ユニコーンは米国発、だけではない。特集『未来の市場をつくる100社』の特別編として、アジア地域で事業を展開し、さらなる成長期待を集める気鋭のスタートアップをアジア事情に詳しいプロに読み解いてもらった。

香港やオーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、英国に対応した法律サービスを提供する香港発のスタートアップ「ジーガル」。多くの雛形を持ち、簡単な質問に答えるだけでカスタマイズした契約書が作成できる
香港やオーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、英国に対応した法律サービスを提供する香港発のスタートアップ「ジーガル」。多くの雛形を持ち、簡単な質問に答えるだけでカスタマイズした契約書が作成できる

 高齢化が進む日本は若年層(15~34歳)の割合が20%を切っているが、ベトナムやフィリピン、マレーシア、インドネシアなどは30%台後半を維持。アジア域内では相対的に高齢化していると言われるシンガポールでも25%台をキープしている。

 こうしたアジアの若者たちが、日本同様、少ない手持ちのリソースに苦しみながらもスタートアップを立ち上げる動きは、ますます盛んになっている。

 日本との違いは、自国など1つの国だけでビジネスを完結しようという「内向きな発想」が、特にテクノロジー系では少ないことだ。日本と違って隣国との距離が心理的に近く、ビジネスの共通言語である英語を使える地域では、ビジネスモデルの他国への横展開は比較的容易だからである。

 ただ法律や会計システムは国ごとに違うため、その対応は必要。国をまたがる取引で送金に煩雑な手続きとコストがかかることなどがスタートアップを苦しめる要因となる。

 加えてデジタル人材の不足が深刻で、国境を超えて優秀な人材をどう獲得するかに、各社とも苦労している。大企業なら専門部署があり、専門人材を抱えてクロスボーダー取引に対応できるが、余裕がないスタートアップにとっては死活問題になりかねない。

 こうした背景から登場してきたのが、スタートアップのアドミニストレーション業務をサポートするサービス系スタートアップだ。域内のクロスボーダービジネスにおいて、オンラインでほぼ大半の業務をこなせるようになる。そこで以下では、「アジアのスタートアップを支援するスタートアップ」の動きを法律、金融、人材の3つの視点から紹介しよう。

簡単にカスタマイズした契約書がつくれる香港発の「ジーガル」

 ジーガル(Zegal)は2013年、香港で創業した法律サービスのプロバイダーである。香港やオーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、英国に対応した法律サービスを提供する。メインのサービスは1200を超える契約書の雛形の提供だ。各国の法律に沿って、雇用契約書から会社設立における株主間契約書、コンサルティング契約書など多くの雛形を持ち、簡単な質問に答えるだけでカスタマイズした契約書が作成できる。

 雛形のままで問題がなければ、改めて弁護士に確認する必要はない。疑問があれば、チャットで簡単な法律相談が受けられる。筆者も利用したが、相談相手の女性は長年法律事務所に勤務したいわゆるパラリーガルであり、弁護士のチェックを受けることなく簡単な雇用契約書が完成した。

 このサービスが月額200シンガポールドル(約1万6000円)から受けられるのはスタートアップにはうれしい話だろう。弁護士と直接スカイプで相談するオプションも用意し、細かいやりとりも可能だ。より複雑な案件への対応には現地の弁護士を紹介するサービスもある。唯一の課題は、シンガポールでは頻繁にあるマレーシア、インドネシアとの契約にまだ対応していないこと。クロスボーダー取引が当たり前のシンガポールだけに、この2国との取引への対応は必須だろう。

 日本ではスタートアップでも弁護士と顧問契約を結ぶのが一般的だが、早晩、同様のサービスが出てくるのではないか。

安価な会計ソフトサービスを提供する「クイック・ルック」

キャッシュフローに特化したオンラインサービスを提供する事業を展開するシンガポールの会計サービス提供会社、クイック・ルック
キャッシュフローに特化したオンラインサービスを提供する事業を展開するシンガポールの会計サービス提供会社、クイック・ルック

 クイック・ルック(Kwik Look)は19年にシンガポールで創業した会計サービス提供会社だ。すでに複数企業に導入され、多くのスタートアップの関心を集めている。

 創業者のイヴェット・リム氏は18年まで大手石油会社の財務部門で働きながら、友人のスタートアップの支援をしていた。そこで会計面の知識、特に資金繰りの知識不足から事業に失敗するケースを多く見てきたという。

 そこで中小企業、特に個人レベルでサービス業などを始めようとする人に向けて、キャッシュフローに特化したオンラインサービスを提供する事業を開始した。

 具体的には、(1)これから起業を検討している人に向けて、5年先までのキャッシュフローを予測するなどして、事業の将来性を検討するフェーズのサービスと、(2)実際に事業をスタートしている人が、会社の資金状況などを常にチェックできるプレミアムサービスなどが用意されている。

 事業検討レベルのサービスは月額5シンガポールドルと非常にリーズナブルで、プレミアムサービスでも月額10シンガポールドルである。ソフトの中身は、事業における収入と経費に関する質問に回答することで自動的に毎月のキャッシュバランスがわかるというものだ。

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