eスポーツの話題性が増すとともに、非ゲーム系企業がeスポーツ大会やeスポーツチームを支援するケースが増えている。お菓子の「ベビースターラーメン」で知られるおやつカンパニー(津市)もその1つ。同社は名古屋に拠点を置くeスポーツチーム「名古屋OJA」のシャドウバース部門のオフィシャルパートナーを務める。テレビCMや雑誌広告などと違い、直接的な効果が見えにくいeスポーツへの協賛は、企業にとって何をもたらすのか。また、企業は何を目標に協賛を続けるのだろうか。
おやつカンパニーが支援する名古屋OJAは、2016年に発足した名古屋を拠点とするeスポーツチーム。ゲームジャンルによって3つの部門に分かれており、このうちスマートフォン向けのコレクティブカードゲーム『Shadowverse(シャドウバース)』の部門が、18年3月におやつカンパニーとオフィシャルパートナー契約を結んだ。現在はShadowverseのプロリーグ「RAGE Shadowverse Pro League」に参戦している。
「当初のきっかけは、名古屋OJAからの声掛けだった」とおやつカンパニー専務執行役員マーケティング本部長の髙口裕之氏は振り返る。
現在、eスポーツは都市部を中心に盛り上がっているが、徐々に地方で活動するチームも登場しつつある。名古屋OJAもその1つで、「地域に根付いたチームを目指すうえで、東海地方に関わりが深い企業をスポンサーとして探して、我が社に白羽の矢が立った」という。
当時は今ほどeスポーツが話題になっていなかったが、決定に迷いはなかったそうだ。決め手を問うと、髙口氏は「長年マーケティング事業に携わってきた嗅覚としか言いようがないのだが」と前置きしつつ、大きく4つの狙いを挙げた。
「eスポーツはそれ自体がメディアだ」
1つ目は、レトロなイメージからの脱却だ。「当社の主力商品であるベビースターラーメンは、誕生から60年。おかげさまで駄菓子の定番として認知されている一方、『レトロ』『懐かしい』といったイメージも伴う。ともすると古臭いと捉えられかねない。時代の変化に合わせて、もっと現代的なイメージを付与したい。それにはデジタル時代を象徴するeスポーツは最適だった」(髙口氏)。
2つ目は、若い世代との接点だ。ベビースターラーメンは、ライフタイムバリューが大きい商品で、子どもの頃に慣れ親しんだ人が大人になっても愛好するケースが多い。その結果、ファンの中心は30代~40代まで年齢が上がった。根強いファンがいるのはよいことだが、新たな世代が入ってこないのは問題だ。そこで、次世代とのタッチポイントとして、10代~20代のファンが多いゲームやeスポーツに目を付けた。
3つ目は、「eスポーツはそれ自体がメディアになり得る」(髙口氏)ことだ。eスポーツは、ゲームによる対戦をネットで配信、ユーザーはそれをパソコンやスマートフォンで視聴する。「eスポーツに関わることで、ユーザーにダイレクトに情報を届けられる」と髙口氏は見る。
しかも、「早期に参入するからこそ、そのメリットは大きい」と髙口氏。「マーケットの原理と同じこと。新たな市場は先行することで参入コストを抑えられる。今は小さな規模でも、今後成長すれば、自然と我々の知名度も上がっていくだろう」。そのとき、競合が入ってきても、開拓者としてのイメージや立ち位置はむしろ維持されるとも話す。
こうしたイメージ戦略と併せ、視野に入れているのが4つ目の狙い、新規販売チャネルの拡大だ。スーパーやコンビニエンスストアといった従来の取引先とは別に、eスポーツのコミュニティーを生かした売り方や売る場所などを掘り起こせるのではないかと考えている。
eスポーツならではの商品、売り方を生み出す
例えば、18年9月に開催されたeスポーツイベント「RAGE 2018 Autumn」の会場では、サッポロビールとおやつカンパニーのコラボレーションブースが設置された。これは以前、サッポロビールが協賛する「レバンガ☆SAPPORO」の選手とおやつカンパニーが協賛する名古屋OJAの選手が、それぞれのスポンサー企業の商品である「黒ラベル」とベビースターラーメンを持った写真をTwitterに投稿し、ファンの間で話題になったことがきっかけだった。こうした取り組みは、まさにeスポーツを生かした売り方、売る場所の一例といえるだろう。
eスポーツが一般に認知されるようになれば、スーパーなどでeスポーツ関連のイベントやキャンペーンを行う可能性も出てくると髙口氏は見ている。
というのも、近年、小売業では「夏休み」「秋のお彼岸」「ワールドカップ観戦」などイベントと結びつけることで商品を売る手法が活発だ。一番の成功例がハロウィーン。ハロウィーンの時期になると、仮装衣装やメーク用品、お菓子などを並べた特設棚を設置するスーパーやバラエティーショップを見たことがある人も多いだろう。これまでなかった新しい文化を切り口にすることで、新たな商品の販売機会を開拓した。このように、“モノ”を売るきっかけとなる“コト”を創出することが重要になっている。
こうした企画にeスポーツ観戦が入れば、真っ先に参入したおやつカンパニーの商品は取り上げられやすくなるはずだ。これは、大会の協賛ではなく、チームに長期的視野で関わっている企業だからこそできるアプローチ。今後、おやつカンパニーとしても小売りに働きかけ、「我々が長年培ってきた非デジタル分野から、『シャドウバース』やそのプロリーグを有名にする過程に貢献していきたい」と髙口氏は語る。
選手、ファンと合同ブレストがしたい
では、現状、おやつカンパニーは、どんな形でチームや選手と関わっているのだろうか。
髙口氏によると、名古屋OJAの選手に、試合や配信などでベビースターを食べてもらうことから始めている。「彼らの生活の中に自然とベビースターが溶け込むのが望ましい」(髙口氏)。ゆくゆくはeスポーツが定着し、リーグ、チーム、さらには選手が有名になったとき、その周辺のアイテムがセットで注目される。「選手を見て、ベビースターを思い出す、そういう形になれば、たくさん商品の選択肢がある中でブランディングになるはずだ」(髙口氏)。そのときに備えて、今から選手と商品の親和性を高めようと考えているのだ。
ただ、eスポーツは現状、野球やサッカー、テニスのようにその種目の認知度自体を押し上げるようなスター選手がいないのが悩みだ。だが、それについても「だからこそ既存のスポーツの選手とは違うアプローチがあると思う」と主張する。
中でも「絶対やってみたい」というのが、選手、ファンを巻き込んだファンミーティング。単なるファン感謝祭のようなものではなく、選手とファン、スポンサーであるおやつカンパニーの三者が一堂に集まって、同社のお菓子を食べながら、eスポーツやチームをどう盛り上げていくかをディスカッションする会だ。「eスポーツを共通項にした一種の合同ブレスト(ブレインストーミング)。実現すれば話題になり、選手やファンも発信してくれるはず。それ自体がプロモーションになる」(髙口氏)。
さらにそこから商品開発にもつなげたい考えだ。「eスポーツシーンに適したお菓子はどんなものか。新たな商品や販売のアイデアが生まれるかもしれない」と髙口氏。これは、eスポーツがまだ発展途上で、かつおやつカンパニーの商材が安くて身近なお菓子だからできることという。「サッカーでクリスティアーノ・ロナウドを呼ぼうと思っても無理でしょう」と笑顔を見せた。
1年の成果、SOVはかなりのもの
eスポーツチームのオフィシャルパートナーになって1年。最後にその成果を聞いてみた。すると「取り組みはまだまだこれから」ではあるものの、「現状でもそれなりに成果は出ている」と髙口氏は答えた。
その最たるものは、同業他社や取引先、メディアなど、さまざまな企業からeスポーツについて聞かれることが増え、eスポーツ参入の先駆者として見られるようになってきたことだ。実際、この1年、eスポーツや『シャドウバース』がメディアなどで話題になる際は、同社の名前も併せて挙がる機会が多かった。「計算まではしてはいないが、SOV(Share of Voice、競合する企業や製品・サービスと比較した広告出稿量やメディア露出量)はかなりのものだ」(髙口氏)。
今後も、企業のブランディング調査などを通じ、継続的に効果を測りながら取り組みを拡大する。「具体的な数値目標を掲げるのではなく、現代的ではないという企業イメージを補完できていればよし」(髙口氏)。そのうえで、前述した新規販売チャネルの開拓や選手、ファンの声を生かした商品開発などを目標に掲げた。
「すべては、ベビースターを買って食べてもらう新たな機会を作るため。競合製品と差を付けていきたい」と髙口氏。いずれは、17年1月から採用された3代目キャラクターの「ホシオくん」とのコラボもありそうだ。「ホシオくんは歌って踊れて、スマホなどのIT機器を使いこなせる現代的なキャラクター。eスポーツで活躍しても不思議ではない」(髙口氏)。近い将来、ホシオくんと名古屋OJA ベビースターの選手たちがベビースターのイメージを一新するかもしれない。
(写真/志田彩香)