米ニューヨークに2018年12月に誕生した、新型店舗SHOWFIELDS。自らを「世界一面白いお店」と称し、主に新興D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)ブランドの商品を展示・販売する。注目はフロアごとに趣を変える販売スタイルとツアー型の販売手法だ。参加チケット1万枚が即完売するなど、従来の小売りのイメージを覆し、人気を集めている。

ニューヨーク発の新型店舗SHOWFIELDSはツアー型の販売手法を取り入れるなど、これまでにない体験を軸に人気を集めている
ニューヨーク発の新型店舗SHOWFIELDSはツアー型の販売手法を取り入れるなど、これまでにない体験を軸に人気を集めている
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 デジタルを起点に成長してきたD2Cブランドが事業規模の拡大に併せて、自社で実店舗を構えたり、ポップアップストア(期間限定店)をオープンしたりするなど、売り場をリアルへと広げる傾向にある。マットレスのD2Cブランドで、ユニコーン企業の1社として知られる米キャスパーや、メガネのD2Cブランドの米ワービーパーカーはその典型例。新規顧客の開拓や、実際に商品を手に取って検討したいと考える潜在顧客層へのアプローチなどが目的だ。

 デジタル発のD2Cブランドの間で実店舗の価値が見直されているが、D2Cブランドの出店が相次ぐニューヨークのSOHO(サウス・オブ・ハウストン・ストリート)地区は、店舗を構えるのに月額で2万5000ドル(約270万円)程度かかる。新興D2Cブランドがこれほどの資金を投下し、店舗を構えるのは現実的ではない。そこで店舗に商品を出したいがリスクは最小限に抑えたいというD2Cブランドのニーズを捉え、米国、特にニューヨークではD2Cブランドを集めたキュレーション型店舗が増えてきている。

 その1つがSHOWFIELDSだ。同店はニューヨーク NOHO(ノース・オブ・ハウストン・ストリート)地区にある、1913年築の歴史的建造物を商業施設に改装した。このエリアはSOHO地区と対をなす位置関係にある。

SHOWFIELDSの外観。1~3階が展示販売やショーのスペース、4階がイベントスペースとなっている
SHOWFIELDSの外観。1~3階が展示販売やショーのスペース、4階がイベントスペースとなっている
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D2Cブランドの商品だけを集めた店舗

 SHOWFIELDSへの出店には月額6000ドル(約65万円)~1万2000ドル(約130万円)かかる(19年8月時点)。出店料には店舗の設計やデザイン、在庫管理、各ブランドの商品やサービスの知識を身につけたSHOWFIELDSスタッフによる接客・販売代行といった、店舗オペレーション費も含まれる。また、SHOWFIELDSでは来店客の店内の動きや、興味を持った商品情報などをデジタル連携により取得しており、そのデータもブランドに提供する。売り上げに応じた手数料は不要だ。

 1階のメインエリアではブランドごとにスペースが区切られ、各ブランドの世界観に合わせて内装が作り込まれる。各ブランドの販売スペースには、あらかじめ商品情報が登録されたタブレット端末が用意され、来店客は接客を受けなくてもタブレットを操作し、商品情報を知ることができる。

歯ブラシのサブスクリプションサービス「quip」のスペースで接客にあたる店員(左)と、説明を受ける来店客(右)
歯ブラシのサブスクリプションサービス「quip」のスペースで接客にあたる店員(左)と、説明を受ける来店客(右)
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各ブランドのスペースに用意されたタブレットを使って、来店客自ら商品の詳細情報の確認や購入、会員登録などの操作ができる
各ブランドのスペースに用意されたタブレットを使って、来店客自ら商品の詳細情報の確認や購入、会員登録などの操作ができる
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ツアー型販売の参加券1万枚が即完売

 SHOWFIELDSは単なる場所貸しだけではなく、ショーやイベント、コミュニティーづくりなどさらに一歩踏み込むことで商品の体験機会を創出しているところがユニークだ。19年7月から始めた「House of SHOWFIELDS」という、全15分程度のショー形式のツアーはその1つ。「実演販売2.0」とも言える体験を軸に、取り扱うブランドの商品を紹介する。

 ツアーに参加するには事前予約が必要だが、参加料はかからない。7月のツアー開始に先立ち用意された1万枚の参加チケットは即完売。19年9月までに合計2万5000枚以上のチケットが申し込まれたという。

 ツアーは、アメリア・ショーフィールズという司会役の女性宅を巡りながら、彼女の家に仕えるさまざまな案内人から商品を紹介されるという設定だ。

司会も務めるツアーの案内人(右)。ここは、彼女の家の中のライブラリーという設定
司会も務めるツアーの案内人(右)。ここは、彼女の家の中のライブラリーという設定
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美容クリームの効能や成分について演技を交えながら説明する案内役の俳優(右)
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果物や野菜などが入った粉末状の栄養ドリンクの試飲を勧める案内役の俳優
果物や野菜などが入った粉末状の栄養ドリンクの試飲を勧める案内役の俳優
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 参加者にはツアーが始まる前に名札用のシールが手渡される。そこには名前と、なりたい職業を記載する。司会役のアメリアは名札を見て「あなたは歌手になるのが夢なのね。素敵ね」と笑顔で声をかけ、来場者との距離を縮めていく。その後、“秘密の扉”を開けるとそこに出現するのは、3階から2階に下る巨大な滑り台だ。

 この滑り台が客の緊張をほぐすのに一役買う。他の来店者と一緒に、ショー形式のツアーに参加するという非日常体験ゆえに、当初は参加者の顔にはわずかな緊張が見られる。ところが、長い滑り台を下った後は、来場者の表情はパッと明るくなり自然と口数が多くなるのが分かる。

秘密の扉。一見本棚だが、押すと扉が開き巨大滑り台が出現する
秘密の扉。一見本棚だが、押すと扉が開き巨大滑り台が出現する
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巨大滑り台の出口。滑り台を降りると、参加者の緊張がほぐれる
巨大滑り台の出口。滑り台を降りると、参加者の緊張がほぐれる
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 緊張がほぐれたところで、ここから活躍するのはツアーの案内役を務める俳優だ。持ち前の演技力を存分に発揮し、ユーモアたっぷりに商品の魅力を紹介していく。例えば、バクテリアの発生を防ぐ食器洗い用のスポンジ、受付など人件費と施設費を削ることでリーズナブルな価格を実現したビジネスホテル、デジタル絵画を閲覧できる新型デバイス、水に溶かして飲む粉末状の栄養ドリンクなど、紹介される商品やサービスは多岐にわたる。

 単なる紹介ではなく、来場者はツアーを通じて、実際に商品に触れて体験していくことになる。商品の魅力を実感できるため、購入の判断がしやすくなる。また参加者を思わず笑顔にする演技力と共に商品を紹介されることで、その時点では購入しなくても、ポジティブな記憶として残るという副次効果もある。

 約15分間ツアーに参加し終えた後に待ち受けているのが、「THE LAB」と呼ばれる販売スペースだ。ツアーで紹介された商品以外にも、SHOWFIELDSで取り扱っている商品が並ぶ。気に入った商品はその場で購入できる。

ツアー型販売手法が抱える弱点とは

 ツアーを通じて商品を体験するという、これまでにない小売事業を展開するSHOWFIELDSだが、その販売力は俳優にゆだねられる。筆者はこれまでに3回House of SHOWFIELDSに参加しているが、参加した回によっては俳優らの演技力が低く、印象に残らないこともあった。同行した友人も「期待していたが、そこまでの魅力を感じない」と話していた。筆者も同じ感想を抱いた。

 一方で、演技力が優れていれば、そこで得られる経験は商品と共に記憶に残りやすく、再来場や商品購入に向けた意思決定の後押しとなる。筆者は初めてツアーに参加したときは何も購入しなかったが、ツアー参加後、バクテリアの発生を防ぐスポンジが頭から離れず、2回目の来店時に購入した。

SHOWFIELDSではさまざまなイベントも行われている。11月1日には「殺人ミステリー」をテーマにした体験型ショーイベントを開催。参加料は77ドル。ドレスコードも設けられた
SHOWFIELDSではさまざまなイベントも行われている。11月1日には「殺人ミステリー」をテーマにした体験型ショーイベントを開催。参加料は77ドル。ドレスコードも設けられた
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体験型店舗は日本でもはやるのか

 米国で流行したビジネスモデルが、日本に輸入されるケースは多い。SHOWFIELDSのように、D2Cブランドに販売スペースを貸し出すショップ形態や、ツアー型の小売りは日本でも通用するだろうか。

 多数のD2Cブランドのポップアップストアを支援してきたカウンタ―ワークス(東京・目黒)の三瓶直樹社長は「顧客ニーズは多様化・細分化しており、デジタル発のブランドが多様なニーズをくみながら内製で店舗を作り込むのはコスト効率が良いとはいえない」とする。日本でもD2Cブランドが増加する中、新興ブランドがコストをかけず店舗を展開する手段として、SHOWFIELDSのような場所貸し型の事業モデルの需要は高まるだろうと予測する。

 実際、こうした取り組みを支援する大手企業が出始めており、アパレル大手のワールドは19年9月14日から10日間、注目のD2Cブランドを集めたポップアップ型百貨店「246st MARKET(ニイヨンロク ストリートマーケット)」を東京・青山のワールド北青山ビル1階で開催。13ブランドが出店した。

 では、SHOWFIELDSが実施するツアー型の販売手法はどうか。まず、前提として三瓶氏は「小売りは今後、エンターテインメント性や体験が重要になる」と言う。その理由は「従来型の小売事業と、昨今の消費行動との間にはギャップが生じているからだ」。

 消費者はネットで下調べしてから店舗を訪れ、店頭で体験した後に自宅に戻りオンラインで価格を比較してから購入するなど、消費行動の中でデジタルを当たり前のように利用している。一方、従来型の店舗はその場で買ってもらうことを前提に、在庫管理、ディスプレー、導線、集客、接客という構造になっている。こうした、「その場で買わせるための仕組みが、消費者の購買行動との間にギャップを生んでいる」(三瓶氏)。

 消費者の購買行動における変化を受け、店舗に求められる役割は「買う場」から「体験できる場」にシフトしつつある。実際、米国のD2Cブランドが手がける実店舗はどこも体験を重視し成長を遂げている。日本でも「コト消費」に注目が集まっていることから、体験型が浸透する素地は十分ある。

 ただし、SHOWFIELDSが実施するツアー型を取り入れ成功させるには、いくつもハードルがある。まず売る力を持ったツアーコンダクターが必要になる。さらに、顧客がその世界観に没入できる体験設計もポイントになる。ツアーは米国ではやり始めている手段の1つ。商品の魅力をポジティブに伝えるエンターテインメントをどう売り場に持ち込むかは、各小売店に与えられた課題と言えそうだ。