沖縄北部に世界的なテーマパークを築く構想が大きく前進した。大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)を再建した森岡毅氏率いるマーケティング精鋭集団「刀」が、大和証券グループ本社と資本業務提携を締結。2024~25年の開業を目指す。

がっちりと握手する大和証券グループ本社の荻野明彦専務執行役(左)と、刀の森岡毅CEO(最高経営責任者)
がっちりと握手する大和証券グループ本社の荻野明彦専務執行役(左)と、刀の森岡毅CEO(最高経営責任者)

 今、日本で最も脚光を浴びるマーケター集団と、日本を代表する総合証券会社が、がっちりと手を組んだ。2020年1月30日、東京・丸の内の大和証券グループ本社に現れた刀の森岡毅CEO(最高経営責任者)は開口一番、こう言った。

 「刀の資本を増強する」。大和証券グループ本社が140億円を刀に注入し、出資比率にして3分の1超を握る筆頭株主に躍り出た。

 第1弾として挑むのは、沖縄北部での新テーマパーク建設。森岡氏がUSJ時代から温め続けた構想が、いよいよ前に動き出す。140億円のうち30億円を準備会社ジャパンエンターテイメント(那覇市)に出資し、刀がジャパンエンターテイメントの筆頭株主としてパーク開業をリードする。

 ジャパンエンターテイメントには、刀と近鉄グループホールディングス、沖縄からはオリオンビール、リウボウ、ゆがふホールディングスなどが参画する。パークの建設予定地は、今帰仁村と名護市にまたがるオリオン嵐山ゴルフ倶楽部。24~25年の開業を目指し、既に環境影響評価(アセスメント)に入った。

 「多くの沖縄の方々、多くの企業の力添えで何とかここまでたどり着いた。ついに沖縄北部にテーマパークを建てられる。我々の願いが1つかなう」。森岡氏は期待感を口にすると共に、こう言葉を継いだ。

 「このテーマパークは、沖縄のためにもちろんなるが、沖縄の1プロジェクトではない。日本国をよくしていくための大きな仕掛けの第一歩になる。このジャパンエンターテイメントという会社が大きくなれば、必ず未来の日本に貢献できる。50年後、100年後の日本のために植え付けた小さな、しかし貴重な種だ」

 そう言い切る根拠がある。森岡氏が引き合いに出したのはハワイだ。「ハワイは今や、世界の観光の宝石になった。しかし、1960年のハワイには軍港しかなかった。志のある米国人と志のある投資家がビジョンを描き、50年かけて今のハワイに変えた。これは奇跡としか言いようがない。米国人に戦略と投資と志があったからだ」。

 人々が遠いと感じる移動距離は3時間だとされる。日本からハワイに行くと片道8時間前後はかかる。それほど遠い南の島に、沖縄本島とほぼ同等の観光客が毎年押し寄せるのである。

 「ハワイから半径3時間で円を描いても、イルカしか住んでいない。沖縄から半径3時間で円を描けば、アジアの3億人近い人口が入ってくる。地政学的に沖縄は奇跡。貿易と観光でちゃんと稼いでいけるようにと、神様から恵まれたような場所。だからこそ、日本人として沖縄にノウハウと資本と志を注入したい。沖縄を、ハワイを超える存在にできる。日本にとっても素晴らしいプロジェクトになる」(森岡氏)。

「大自然」で人間の本能を揺さぶる

 森岡氏の頭の中には、既に1つの解がある。キーワードは「大自然」だ。「新テーマパークの投資規模は500億円から1000億円の間になる。沖縄北部には沖縄美ら海水族館という素晴らしい水族館があるので、あえて『やんばるの森』に焦点を当て、沖縄の魅力を増やし、観光客が増える構造をつくる」という。

 メインターゲットは旅行客、とりわけアジアの富裕層だという。「お金を持っている方は刺激に飢えている。なぜ大自然なのかというと、東京で味わえないから。刺激に満ちた価値を、プレミアムな体験として提供し、気持ちよくお金を使っていただけるようにする」(森岡氏)。

 具体的には「人間の本能を揺さぶる興奮」を売るという。「大自然というフォーマットの中で、人々が興奮する仕掛けを研究し、さまざまなコンセプトテスト、需要予測を繰り返している。我々のパークの概要を知れば『これは沖縄により行きたくなるコンセプトだな』『ここに行くがゆえにもう1泊連泊し、沖縄北部に泊まろうという気になるな』とご理解いただけると思う」と森岡氏は自信を見せた。

 なぜ沖縄でも北部なのか。それは高いポテンシャルがありながら、経済的な問題を抱える地域だからだという。「1人当たりの所得、雇用率、進学率、失業率などさまざまな指標にも表れているが、沖縄北部には一言で言って、魅力ある事業が、仕事がいる」(森岡氏)。

 たとえ1企業でも社会は変えられる。そのことを森岡氏は、身をもって経験した。「USJが成功したからこそ、大阪にさまざまな投資がもたらされ、1兆円規模のIR(統合型リゾート)計画も動き出した。沖縄北部への投資は魅力的だと、世界中のインベスターを振り向けるきっかけにしたい。つまりこれはジャパンエンターテイメントという1企業への純投資ではない。ホテルや医療サービスなど、さまざまな投資を呼び込むことで、沖縄北部を宝石のような地域に変えたい」。

 ゆくゆくは、ジャパンエンターテイメントの本社を現在の那覇市から名護市に移転することも考えている。「この会社が大きくなるには、沖縄北部に骨をうずめる覚悟を示さないといけない。北部に本社があれば地元に税収をもたらし、さまざまな雇用の創出で貢献できる。地域に持続可能な事業が生まれる」。森岡氏はそう強調した。

大和証券はなぜ140億円を出資したのか

 大和証券グループ本社が140億円の出資を決めたのも、刀の力強いビジョンにほれ込んだからだ。「日本の企業はまだまだマーティングが十分に普及しているとは言えない。マーケティング力を日本企業の成長に不可欠な要素としてとらえたい」と語るのは、同社専務執行役の荻野明彦氏。

 「刀は創業数年にもかかわらず、その実力によって多くの大企業から支援依頼を受けている。類まれなるマーケティングの実力と、我々が持つ国内外のネットワーク、経営リソース、投資やM&Aのノウハウを掛け合わせることで、新たな価値を提供できる」(荻野氏)。

 大和証券グループ本社は中期経営計画でハイブリッド戦略を掲げ、伝統的な証券ビジネスのノウハウを生かしながら、不動産、エネルギー、インフラ、フィンテック、ヘルスケア、農業など新分野へ事業を拡大してきた。

 今、可能性を感じているのは、観光だ。「観光業は年率10%を超える成長をしているが、十分に資金が回っていない。少子高齢化が進んでいるからこそ、訪日客の増加を再成長へのチャンスに変えたい。私の知る限り、集客施設の運営に関して、刀の右に出るものはない。USJをV字回復させた成功体験を地域の集客施設のブランディングに活用すれば、雇用の創出や地方創生にも資する」(荻野氏)。地域を活性化させるというこの1点において、刀と思いが合致したのだ。

 地域の金融機関や投資家にも声を掛け、1000億円規模のファンドを組成し、刀と共に地方創生を手掛けていくという。「刀の経営の自立性、独自性を尊重することを資本業務提携における基本姿勢としたい。刀の方々がその実力をいかんなく発揮できるよう、我々の経営リソースを活用して多方面からサポートしていきたい」。荻野氏は全面バックアップを誓った。

刀が描く成長戦略、3本柱とは

 強力な戦略パートナーを得て、刀は何を目指すのか。実は、沖縄北部の新テーマパークは、数ある計画の1つにすぎない。森岡氏は、3本の柱で日本社会に貢献すると表明した。

成長への3本柱について語る森岡氏(右)
成長への3本柱について語る森岡氏(右)

 1つ目はマーケティングのノウハウを普及させること。刀はマーケターを企業に送り込み、共に汗をかきながら実務に入り込む手法で事業を建て直してきた。「コストがかかるやり方のため、限られた大企業にしかサービスを提供できなかった。大阪のたこ焼き屋のような、経営規模が小さい企業ほど、実はマーケティングを必要としている。我々のノウハウをより扱いやすい形で使っていただけるよう、サービスのプロダクト化を進めたい」(森岡氏)。

 2つ目は、エンターテインメント事業をてこ入れすること。外貨を稼ぎ、日本の税収を引き上げる原動力になるからだ。森岡氏が特に可能性を感じているのは、日本のコンテンツである。

 「日本はクリエイティブの天才をたくさん育んできた。宮崎駿先生、手塚治虫先生、鳥山明先生、尾田栄一郎先生、諫山創先生…。多くの天才たちが、すさまじい傑作を生み出してきた。トランスフォーマーというクルマがロボットになるアイデアを発明したのはトミカ、バイオハザードも元々はカプコンのアイデア。アジアで最も人気があるコンテンツはミッキーマウスではなく、ドラえもん。キティちゃんも相当な人気がある。日本はこれだけのアセットを抱えながら、うまくマネタイズする仕組みが不足していた」

 沖縄北部を皮切りに目指すのは、海外に次々とテーマパークを建設し、こうした日本発のコンテンツを輸出。ライセンス収入という形で日本に還元される仕組みをつくることにある。テーマパークを建設するのに、USJや東京ディズニーリゾート(TDR)のように、1000億円を超す巨額投資は必要ないという。「世界には、1000億円未満の投資を回収できる商圏は何百とある。もし沖縄のテーマパークが成功し、これを10件建てることができたら、(TDRを運営する)オリエンタルランドを抜き、アジア最大のエンターテイメント企業ができあがる」(森岡氏)。

 沖縄の開業時点では、こうしたコンテンツを前面に押し出す予定はないというが、「このプラットフォームが大きくなったときには、日本のコンテンツをアジアに広げ、クリエイターも潤う、日本も潤う構造をつくっていきたい。そういう発展が遂げられるように、最初から設計図を描いている」(森岡氏)。

 3つ目は、出資を伴う経営支援だ。今回の資本業務提携により、刀自身が出資可能な会社に変わった。「出資を通して経営そのものに深く携わりながら、事業としてよみがえらせていく新しいポートフォリオを増やしていきたい」と森岡氏は力説した。

「30数振りの刀」企業価値1兆円へ

 この3つの柱がかみ合えば、「5~7年後にはEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)は500億円~800億円ぐらいになる。そのときには、刀の企業価値は1兆円になっている」(森岡氏)という。「従業員も数年間のうちに100人超まで増やしたい」とも付け加えた。

 これまでは「当代きっての実績を持ったマーケターをリクルートし、我々と価値観と目的を共有できる方のみに入っていただいた」(森岡氏)。しかし、今後は新卒採用にも力を入れる。「ポテンシャルを持った学生が刀に新卒で就職して、ここで頑張れば日本社会に対して本当に強力なマーケティング能力を発揮できるようになる。そんな人材をつくる器としての刀を残したい」(森岡氏)。

 刀とは「私のワンマン会社、私の個人事務所ではない」と森岡氏は言い切る。「今、30数人の仲間がいる。30数振りの切れ味鋭い刀がこの会社にはいる。一人一人の切れ味、用途は違う。この用途を組み合わせてチーム力を発揮させるのが、私の最大の仕事。私のできないことを形にできる、超絶に切れ味鋭い仲間たちがいるからこそ、今まで何とかやって来られたし、これからもやっていけると思っている」。

 最大の強みは、個々の企業の課題に対して最適なチームを編成して送り込める点にあるという。「このチーム力をさまざまな局面に展開する。世界最先端のマーケティングのノウハウと、日本を少しでもよくしたいという熱い思い、この2つを皆で共有している」(森岡氏)。

 森岡氏が刀を立ち上げたのは17年。実は、創業時に自らが「暴君にならない仕組み」を導入したという。「最初に仲間になってくれた10数人に、株の半分以上を分けた。私を解任しようと思ったら、いつでもできる仕組みをあえて最初につくった。そうしなければ、日本をよくするという、刀の夢は果たせないと思ったから。今回、大和証券さんから出資をいただけたことで、さらに私1人の会社ではなくなった」(森岡氏)。

 資金調達の手段として、将来的に刀をIPO(新規株式公開)させることも視野に入れる。さらに刀の本社移転も検討しているという。「東京に税金を納める企業はたくさんある。東京じゃない関西のどこかに(本社を)置こうとも考えている」(森岡氏)。

 森岡氏は言う。「我々だけで日本を変えられるとは思っていない。しかし、我々が成功事例を残すことによって、日本の未来に少しでも貢献できるなら、ぜひともやらせていただきたい。浮ついた気持ちは1ミリもない。仲間たちと力を合わせながら、いただいたチャンスを大きく実らせるために邁進(まいしん)していきたい」。マーケティングで日本を元気にするという目標に向かって、歩みを止めるつもりはない。

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