消費者による化粧品の口コミ情報などを提供するコスメ・美容の総合サイト「@cosme(アットコスメ)」。同サイトを運営するアイスタイルは、購入客を2段階、見込み客を4段階にランク分けし、販促を効率的に行える化粧品メーカー向けのサービスを2019年12月から開始。新たな収益源に育てる予定だ。
「これまで化粧品を販売する企業側は、購入者のデータしか把握できなかった。だが、自社の商品を閲覧したり、『お気に入り』に登録したりした人を将来購入につながりそうなユーザーとして可視化することで、その層を集めたグループインタビューやイベントを行えれば、より深いマーケティングが行えるはず」。そう話すのは、アットコスメを運営するアイスタイルの吉松徹郎社長だ。
化粧品の販促をより効率的に行うためのサービスの名称は「ブランドオフィシャル」。19年9月26日に開催された同社のクライアント向け戦略発表会で、同年12月から本格的にサービスを提供すると発表した。
「購入してくれそうな人」の数が分かる
具体的には、同サイトを訪れる月間約1350万人のユーザーのIDと掲載商品のIDをひも付けして管理。さらに、同社が運営するECサイト「@cosme shopping」、化粧品を販売するリアル店舗「@cosme store」の購買履歴なども各商品IDにひも付ける。その商品のページを閲覧した人の購入やクチコミ投稿行動を分析し、データベース化。商品は同一ブランドで口紅やメイク用品など複数を発売している場合は、各商品の情報をブランド単位で集約したうえで、購入客は2段階、見込み客は4段階の合わせて6つの階層に分けて可視化する(下図参照)。企業側は「自社ブランドの商品に興味を持ったが、買うまでには至らなかった」という人が何人いたか、見込み客を具体的に把握できるのがメリットだ。ユーザーの個人情報は開示しないが、どんな情報に触れることで、リピート客になっていったのかといった情報も分かる。
一般的に、顧客情報の管理や分析までをひとくくりにしてCRM(Customer Relationship Management)と呼ぶ。ブランドオフィシャルもCRMの一種といえるが、まだ購入していない人の情報まで管理できる点が既存のCRMと大きく異なると、吉松社長。実は今回のサービスの青写真は、同社を創業した2000年ごろから吉松社長の心の中にあったという。
効果測定が簡単
「多くの企業が情報収集や分析にかなりの金額を投資しているが、『誰に売りたいのか』を明確にできるだけで、マーケティングのコストが削減できるのではないかと考えた」(吉松社長)。「20~30代女性」という大まかなターゲット設定して広告を出しても、どの程度の効果が出たのか実際には分からないということは多い。
その点、ブランドオフィシャルで各ランクに該当する人数を把握できれば、アットコスメを利用して、それぞれに最適な販促策が打てる。例えば、「D」ランクに相当する「自社ブランドの商品を積極的に閲覧した人」に絞ってサンプル配布を告知できれば、その後の効果測定は容易だ。様々な販促策で各ランクの人数がどう変化するか分かれば、無駄な販促は減る。
同社が2018年から始めたイベント「@cosme Beauty Day」は、通常は同社のECで取り扱いのないブランドや数量限定商品を1日限定で販売するという企画。ユーザーの注目度は高く、18年のイベントでは4億円を売り上げた。新しいブランドをユーザーに知ってもらうという狙いもあるが、今後はアットコスメの利用企業に見込み客の情報を提供するという別の目的も重要になる。「数量限定品100個に2000人が応募した場合、『抽選にはもれたが、そのブランドの商品に興味がある1900人』のデータが集まる」(吉松社長)。
アイスタイルが展開するリアル店舗も利用企業に、見込み客の情報を提供する重要なツールになる。19年中には東京・原宿駅前に旗艦店となる「@cosme TOKYO」を開店予定。リアル店舗でアットコスメの利用者があるブランドの商品を試し、購入に至ったか否かといった情報も「ブランドオフィシャル」では提供するためだ。
月額利用料は1ブランドにつき50万円
ブランドオフィシャルの契約料は1ブランドにつき月額50万円。「1契約で複数人が情報を閲覧できるので、マーケティング部門から開発部門まで幅広く情報を共有できる」(アイスタイルの広報担当者)という。同社は20年6月末までに300ブランドとの契約を目指す。目標通りなら単純計算で、年間18億円相当の増収となり、新たな収益源へと育つ予定だ。
(画像提供/アイスタイル)