世界累計利用者数が5100万人を突破した人気ゲーム『モンスターストライク』(モンスト)を配信するミクシィ(2019年7月時点)。同社がゲームの開発・運営と併せて注力しているのがeスポーツだ。プロ向けや学生向けなど複数の大会を運営している。
賞金総額1億円を懸けた「モンストグランプリ」、日本eスポーツ連合(JeSU)が発行するプロライセンスの保持者のみが参加できる「モンスターストライク プロフェッショナルズ」(モンスト プロツアー)、18歳未満および18歳の高校生のための「モンストジュニアグランプリ」――ミクシィが「XFLAG」(エックスフラッグ)ブランドの下で運営する『モンスト』のeスポーツ大会は、目的やレギュレーションに少しずつ差をつけながら、それぞれに地方予選や地方大会を開催している。大会を分ける理由や同社がeスポーツに取り組む狙い、スポンサーとの関係、今後の戦略などを、同社でeスポーツ分野を統括している田村征也氏に聞いた。
――まずはXFLAGで行っているeスポーツ大会の変遷をお聞かせください。
田村征也氏(以下、田村氏) 『モンスト』のeスポーツイベントを最初に行ったのは、15年のモンストグランプリからですね。その時はまだ賞金はありませんでした。賞金が出るようになったのは、翌16年に開催した「モンストグランプリ2016」からです。
2年後の18年には、JeSUのプロライセンス制度が始まり、ライセンスを発行された8チームがプロチームとして活動するようになりました。19年7月に決勝大会が行われた「モンストグランプリ2019」の結果、4チームが新たにプロになり、現在は12チームに拡大しています。
――18年末には「グランプリ」とは別にプロチームのみが参加できる「プロツアー」を開始しました。
田村氏 「モンスト プロツアー2018」ですね。限られたチームでポイントを競う形式の大会はそれまでありませんでしたし、コンスタントに勝ち続ける難しさもあります。各チームは試合ごとではなく、ツアー全体として勝つ戦略を練っていているようでした。
試合ごとにファンが勝敗予想をする企画を設けて、ファンの期待を背負っていることを各チームに感じてもらう仕掛けもしました。選手には重圧になりますが、期待は人気のバロメーターでもあるので、それは背負ってほしいんです。
そうしたこともあってか、開始当初は不慣れだった運営やチームも誰もが“プロ然”としてきたと思います。「今池壁ドンズα」をはじめとする数チームにはファンもつき始めて、タレント化し始めています。19年には「らぶましーん」と「Cats」という2つのチームが合同イベントを開いたり、各チームに地方のイベントへの出演オファーが来たりと活動の幅も広がってきました。岩手県陸前高田市のイベントでは宮城県に拠点を置く「4Sleepers」が現地でゲスト解説をしました。
プレーヤーやチームは、XFLAG支配下の選手ではないですし、(公正な試合をするためにも)一定距離を置くことは必要ですが、プロ選手のバリューを高めるためにも、協力できることはしていきたいと考えています。
19年11月には「モンスト プロツアー 2019-2020」が始まりますが、前述のようにプロチームが4チーム増えて12チームになったので、その分、成果を出していきたいですね。
19年に合同イベントを開いたチームが誤っていました。お詫びして訂正します。[2019/10/18 12:10]
U18からプロへの道ができた
――ジュニアグランプリに関してはどうでしょうか。
田村氏 「モンストジュニアグランプリ2019」を19年1月に「闘会議」(Gzブレインとniconicoが主催するゲームイベント)の会場で行いました。年齢を区切ったものの、実際にやってみるとモンストグランプリと実力の差はあまりないことが分かりました。やはり、年齢による差が出にくいのがeスポーツであり、『モンスト』だと再確認できました。身体的なハンディがある人でも、実力があれば十分にプロと渡り合えるでしょう。
ジュニアグランプリの最大の問題は、プロとの差よりも仲間集めですね。高校生の場合、同じ高校や近所に住む友達とチームを組むことが多いので、全国を勝ち抜けるだけの実力を持ったメンバーを4人そろえるのが難しいわけです。
一方で、U18からプロへの流れができたのは良かったことです。優勝チームの「次世代BOX」は、同年のモンストグランプリに挑戦しています。U18の大会からプロを目指すと言う道筋ができました。それこそ野球やサッカーのように、高校生時代に全国大会を目指し、そこで活躍した選手にプロへの道が開かれるようになればと思います。
――モンストグランプリ2019は賞金総額が1億円となり、過去最大規模となりましたが、運営側の手応えはいかがでしたか。
田村氏 賞金総額が1億円、優勝賞金が4000万円になりました。スポンサー企業が増え、観客数も1万5000人(ステージ観覧は8000人、サテライト会場での視聴が7000人)に達して、かなり満足しています。
特に今回、トヨタとGoogle Play(Google)、Number(文藝春秋)がスポンサーになったのは、我々にとっても、eスポーツへの協賛を考えている企業にとっても大きかったと思います。eスポーツや『モンスト』は若年層のプレーヤーが多いですから、若者にアピールしたい企業とは利害が合致するんだと思います。それから、Numberの連載で記者に「これはスポーツだ」と書いてもらえたのはうれしかったですね。
――大企業の協賛が増えてきましたが、今後、eスポーツ事業はどう展開していきますか。
田村氏 将来的には収益化したいと考えています。ゲームのプロモーションとしてeスポーツを扱っている限り、その効果がなくなればやめざるをえなくなる。今後は入場料や配信権、放映権料など、プロスポーツの興行として運営できる収益源を開拓していきたいですね。チームをIP(キャラクターなどの知的財産)として見れば、ファンからの“投げ銭”のようなビジネスもできるかもしれません。
――ミクシィもしくはXFLAGにとって、eスポーツ事業はどのような位置づけになるのでしょう。
田村氏 ミクシィは(ゲームメーカーというより)IT企業ですから、5Gを含むIT技術との組み合わせも考え、事業に活用していきます。
さしあたって、『モンスト』のバックアップやグッズの購入、イベント参加などに使うXFLAG IDはマーケティングに使えます。19年7月に行った総合イベント「XFLAG PARK 2019」でも、XFLAG IDと入場チケット、会場での決済などをひもづけることで、効果的に管理することができました。このあたりのノウハウは、eスポーツに限らず、さまざまなイベントに転用できると思います。ゆくゆくは、他社にも提供し、事業にしていきたいですね。
(写真/志田彩香、岡安 学)