ヤフーの親会社であるZホールディングス(HD)とLINEは2019年11月18日、経営統合することで合意。同日に開いた記者会見ではZHDの川邊健太郎社長とLINEの出澤剛社長が登場し「日本・アジアから世界をリードするAI(人工知能)カンパニーになる」と、GAFAへの対抗姿勢も見せた。
17時から、都内のホテルで始まった記者会見は、登壇した2人が握手する姿を撮影しようと、報道陣が殺気立つほどの盛況ぶりだった。フラッシュを浴びつつ川邊氏は、「両社のシナジーを生かして世界に羽ばたく、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)やBAT(百度=バイドゥ、アリババ集団、騰訊控股=テンセント)に対抗できる第三極を東アジアから作っていきたい」と宣言した。両社は、約1年をかけて手続きを進め、20年10月の統合完了を目指す。
報道陣の注目を集めたのは2人のネクタイだ。川邊氏はLINEのコーポレートカラーである緑、出澤氏がヤフーカラーの赤のネクタイを締めていた。「ラグビーのW杯でワンチームという言葉が流行したが、それに乗っかって最強のワンチームを目指したい」と語り、ラグビー選手が試合後にジャージーを交換し合うことになぞらえた。
統合後はヤフーと同様にLINEもZHDの傘下に入る。会見では川邊氏がZHDの社長兼Co-CEO、出澤氏はZHDのCo-CEOとなり、2頭体制になることも発表した。
経営統合、決断の裏に2つの危機感
統合を決断した理由としては、2つの危機感があると話した。1つはGAFAなどの巨大IT企業の存在だ。ITサービスは、人材、開発費、データが全て、強いところに集約される。「ウイナー・テイク・オールであり、強いところはもっと強くなり、それ以外との差がどんどん開くという産業構造にある」と出澤氏は話す。両社の研究開発などの投資額を合計してもGAFAとは「桁違い」(出澤氏)という状態ではあるものの、統合が完了すれば、1000億円は超える。AIを中心に、日本やアジアのユーザーに特化した使い勝手の良いサービスなどを提供することで差異化を目指す。
もう1つは「テクノロジーで解決できる日本の社会課題がまだまだある」(川邊氏)という危機感である。労働人口の減少や自然災害などの分野で、「ITはもっといろんなことの役に立てる」(川邊氏)。ヤフーの防災アプリがLINEの地方自治体アカウントと連携することで、より多くの人に情報を提供するといった例を挙げた。
両社の統合で主軸に据えるのは、SNS、スマホ決済、Eコマース、MaaS(Mobility as a Service)といった生活にまつわるあらゆるサービスを統合した「スーパーアプリ」の提供だ。「ヤフーの広範囲なサービスのラインアップを押さえつつ、それをいまLINEが提供しているユーザーフレンドリーな使い勝手と組み合わせる。そうしたスーパーアプリの流れが最大の武器になる」(川邊氏)という。
チャットアプリ「WeChat」を運営する中国のテンセント、シンガポール配車大手のGrab(グラブ)をはじめ、世界中でスーパーアプリの構築が大きなトレンドになりつつある。LINEもSNSを軸としたスーパーアプリ化を独自に進めてきたが、ヤフーのサービスと連携することで価値を高める。
ZHD傘下のヤフーの月間利用者数は6743万、LINEは8200万人に達する。統合すれば、日本国民のほぼすべてにリーチできる国内最大のマーケティングプラットフォームとなる。モバイル決済アプリ「PayPay」を主軸に獲得した決済データと、LINEのユーザー接点とを組み合わせて、広告配信やマーケティング支援に活用すれば、収益の拡大が期待できる。
その一方で、懸念材料は寡占的なサービスに対して、データ利用の乱用などの恐れから、風当たりが強まっていることだ。19年8月には公正取引委員会が、GAFAに代表される巨大IT企業による優越的地位を生かしたデータ取得の乱用についてのガイドラインを公表している。圧倒的なマーケティング基盤を獲得したとしても、マーケ活用における寡占化が進めば、その手法に対して厳しい目が向けられる可能性もある。
この問題に対して、「サービス利用を通じて生まれたデータはお客様のもの。全てのデータは日本の法令に基づき運用する。日進月歩のサイバーセキュリティーの技術を高めつつ利用していく」(川邊氏)と強調した。
新サービスの創出にこだわる
ZHDはスローガンとして「ユーザーの生活を!するほど便利に」、LINEグループは「WOW」という価値基準を掲げる。「ZHDは『!』、LINEは『WOW』と言わせたいという価値観を大事にしてきた。日本のインターネットユーザーに、びっくりした、さすが、と感じられるものを出していきたい」(川邊氏)と説明した。
出澤氏も「利用者にわくわくしてもらうには我々自身が楽しまないといけない。両社で2万人の社員が新しい挑戦を楽しみ、志高く挑戦していきたい」と応じた。かつてライブドアとLINEの前身となるNHN Japanが統合した際には、「LINE(という強いサービス)の登場が大きなトリガーとなった」(出澤氏)として、今回の統合後も新サービスの創出にこだわっていくと方針を掲げた。
かつて13年1月にLINEの利用者が世界で1億人を超えたとき、当時の森川亮社長は、「ダーウィンの言葉にあるように、強いものでもなく賢いものでもなく、変化に対応できるものが生き残る」として、変化し続けることの重要性を訴えた。単なるサービスの集約にとどまらず、新たな化学変化を起こすことができるのか。両社の底力に期待がかかる。
(写真=酒井 康治)