ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が扱う『グランツーリスモSPORT』「コール オブ デューティ」(CoD)シリーズは国際的に人気のeスポーツタイトル。それらへの取り組みを同社ジャパンマーケットビジネスプランニング部新規ビジネス企画&eSports推進課の森田晃徳課長に聞いた。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント ジャパンマーケットビジネスプランニング部新規ビジネス企画&eSports推進課の森田晃徳課長(写真/志田彩香)
ソニー・インタラクティブエンタテインメント ジャパンマーケットビジネスプランニング部新規ビジネス企画&eSports推進課の森田晃徳課長(写真/志田彩香)

 ゲームといえばPC向けのタイトルが中心の海外に比べ、日本ではPlayStation4(PS4)向けのゲームを使ったeスポーツイベントも人気が高い。中でも、レーシングゲームの『グランツーリスモSPORT』とFPS(first person shooter)の「コール オブ デューティ」シリーズは、SIE自らがイベントの企画、運営を手掛けている。

 直近では『グランツーリスモSPORT』が、第74回国民体育大会(茨城国体)の文化プログラムとして開催された「全国都道府県対抗 eスポーツ選手権2019 IBARAKI」の競技タイトルに採用された。また、「CoD」シリーズは18年からプロチームが活躍するイベントが開催されるなど、eスポーツタイトルとして定着しつつある。

――SIEでは今、『グランツーリスモSPORT』と「CoD」シリーズの2タイトルで大会を開催しています。それぞれの取り組みについて、まずは聞かせてください。

森田晃徳氏(以下、森田氏): eスポーツにはいろいろな形がありますから、『グランツーリスモSPORT』と「CoD」シリーズもそれぞれ目的が違います。

 「CoD」シリーズは世界的に大きな大会が開催されている定番のeスポーツタイトル。プロの技を見せることで、「これぞeスポーツ!」という醍醐味や熱を日本に届けたいという思いがありました。

 一方、『グランツーリスモSPORT』は子供から大人まで、幅広い年齢層の方にチャレンジしてもらえることに主眼を置いています。

「グランツーリスモ」予選の反響に驚き

――『グランツーリスモSPORT』は、茨城国体の文化プログラム「全国都道府県対抗 eスポーツ選手権2019 IBARAKI」の競技タイトルにも選ばれました。

森田氏: 国体の文化プログラムとして全国規模のeスポーツ大会を行うのは初ということで反響が大きく、多くの方々にエントリーしていただきました。県ごとの予選はオンラインで、そのあとの各県代表決定戦は全国を13のエリアに分け、九州は福岡、関東は東京というように選手を1カ所に集めて行いました。

 今回、各エリアの代表決定戦については動画配信などを行いませんでしたが、それぞれの地域のメディアが関心を持ち、かなり熱心に報道してくれました。その反響の大きさと関心の高さに我々も驚いています。

2019年10月に開催された茨城国体の文化プログラム「全国都道府県対抗 eスポーツ選手権2019 IBARAKI」の様子(写真/酒井康治)
2019年10月に開催された茨城国体の文化プログラム「全国都道府県対抗 eスポーツ選手権2019 IBARAKI」の様子(写真/酒井康治)

――『グランツーリスモSPORT』の少年の部は、19年10月の東京モーターショーで開催される「都道府県対抗 U18 全日本選手権」の予選も兼ねていました。これはどういう経緯で決まったのでしょうか?

森田氏: 全国都道府県対抗 eスポーツ選手権2019 IBARAKIでは、幅広い層に参加してもらうことを目標に、18歳以上の「一般の部」と6歳以上、18歳未満の「少年の部」を設けました。『グランツーリスモSPORT』は 国際自動車連盟 (FIA)公認の大会も開催される世界的なタイトルですが、若年層が参加できる大会が今までなかったんです。それもあって、国体を機に「少年の部」を作っていこうと動き始めました。

 その動きに日本自動車工業会(JAMA)が賛同してくださり、「モーターショーの舞台にも『少年の部』の予選で好成績をあげた子たちの活躍の場を設定しよう」というお話をいただきました。

――18年の「モーターフェス2018」では、やはり自動車メーカー対抗戦などのeスポーツ大会も開催されました。JAMAとのつながりが強くなってきていますね。

森田氏: JAMAとのつながりは以前からあったのですが、国体の文化プログラムに採用が決まってからは、地方・茨城県の盛り上がりやメディアにおける注目度の上昇で、「もっと何かできないか?」と協力関係が強まっています。

18年10月に東京・台場のMEGA WEBで開催されたモーターフェス2018では、「e-Circuit」という特設会場が設けられ、『グランツーリスモSPORT』のアジア・オセアニア選手権決勝や自動車メーカー対抗戦が開催された(写真/稲垣宗彦)
18年10月に東京・台場のMEGA WEBで開催されたモーターフェス2018では、「e-Circuit」という特設会場が設けられ、『グランツーリスモSPORT』のアジア・オセアニア選手権決勝や自動車メーカー対抗戦が開催された(写真/稲垣宗彦)

参加選手を家族で応援する姿も

――国体文化プログラムの予選では、ご両親が子供の応援に来るなど少年の部ならではの光景も見られました。

森田氏: まさにそうですね。今回は家族で参加されるケースが非常に多かったです。お父さんが一般の部で走っているのを周囲で家族が応援していたり、逆に、子供のプレーをご家族が見守っていたり。eスポーツは家族のコミュニケーションにも一役買うことができると感じられましたね。

――親に隠れて遊ぶものだったゲームが、親公認で、応援されながらプレーする時代になったというのは、取材していても新鮮で、うれしくなる光景でした。

森田氏: 「新鮮」という感想は私たちも抱いています。普段のゲーム大会では見られないような、笑顔にあふれた家族の写真が撮れたりして、プロモーション的にも価値がある大会になりました。「eスポーツのイベントにはこういうやり方もあるんだ」と1つの発見をした思いです。

伊勢丹新宿店で8月に開催された全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2019 IBARAKI 関東エリア代表決定戦の様子。少年の部では、我が子のレースを応援したり、スマートフォンでその走りを撮影したりする家族の姿が見られた(写真/稲垣宗彦)
伊勢丹新宿店で8月に開催された全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2019 IBARAKI 関東エリア代表決定戦の様子。少年の部では、我が子のレースを応援したり、スマートフォンでその走りを撮影したりする家族の姿が見られた(写真/稲垣宗彦)

――伊勢丹新宿店で開催された関東エリア代表決定戦では、大正製薬がブースを出していました。スポンサーが付くケースもあったのですか?

森田氏: 各地域で代表決定戦を開催する準備を進めている中で、それぞれの土地のeスポーツ団体や地元企業との関係ができました。その結果、会場によってはご協力いただけた形です。こちらからスポンサーを募集したのではなく、「大会を盛り上げたい」と協力を申し出ていただいたケースばかりですね。

 eスポーツの人気を持続可能なものにしていくためには、我々が何かするだけでなく、各地域の人たちにそれぞれeスポーツとの関わりを強めていただき、盛り上がりを生むことが大事と考えます。

 現状、eスポーツイベントを事業として行う予定はありませんが、eスポーツを広める、盛り上げるためにご協力いただける企業があれば、連携したいと考えています。

関東エリア代表決定戦を行った伊勢丹新宿店の会場には、大正製薬が自社の製品をアピールするブースを出展していた。このほか、同じく文化プログラムの競技タイトルに選ばれた『ぷよぷよeスポーツ』や『eFootball ウイニングイレブン 2020』の試遊台もあった(写真/稲垣宗彦)
関東エリア代表決定戦を行った伊勢丹新宿店の会場には、大正製薬が自社の製品をアピールするブースを出展していた。このほか、同じく文化プログラムの競技タイトルに選ばれた『ぷよぷよeスポーツ』や『eFootball ウイニングイレブン 2020』の試遊台もあった(写真/稲垣宗彦)

「CoD」ではeスポーツの熱を届けたい

―― 一方、「CoD」は18年に『CoD ワールドウォーII』でプロ対抗戦を、19年は世界大会「CWL Global Open」の出場チームを選出する「CWL日本代表決定戦」を『CoD ブラックオプス4』で、いずれも定期的に行いました。

森田氏: はい。「CoD」では世界大会に日本人選手が出場する道を作るのが1つの目標です。日本でも世界大会に準拠した大会を開催することで、高い技術やチーム戦ならではの戦略というものを若い世代の選手に伝えたいと思っています。

20年は19年10月発売の最新作『CoD モダン・ウォーフェア(MW)』を採用。東京ゲームショウ2019の最終日には、『CoD MW』でのプロ対抗スペシャルマッチを開催した(写真/志田彩香)
20年は19年10月発売の最新作『CoD モダン・ウォーフェア(MW)』を採用。東京ゲームショウ2019の最終日には、『CoD MW』でのプロ対抗スペシャルマッチを開催した(写真/志田彩香)

――「CoD」に関しては、プロ対抗戦を開催したり、全試合ライブ配信をしたりと、『グランツーリスモSPORT』とは対照的な展開です。

森田氏: プロ選手たちそれぞれの姿を前面に押し出して彼らが戦う面白さを伝え、なおかつきちんとファンが付いて来られる内容になることを心がけています。

――18年のプロ対抗戦は無観客の大会でしたが、リーグ最終戦はソニー本社で、上位2チームから優勝を決めるグランドファイナルは東京ゲームショウ2018(TGS2018)の会場で、それぞれ観客を入れて行いました。

森田氏: TGS2018では来場者が1000人を超え、立ち見が出るほどの盛況でした。

 YouTubeを中心に配信もしていますが、これも回を追うごとに再生数が伸びています。おおよそですが18年の1.5倍に伸び、19年の大会の総再生回数は100万を超える数を記録しました。自分でプレーするだけでなく、「観戦する」というeスポーツならではの楽しみ、習慣が根付いてきていると実感しています。

既存のエンタメから「見せ方」を学ぶ

――『グランツーリスモSPORT』は裾野を広げる、「CoD」ではeスポーツの醍醐味を味わってもらうという試みの手応えはいかがですか?

森田氏: ありがたいことに徐々にではありますが、我々がこうあってほしいと思う流れになってきました。ゲームに接点や興味がなかった人が「ゲームをやってみよう」と思うきっかけとしてeスポーツが機能し、PS4と触れ合う機会を創出してくれています。

 ゲームにはタイトルごとにコミュニティーがありますから、eスポーツもそのコミュニティーによって喜んでもらえるベストな形が変わってきます。2タイトルでeスポーツとしての展開は異なりますが、いずれもそこは強く意識しているつもりです。

 もっともeスポーツ市場はまだまだ小さく、今後も裾野を広げる活動は必要です。これには、ゲーム自体にトーナメント機能を入れて気軽に腕試しができるようにするなど、ハードルを下げる努力をしています。

「eスポーツによってゲームコミュニティーを拡大し、多くの人にPS4を楽しんでもらえるようになれば」と語る森田氏(写真/志田彩香)
「eスポーツによってゲームコミュニティーを拡大し、多くの人にPS4を楽しんでもらえるようになれば」と語る森田氏(写真/志田彩香)

 一方で、eスポーツを見に行く人を増やすことも必要です。そこに関しては、スクリーンに選手の顔をアップで映す演出をするなど、ひいきの選手やチームを見つけられる工夫をしています。好きな選手ができれば応援したい、試合を見たいというモチベーションが高まります。それが結果的に裾野を広げることにつながっていくはずです。

 例えば「あの選手みたいなプレーをしたい」と思うのと同様、「自分はゲームが上手ではないからこそ、プロの選手を応援したい」「プレーは苦手だけど、見るのは好き」といった「見る文化」があるのもeスポーツの特徴です。さまざまなエンターテインメントの業界からヒントを得ながら、見て楽しいeスポーツイベントのあり方を模索していきたいと思います。

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