eギフトの市場が広がりつつある。店舗で実際の商品に引き換えられる電子的なギフトカードをメールやSNSでやりとりするというもので、少額商品などが気軽に贈れるのが人気の理由だ。最近では企業が販促や顧客コミュニケーションのツールとして用いるケースも増えている。
eギフトとは、一言で言えばギフトカードの電子版だ。国内大手のギフティが提供する「giftee」の場合、ギフトの贈り主は、商品ごとのユニークなURLを埋め込んだeギフトを購入。そのURLを電子メールやLINE、SNSのメッセージでギフトを贈りたい相手に送信する。受け取った人はURLからeギフトを表示し、店頭で読み取ってもらうことで商品を受け取れる。
お菓子など少額商品を送料なしで送れる、相手が好きなタイミングで商品と交換できるため、消費期限などを気にしなくてよいといった気軽さから、日本では個人間のギフト用途で利用者が広がってきた。ギフティによると、gifteeでeギフトを贈った人の数は2019年6月末時点で累計125万人に達する。
その場で食べるアイスもギフトになる
チョコレートメーカーのゴディバ ジャパン(東京・港)は、gifteeでeギフトを利用している企業の一つだ。18年7月から、一定額の買い物に使えるギフト券やチョコレート、クッキーなどのほか、一部店舗で提供しているソフトクリームやドリンクなどを販売している。独自のECサイトも運営しているが、gifteeでは少額の商品や店頭ですぐに食べなければいけない即時消費型の商品もギフトとして販売できることが、新たな商機につながった。
同社マーケティング コミュニケーション & デジタル/ITトランスフォーメーション統括本部カスタマーマーケティング アシスタントマネジャーの橋田美緒氏は、その理由を次のように説明する。「ゴディバが主力とするギフト市場はバレンタインデーなどの季節行事や誕生日、入学祝いといったライフイベントで需要が大きい。一方、日常生活にゴディバの商品をどう取り入れてもらうかはずっと課題だった。eギフトなら、自分へのご褒美や友人、知人へのちょっとしたお礼などに日常的に使ってもらえる」。
店舗とは異なる客層が利用
eギフトを導入したことで、顧客層も広がった。「当社店舗の顧客は男女比が2対8だが、eギフト(の購入者)では4対6になる。店舗でスイーツを選ぶのは気恥ずかしい、面倒という人も、eギフトは利用しやすいのかもしれない。年齢層も、店舗では40代、50代が半数だが、eギフトは20代、30代が約70%。若い世代のライフスタイルやコミュニケーションの形に合っているようだ」(橋田氏)。eギフトをもらったことがきっかけで、これまでゴディバの店舗を訪れたことのない新規顧客が来店することも増えたという。
こうした効果を鑑みて、18年9月からは自社マーケティングにも活用し始めた。SNSアカウントのフォローや投稿のシェアを条件に、抽選でeギフトをプレゼントするキャンペーンを実施したり、ECサイトで購入した顧客への特典にeギフトを採用したりしている。こうした取り組みは、オンラインからオフライン(店舗)へ顧客を誘導する、いわゆるO2O(Online to Offline)で効果を上げた。
今は、eギフトを引き換えに訪れた人に何らかのプチギフトを付けるといったことも検討している。「eギフトで受け取るのは友人など贈り主からのプレゼント。これとは別に店舗からもプレゼントすることで、来店してくれたお客様との間に交流を生み出したい」(橋田氏)。
ゴディバ ジャパンの橋田氏のお名前に間違いがありました。お詫びして修正します[2019/11/15 11:00]
システム導入は簡単、サポートを充実
giftee導入の理由について、橋田氏は「技術的なハードルが低いのが魅力だった」と振り返る。
ギフティでは、商品をeギフト化するためのシステム「eGift System」をクライアント企業に提供している。このシステムでは、ギフティが用意したテンプレートに商品写真などを当てはめることでeギフトを作成。利用者が店舗で商品を引き換える時には、バーコード読み取りか電子スタンプのどちらかを使って、チケットを使用済みにする「消し込み」処理を行う。このシステムを導入することで、企業は手軽にeギフトのサービスを始められるのだ。
「むしろ準備が必要だったのは“ソフト面”の充実」と橋田氏。具体的には、顧客と店舗のサポート機能をそれぞれに用意した。顧客向けには、既存のコールセンターでeギフトに関する問い合わせに応じられるようにスタッフにレクチャーを実施。一方、店舗側からのeギフトにまつわる相談は、本部で受け付ける。顧客対応とシステム関連、それぞれの問題に対処できる人員を本部に配置した。
「例えば、ギフトの有効期限が迫っているが、引き換えに行った店舗のマシンがメンテナンス中だった、といったトラブルには、期限を過ぎても引き換えられるように対応する。便利なシステムでも運用するのは人間。電子ギフトは体験を楽しむものなので、お客様に不快や不便がないように運用していきたい」(橋田氏)
eギフト活用でキャンペーン参加が2倍に
ゴディバ ジャパンは、自社の商品のeギフトをgifteeで展開した例。一方で、他社商品のeギフトを自社の販売促進・利用促進などに使う例もある。それが三井住友カード(東京・港)だ。
同社は18年12月から19年3月まで実施したキャッシュバック・キャンペーンでgifteeのeギフトを利用した。キャッシュバックは応募要件の利用額を満たした人のみを対象とした抽選だが、これにキャンペーンにエントリーするだけで即時抽選が行われ、eギフトが当たる特典を組み合わせた。eギフトは、コンビニエンスストアでスイーツと引き換えられるものにした。
三井住友カード会員サービス開発部の立林優介氏によると、「カード会社にとって、キャンペーンのエントリーを増やすことは課題の一つ。エントリーした人は条件となる利用額に向けてカードを使うからだ。これまでも、多数に少額商品が当選するようなエントリー特典ができたらと考えたことはあったが、時間やコストを考えると現実的ではなかった。発送の手間やコストがかからず、少額商品を瞬時に配信できるeギフトだからこそ実現できた」と言う。
しかもギフティのシステムを使うと、抽選基準の設計の自由度も上がる。実はこのキャンペーンは三井住友カードがeギフトをキャンペーンに利用した2例目。最初の例ではエントリー特典としてハーゲンダッツのアイスクリームが「1200人に当たる」としていた。これを18年12月の2例目では「4人に1人」にコンビニスイーツが当たると当選確率を明確にし、応募意欲を刺激した。応募者数によって当選者数が変動するが、gifteeのeギフトは発行した分だけを支払えばいいため、景品の現物を事前に仕入れる必要がなく、こうしたキャンペーンも効率良く実施できるという。
その結果、このキャンペーンではエントリー数が通常の2倍ほどに増えた。しかも、システム利用料とeギフトの商品代金を当選者数で割ると、1人当たりのコストは200円程度。「商品現物を多めに確保し、当選者に送付先住所を確認し、個人情報を管理しながら配送の手続きをするという従来の方法では、この金額には到底収まらなかった」(立林氏)。
eギフト導入の効果として、立林氏がもう一つ挙げるのがプレゼントの適時性だ。「ギフティのeギフトシステムでは、抽選の当落がその場ですぐに分かる。これは応募意欲や満足度の増進につながる」と立林氏。「もしも、応募から1カ月後に、カード会社から300円ほどの商品が送られてきても、喜びより戸惑いの気持ちが大きいはず。既存のプロモーション活動の低コスト化よりも、これまでカード会社には実質不可能だった“ちょっとしたお礼”を実現してくれたことのほうがeギフトのインパクトとして大きい」。
三井住友カードでは今後も、キャンペーンのエントリーのほか、Webアンケート回答のお礼やダイレクトメール開封のお礼などに、eギフトの採用を随時検討していくとしている。