タイトーが2015年度から開催している「闘神祭」は、ゲームセンターなどに設置されているアーケードゲームを使ったゲーム大会。PCや家庭用ゲーム機、スマートフォンで争うeスポーツが話題の今、なぜアーケードゲームなのか。その狙いや現状、今後の展望をタイトーの山田哲社長に聞いた。

タイトーの山田哲社長。1983年に一橋大学経済学部卒業、同年東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。89年マサチューセッツ工科大学経営大学院修了(経営学修士)、90年ハーバード大学ハーバード・ビジネス・スクール修了(MBA)。以降、日本コカコーラ副社長、スターバックスコーヒージャパンオフィサー、フェニックスリゾート社長、ローソンオーバーシーズカンパニー社長を経て、2016年タイトー取締役副社長、17年4月より現職
タイトーの山田哲社長。1983年に一橋大学経済学部卒業、同年東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。89年マサチューセッツ工科大学経営大学院修了(経営学修士)、90年ハーバード大学ハーバード・ビジネス・スクール修了(MBA)。以降、日本コカコーラ副社長、スターバックスコーヒージャパンオフィサー、フェニックスリゾート社長、ローソンオーバーシーズカンパニー社長を経て、2016年タイトー取締役副社長、17年4月より現職

 闘神祭は、ゲームメーカーの人気アーケードゲームタイトルを使って争われるゲーム大会だ。タイトルは『ストリートファイターV タイプアーケード』など、一般的なeスポーツと共通のシリーズもあれば、全く異なるものもある。

19年3月に決勝大会が開催された「闘神祭2018-19 CHAMPIONS CARNIVAL」のステージ
19年3月に決勝大会が開催された「闘神祭2018-19 CHAMPIONS CARNIVAL」のステージ

 大会の主な舞台は全国のゲームセンターだ。参加店舗で行われる予選、地域ごとのエリア決勝大会を勝ち上がった代表者らが決勝大会に進出。日本一を決める。一般的なeスポーツ大会には、予選をオンライン対戦で済ますもの、出場選手が1カ所に集まって1~2日で予選から決勝まで終えるものもあるが、闘神祭は各地のゲームセンターで、タイトルによっては半年近くかけて予選を行うのが特徴だ。参加人数や決勝大会の来場者が年々増えており、人気はじわじわと高まってきた。日本、米国、韓国では大会の様子を動画配信している。

「闘神祭」の参加者数、決勝大会の来場者数の推移。
「闘神祭」の参加者数、決勝大会の来場者数の推移。

ゲームセンターとそのコミュニティを盛り上げたい

 そもそもタイトーが闘神祭を始めたのは、集客が伸び悩むゲームセンターを盛り上げるためだ。かつては若者のたまり場といわれたゲームセンターだが、PCや家庭用ゲーム機のオンライン対応やスマホゲームの普及もあってか、近年は全国的に勢いはない。そこで、「タイトーステーション」などのアミューズメント施設を運営するタイトーが活性化に乗り出した。

 タイトーの山田社長は、「ゲームセンターの楽しさを再発見してもらいたい。アーケードゲーム業界全体を盛り上げるために、ゲーム大会を開催しようということになった」と説明する。

 その方向性に若干の変化が出てきたのはこの1、2年だ。タイトーは「eスポーツ」という言葉が一般化する前から闘神祭を含むさまざまなアーケードゲームの大会を開催してきたが、eスポーツの盛り上がりによってその位置づけが曖昧になってきたのだ。そこでアーケードゲームを使った大会を「e-ARCADE SPORTS」(eアーケードスポーツ)として再定義。19年4月には社内に専門部署を作り、より積極的に取り組んでいくことにした。

 今、同社が目指しているのは、e-ARCADE SPORTSの世界展開だ。山田社長は、「闘神祭はアーケードゲームゲームの全国大会。そして世界で最もアーケードゲームが盛んな国は日本だ。それならば闘神祭を世界大会にしてしまおうと考えた」という。

 20年5月に東京で決勝が行われる大会を「闘神祭2020~World Championship of ARCADE~」と題し、初めて米国予選を設けた。カジノホテルなどを運営している米シーザーズ・エンタテインメントの協力を受け、19年8月に同社が運営するラスベガスのeスポーツラウンジで『ストリートファイターV タイプアーケード』の予選を開催。同じくラスベガスで開かれた世界規模の格闘ゲーム大会「EVO 2019」の前日にタイミングを合わせたことで、有名プロゲーマーを含む26チーム78名が参加し、盛況だった。

ラスベガスで開催された「闘神祭2020~World Championship of ARCADE~」の米国予選
ラスベガスで開催された「闘神祭2020~World Championship of ARCADE~」の米国予選

なぜ、わざわざゲームセンターなのか

 闘神祭開催の告知は、今も主としてゲームセンターで行っている。このため、参加者はゲームセンターに普段から足を運んでアーケードゲームをプレーしている人が中心だ。それらの人は、自宅でPCや家庭用ゲーム機、スマホを使って手軽にオンライン対戦が楽しめる時代に、なぜわざわざゲームセンターに行くのか。

 この質問に山田社長は、ゲームセンターを子どもの頃にみんなで集まって遊んだ河川敷のグラウンドに例えて説明した。「今活躍しているプロの野球選手やサッカー選手が、かつてはそうしたグラウンドで友達や先輩・後輩と遊び、練習することで成長していったように、eスポーツのプロを目指す人にとって、ゲームセンターが登竜門になり得るのではないか」(山田氏)。

 PCや家庭用ゲーム機でネットワークを通じた対戦を行うのとは違い、ゲームセンターでは互いの顔が見えるのもいいところだ。

 「ゲームセンターは今も黙々とプレーする人が多く、お互いに背中で語り合うような空気がある。一方で、みんなでもっとオープンにたたえ合うような、対話のあるコミュニティーも形づくれるのではないかと考えている。闘神祭には3人1組で出場するチーム戦もあり、仲間を集めるところから始めないといけない。それぞれのゲームセンターに根付いたコミュニティーを大事にしていきたい」(山田氏)

闘神祭では準決勝、決勝は大型スクリーンの付いたステージで行う。優勝するとプレーヤーの名前だけでなく、勝ち上がってきた地域やゲームセンター名も掲示されるところにもコミュニティーを大事にする姿勢が見える
闘神祭では準決勝、決勝は大型スクリーンの付いたステージで行う。優勝するとプレーヤーの名前だけでなく、勝ち上がってきた地域やゲームセンター名も掲示されるところにもコミュニティーを大事にする姿勢が見える
「闘神祭2018-19 CHAMPIONS CARNIVAL」決勝大会の様子
「闘神祭2018-19 CHAMPIONS CARNIVAL」決勝大会の様子

ダンスゲームやクレーンゲームでも競いたい

 今後は、一般的なeスポーツイベントとは異なるタイトルを取り入れて枠を広げ、独自性を保っていく考えだ。

 「eスポーツになくても、e-ARCADE SPORTSなら対象になり得るゲームはたくさんある。今のeスポーツは格闘系や戦略系のゲームが多いが、フィギュアスケートのような採点競技に近いものがあったっていい。例えば、ダンスゲームや、クレーンゲームで難しい置き方をしてある景品を何秒で取れるかといった競技もできるのではないか」(山田氏)

 確かにゲームセンターというリアルな場で、ダンスゲームの有名プレーヤーたちが競う様子を見られたら見ごたえがありそうだ。クレーンゲームの妙技を見るのも面白いだろう。

ゲームセンターにはダンスゲームやリズムゲーム、クレーンゲームなど多様なゲームがある
ゲームセンターにはダンスゲームやリズムゲーム、クレーンゲームなど多様なゲームがある

 「『スペースインベーダー』なんかもいいかもしれない。昔、ゲーム機の上に100円玉を積み上げて遊んだという年代の人が参加してくれるかも」と山田氏は楽しそうに話す。

 そうやってe-ARCADE SPORTSの枠を広げることで、今のeスポーツとは違う層、例えば女性層や高齢者層などを取り込みたいのだという。「『これなら自分もやってみたい』と思ってゲームセンターに足を運んでほしい。そこで別のゲームに出合って『このゲームも面白そうだ、遊んでみよう』と思ってもらえればいい」(山田氏)。それができれば、闘神祭の本来の目的であるゲームセンターの再発見と活性化にもつながる。

現状のeスポーツとは異なる方針を語る山田社長
現状のeスポーツとは異なる方針を語る山田社長

他業種や地方自治体との連携も探る

 さらに、他業種との連携も視野に入れている。「闘神祭に参加するゲームのコアユーザーや観戦者たちと接点を持ちたいという企業は多いと考えている」(山田氏)

 社内では参考例として『東京ガールズコレクション』を挙げることがあるという。若い女性とそこにアピールしたい企業が多く集まる人気のイベントだ。同様に、「闘神祭というゲームイベントの場で、ゲームを通じて若い世代の男性にアプローチしたいというアパレルやサービス関連企業を巻き込んで何かできるのではないか」(山田氏)

 地方での取り組みにも関心を寄せる。先に述べたように、闘神祭は全国各地のゲームセンターで長期間にわたって予選を行っている。そうした予選の場を生かした事業を展開したい考えだ。同社では「リアル謎解きゲーム」などの体験型エンターテインメントも手掛けており、それを地方創生のイベントに生かしている地方自治体ともつながりがある。闘神祭の予選と地方イベントを組み合わせた仕掛けも検討していきたいという。

(写真/志田彩香、写真提供/タイトー)

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