アース製薬は、部屋用の消臭芳香剤「お部屋のスッキーリ!Sukki-ri!」(以下、スッキーリ!)の消臭効果の調査手法として、脳波とVR(仮想現実)を活用。部屋を再現したVR装置を装着してスッキーリ!で消臭した部屋のニオイをかぐと、気分の安定度(リラックス度)が21%向上することを明らかにした。

VR装置と脳波計を装着してニオイが与える影響を測定
VR装置と脳波計を装着してニオイが与える影響を測定

 消臭芳香剤というと、P&G「ファブリーズ」、エステー「消臭力」、小林製薬「消臭元」などのブランドを思い浮かべる人が多いだろう。虫ケア用品で業界最大手のアース製薬も、「スッキーリ!」「消臭アロマパレット」などの商品を展開している。2016年発売のスッキーリ!は、他社商品が通常、ボトル下部の消臭芳香液を吸い上げて香りを拡散するのに対し、消臭芳香液を上部に配置して下の揮散マットから広がる仕組みを採用。使用期間が長くなるにつれて吸収力が弱くなる消臭芳香剤の欠点を克服し、最後の一滴まで消臭芳香効果が続くようにしているのが特徴だ。

アース製薬のお部屋の消臭芳香剤「お部屋のスッキーリ!Sukki-ri!」
アース製薬のお部屋の消臭芳香剤「お部屋のスッキーリ!Sukki-ri!」

 アース製薬は、自社商品の効能をより客観的に把握して訴求するため、脳波を測定するニューロマーケティングに取り組んだ。香りは、かいだときの気分やその強弱を言語化・数値化しづらく、脳波でリラックス度などを測定するには向くジャンルだ。

 ただし課題もあった。アース製薬マーケティング総合企画本部マーケティングプランニング部リサーチ課の新堂徒夢氏は、「調査の現場で香りをかいでもらうと、香りに集中するために目を閉じる人が多い。すると目を閉じることによるリラックス効果でアルファ波が出てしまってそれがノイズになる。消臭芳香剤の消臭効果を測るには、普段の生活に限りなく近い調査環境で実施する必要がある」と説明する。

リビングルームを再現したVR映像
リビングルームを再現したVR映像

 そこで用意したのが、部屋を再現したVR映像だ。AOI Pro.グループで体験設計コンサルティングや生体反応データを活用したコンテンツを提供するSOOTH(東京・港)をパートナーに選定し、リビングルームを再現したVR映像や、被験者の鼻の近くにチューブでニオイを送り込む装置の製作を委託した。

消臭芳香剤で気分の安定度が21%向上

 調査手順は次の通り。まず「部屋の香り」として、部屋のニオイの原因物質でもあるイソ吉草酸を、「消臭後の香り」としてスッキーリ!の香気成分にイソ吉草酸を加えたものを用意。30~50代の女性25人(平均年齢43.9歳)に、VRヘッドマウントディスプレーと脳波計を装着してもらい、2パターンの香りの送り込み方で比較する。1つ目は、最初の60秒を無臭空気、次の60秒を部屋の香り、最後の60秒は再び無臭空気。2つ目は、1つ目の部屋の香りを消臭後の香りに置き換えたもの。スッキーリ!は開封35日目の商品を使用した。

部屋の香りをかぐと気分の安定度が下がる
部屋の香りをかぐと気分の安定度が下がる
消臭後の香りをかぐと気分の安定度が向上
消臭後の香りをかぐと気分の安定度が向上

 結果、無臭空気を送り込んだ最初の60秒間のリラックス度平均を100とすると、次の60秒で部屋の香りをかいでもらった場合のリラックス度が94に落ち、無臭空気に戻してもさらに89と下がったのに対し、消臭後の香りをかいでもらった場合はリラックス度が112に向上。無臭空気に戻して以降も121に上がった。「消臭芳香剤が部屋のイヤなニオイを消臭していることを被験者が無意識下で実感していることを明らかにできた」(同社マーケティング総合企画本部マーケティングプランニング部部長の小野里賢治氏)

部屋の香りは「不愉快だ」の声が圧倒的だが、「落ち着く」も
部屋の香りは「不愉快だ」の声が圧倒的だが、「落ち着く」も
消臭後の香りは「心地よい」「爽やか」「落ち着く」
消臭後の香りは「心地よい」「爽やか」「落ち着く」

 なお調査では、アンケートによる主観調査も同時に実施した。部屋の香りと消臭後の香りについて、8つのイメージワードから複数選択可で選んでもらったところ、上図のようになった。部屋の香りは25人中16人が「不愉快だ」を選んだが、次いで多かったのが「落ち着く」(7人)、そして「心地よい」(4人)というポジティブワードだった。だが脳波測定ではリラックス度がアップした被験者はいない。アンケート時にネガティブワードを選ぶことへの遠慮や忖度(そんたく)が考えられる。

 調査結果は香りの機能と効能の専門誌「AROMA RESEARCH」(フレグランスジャーナル社)に掲載。社内共有することで、営業部員は商談材料として活用しているという。小野里氏は、「ニューロマーケティングを採用することで『ホンネの見える化』ができることが分かった。取引先に対しても説得力が上がる」と期待を寄せる。今後、他カテゴリー商品のリサーチやプロモーションなどでもニューロマーケティングの活用を検討する意向だ。

(写真提供:アース製薬、SOOTH)

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