてきた。しかし、それは店舗改革の序章にすぎない。転換の完了を期に、2020年以降は「デジタル・ネイティブ・ストア」戦略を本格化する。D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)は戦略の要だ。丸井に出店するD2Cブランドは、オンラインとオフラインの併用者の顧客単価を2倍以上にするなど成果が出ている。

シャンプーのD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)を展開するSparty(東京・渋谷)は、有楽町マルイに頭皮や髪を診断する店舗を設置
シャンプーのD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)を展開するSparty(東京・渋谷)は、有楽町マルイに頭皮や髪を診断する店舗を設置

 「アフターデジタルによる変化によって、主力事業の店舗は根本的な見直しを迫られている。ただ買うだけなら、いつでもどこでも買えるネットが圧倒的に便利。わざわざ店舗に出向くのはストレスになりつつある。そういう時代に、単にモノを売るだけの店舗は、果たして存続できるのか。アフターデジタルに合ったった価値を提供できる店舗に進化しなければならない」

 丸井グループの青井浩社長は危機感をにじませ、店舗を「デジタル・ネイティブ・ストア」へと進化させることを急ぐ。その戦略の要となるのがD2Cだ。前回の青井社長へのインタビュー記事(関連記事「丸井の青井社長が語る「売らない店」戦略 b8ta出資に3つの理由」)に続いて、今回は丸井と協力して事業を進めるD2C事業者に焦点を当てたい。

丸井に7店舗を展開するショールーム型店

 「実店舗とオンラインを併用する顧客の客単価は、オンラインしか利用しない顧客と比べて2倍以上の4万~5万円になる」

 こう明かすのは、スーツのD2Cを手掛けるFABRIC TOKYO(東京・渋谷)の森雄一郎社長だ。同社は19年5月に丸井グループと資本業務提携を発表。丸井に7店舗を出店するなど、実店舗の活用を強化している。同社の店舗の特徴は「売らない店」であること。オーダースーツをつくるために必要な体の採寸とサンプルの展示だけに特化したショールーム型店舗だ。「常に意識しているのはモノを販売することより、体験を通じて顧客としっかりつながること」だと森社長は言う。採寸後、実際にスーツを注文するのはオンライン経由。そのため、「店舗責任者は担当店舗の売り上げすら把握していない」(森社長)というから驚きだ。

FABRIC TOKYO(東京・渋谷)は丸井に7店舗を展開。店舗とオンラインを併用する顧客は客単価が大きく伸びる
FABRIC TOKYO(東京・渋谷)は丸井に7店舗を展開。店舗とオンラインを併用する顧客は客単価が大きく伸びる

 その効果はオンラインで計測する。指標の1つが顧客単価だ。中長期的には、利用の継続率やLTV(顧客生涯価値)なども店舗を評価する指標になる。FABRIC TOKYOは丸井が目指す、未来型店舗の端的な例だ。

 D2CはECサイトやSNSなどのデジタル技術を駆使した販売や集客、顧客との関係性構築に自社で取り組む。その名の通り、顧客に直接商品を届ける新たなブランドビジネスだ。オンラインをブランドの出発点とするD2Cブランドは、データ活用にたけた企業が多い。「データサイエンティストを多く抱えているところもあり、テック企業とみられることもある」(丸井グループの加藤浩嗣常務)。

 顧客と直接つながることで得たマーケティングデータを活用して商品を改善したり、SNSなどで顧客から直接商品のアイデアを募ったりする。それにより単なる顧客とブランドの関係を超えたコミュニティーの輪となって事業を拡大していく。

 D2Cブランドが実店舗を活用する最大の目的は、店舗での体験を通じて顧客とのエンゲージメント(関与)を高めること。オンライン発のD2Cブランドは、実際に商品に触れてみたいという顧客ニーズに応えるために体験の場として店舗を活用する。

 このとき店員は売る、顧客は売られるというプレッシャーから解放されれば、店員と顧客のコミュニケーションの活性化が期待できる。それによって商品・ブランドに対する理解を促進し、結果的にオンラインでの購入、顧客単価やLTVの増加につなげる。FABRIC TOKYOはその成功例だ。そのためD2Cブランドの中で、実店舗への出店意欲が高まっている。

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