日本最大級の共通ポイントカード「Tカード」によって集まる膨大な量の購買履歴データ。この情報を活用し、運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)のグループ会社がマッチングサービスに参入。ライフスタイルから価値観を予測し、相性のいい相手が紹介できるという。

CCCグループのCreative 1(東京・渋谷)が開始したマッチングサービス「D-AI(デアイ)」(画像提供/Creative 1)
CCCグループのCreative 1(東京・渋谷)が開始したマッチングサービス「D-AI(デアイ)」(画像提供/Creative 1)

 アクティブ会員数(直近1年間にポイントを利用したユーザー数。複数枚保有の場合は名寄せしている)は2019年10月末時点で7006万人と、日本最大級のポイントプログラムである「Tカード」。加盟店はコンビニエンスストア、スーパー、ドラッグストア、ファストフードなど201社17万3155店舗(2019年10月末現在)に上り、毎日膨大な量の購買履歴データが集まってくる。このビッグデータを使って商品開発やプロモーションの戦略を立てたり、Tポイント物価指数を公表したりと、これまでBtoB向けの活用が行われてきた。

 このデータを用いた初のコンシューマー向けサービスが、19年10月から静かにスタートしている。CCC傘下のCreative 1(東京・渋谷)の「D-AI(デアイ)」だ。名称の由来は“AIを活用して出会いを提供する”。すなわちマッチングサービスである。

 ここ数年、20代を中心にマッチングアプリが普及し、今や男女の出会いはアプリがきっかけ、というのが当たり前になりつつある。サイバーエージェント傘下でマッチングサービスを運営するマッチングエージェント(東京・渋谷)の市場予測によると、19年のオンライン恋活・婚活マッチングサービスの市場規模は530億円。24年には約2倍の1037億円まで拡大すると見込まれている。年齢層も、主に恋愛対象を探す20代から、結婚相手を探す30~50代へと広がりを見せている。

国内オンライン 恋活・婚活マッチングサービス市場規模予測
国内オンライン 恋活・婚活マッチングサービス市場規模予測

マッチングサービスに根本的な問題

 ただし結婚相手を探すというニーズに対しては、既存のマッチングサービスは根本的な問題を抱えていると、Creative 1社長の山﨑史郎氏は話す。長年一緒に生活していく結婚で重要なのは、ライフスタイルや価値観といった内面の相性。しかし、マッチングサービスで確認できるのは、顔などの外見や、年齢や年収といった登録された情報だけだ。マッチングサービスの多くはこうした情報がずらりと並び、ユーザーはこれらの情報を見比べながら、自分の希望に合った相手を絞り込んでいくしかない。

 相手に求める条件は、一般的に男性は顔などの容姿、女性は年収などの経済力とされている。「結果的に、年収が高い男性と、容姿がいいとされる女性に人気が集中し、サービスに登録してもなかなかマッチングされないという声をよく聞く」(山﨑氏)。また、出会ってみないと相性は分からないため、「20%程度のユーザーはマッチングまでは進むが、実際に結婚まで至るのは4%ほどといわれている」(Creative 1の田野倉正規プロダクトマネージャー)。

 CCCでは、このミスマッチの解消にTカードの情報が生かせるのではないかと考えた。同社は購買データの分析に加えて、会員ごとのライフスタイル情報登録も推進。すべて回答されれば、家族構成、職業、年収、保有資産、趣味・興味・関心などの情報と組み合わせて詳細な分析が可能だ。その結果、生活属性151項目、志向性136項目の約300項目を数値化した「顧客DNA」を構築している。

 もちろん、ライフスタイル情報の登録は任意。集まっているデータは1000万以上のユーザーにとどまるという。また、商品の購入やサービスの利用時に必ずTカードが提示されるわけではないし、そもそもTポイント加盟店以外での購買行動のほうが多いだろう。つまり、必ずしもすべての会員の情報を“丸裸”にできるわけではないが、そこは約7000万人のビッグデータを生かし、「類似した購買履歴を持つ別のユーザーなどから拡大推計ができる」(田野倉氏)という。

 Tカードで得られた情報から個人の嗜好が分かるとして、男女の相性はどう見極めるのか。そこで活用したのがディープラーニングだ。円満な夫婦と回答した数万組にアンケートを行い、どのような顧客DNAのペアがいい相性なのか機械学習をさせた。「一般的に、似た指向性を持つ人ほど相性がいいという先入観を抱きがち。しかし実際に機械学習させてみると、必ずしもそうではないことが分かってきた」(山﨑氏)。予測精度は81%まで高まっているとのことだ。

 19年10月にスタートしたマッチングサービスでは、自分のライフスタイルや価値観がずばりと示されるわけではない。データはマッチングの判断材料にすぎず、AIで相性がいいと予測される相手が表示された際に「あなたと共通の価値観」という項目で、マッチングの理由として示される。加えて、ライフスタイルの傾向を「衣」「食」「住」「遊」「働」「その他」の6項目に分け、相性度を1.00~5.00の範囲内で図示。あくまでも相手とコミュニケーションをする際の参考として使ってほしいというスタンスだ。

検索結果では「共通の価値観」を表示。お互いの相性は6つの項目に分けて数値で表示される(画像提供/Creative 1)
検索結果では「共通の価値観」を表示。お互いの相性は6つの項目に分けて数値で表示される(画像提供/Creative 1)

外見や年収などの情報はペアになるまで公開せず

 相手の候補が紹介された段階では、相手のプロフィル写真や年収といった個人情報は公開されない。これは他のマッチングサービスとの大きな違いだ。外見や経済力といった条件で取捨選択するのではなく、あくまでも相性から理解を深めてほしいという狙いからという。まずチャットである程度相性を確かめ、ペアとしてお互いが承認して初めて明かされるようになっている。カップルが成立していけば、それを学習データとしてさらに予測精度が上がるともくろむ。

お互いがペアになることを承認し合うと初めて顔写真などが見られる(画像提供/Creative 1)
お互いがペアになることを承認し合うと初めて顔写真などが見られる(画像提供/Creative 1)

 サービスは無料プランと有料プラン(月額男性1500円、女性900円。いずれも税別)の2種類。無料プランはメッセージ交換の相手が1人に制限され、相手の連絡先やプロフィル写真、年収なども閲覧できないので、あくまでもお試しプランだろう。他のマッチングサービスでは女性の利用は無料のケースもあるが、「“サクラ”目的の登録を排除するために有料にした」(山﨑氏)。登録のハードルを下げるために身分証明書の登録や未婚・収入証明などは求めていないが、クレジットカード払いに限定することで、年齢認証や本人確認はクリアできているとする。

 「年収の情報などは都合がいいように登録できるが、購買データは嘘をつけない」(山﨑氏)。サービス開始から間もないが、既にカップルが成立し始めているという。ビッグデータの新たな利用方法として、今後の成果が注目される。

■変更履歴
・Creative 1の田野倉正規プロダクトマネージャーのコメントで「20%程度のユーザーはマッチングまでは進むが、実際に結婚まで至るのは9%ほどといわれている」とありましたが、正しくは「結婚まで至るのは4%ほど」です。お詫びして訂正します。[2019/12/20 17:30]
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