eスポーツチームとのスポンサー契約や大型イベントへの協賛など、eスポーツに今、積極的に投資しているのが携帯電話会社だ。特にNTTドコモ、KDDI(au)が積極的。高速、大容量、低遅延を特徴とする次世代通信技術「5G」時代に、eスポーツ、ゲームは有力なビジネス領域になるとして競争が活発化している。

KDDI(au)は日本eスポーツ連合(JeSU)のオフィシャルスポンサーの1つ。JeSUが送り出す日本代表のユニホームには、「au」のロゴが入っている(写真提供/KDDI)
KDDI(au)は日本eスポーツ連合(JeSU)のオフィシャルスポンサーの1つ。JeSUが送り出す日本代表のユニホームには、「au」のロゴが入っている(写真提供/KDDI)

 携帯電話会社の中で、先行してeスポーツに参入したのKDDI。同社は2017年3月、Sun-Gence(千葉県市川市)が運営するプロeスポーツチーム「DetonatioN Gaming」とスポンサー契約を締結した。DetonatioN Gamingは日本で初めて一部選手にフルタイム・給与制を取り入れたことでも話題になった有名チームだ。

KDDIと17年にスポンサー契約を結んだプロeスポーツチーム「DetonatioN Gaming」 (c) 2019 Riot Games, Inc. All rights reserved(写真提供/KDDI)
KDDIと17年にスポンサー契約を結んだプロeスポーツチーム「DetonatioN Gaming」 (c) 2019 Riot Games, Inc. All rights reserved(写真提供/KDDI)

 その後、日本eスポーツ連合(JeSU)のオフィシャルスポンサーにも加入。JeSUは18年9月に開催された第18回アジア競技大会 デモンストレーション競技などに日本代表を派遣しているが、その際の代表のユニホームにも「au」のロゴがあしらわれている。eスポーツチームへの協賛を中心に、長期的視野で取り組んでいる。

 これに対し、NTTドコモはイベント協賛が中心。格闘ゲーム大会「EVO」(Evolution Championship Series)の日本版「EVO Japan」に18年、19年と連続して協賛。19年3月にはビットキャッシュ(東京・渋谷)と共同でeスポーツイベント「DIG INTO GOOD GAMES」を開催したり、9月の東京ゲームショウ2019(TGS2019)にブース出展したりしている。

東京ゲームショウ2019のNTTドコモブース
東京ゲームショウ2019のNTTドコモブース

狙いはeスポーツのインフラ

 eスポーツに参入する携帯電話会社の第一の狙いは5Gを使った技術検証だ。

 eスポーツでは、遠隔地にいるプレーヤー同士の対戦、その試合の観戦のいずれにおいても高品質な通信が必要不可欠になる。格闘ゲームなど、コンマ何秒かの反応の遅れが勝敗を左右するゲームも少なくない。現状は、eスポーツイベントの会場に光回線を用意して環境を整備しているが、それでは場所が限られるのが難点だ。5Gの無線通信で十分な対戦環境を用意できれば、イベント開催場所の選択肢は広がり、コストも下がる。

 NTTドコモ コンシューマビジネス推進部 デジタルコンテンツサービス ゲームビジネス担当の森永宏二担当課長は、「2年ほど前から、新たなビジネスチャンスとしてeスポーツに注目してきた」と明かす。最初の試みは、18年に協賛したEVO Japan 2018。池袋の予選会場に実証実験ブースを設置。格闘ゲームで対戦する片方のユーザーの回線を光から5Gに置き換え、体験者にアンケートなどを行った。「格闘ゲームのファンには目の肥えた人が多いので、5Gの体感やニーズを探るのに最適だった」と森永氏は話す。

 19年以降は、観戦も視野に入れて、実験レベルを高めた。1月のEVO Japan 2019では、8KかつVR(仮想現実)でのリアルタイム配信などに挑戦。福岡市のイベント会場の来場者と遠隔地にいるトッププレーヤーを格闘ゲームで対戦させ、それをほかの来場者が8K、VRの映像で見られるようにした。

EVO 2019では8KVRによるリアルタイム配信を実践
EVO 2019では8KVRによるリアルタイム配信を実践

 9月のTGS2019の自社ブースでは、格闘ゲーム『ストリートファイターV アーケードエディション』のプロプレーヤーである梅原大吾選手とときど選手の過去の対戦をAR(拡張現実)で再現し、観戦者がスマートフォンで見られるデモなどもしている。

 森永氏は「現状は5Gのインパクト重視というところもあるが、大容量を生かした見せ方の可能性を探っていきたい」と話す。

AR観戦のデモ。スマートフォンを通して見るとテーブルの上でゲーム内キャラクターが戦っているように見える。キャラクターの背後にも回れる(写真/島 徹)
AR観戦のデモ。スマートフォンを通して見るとテーブルの上でゲーム内キャラクターが戦っているように見える。キャラクターの背後にも回れる(写真/島 徹)

 一方のKDDIも、同様の実証実験には積極的だ。例えば、19年に全国の高校を対象とした“eスポーツの甲子園”「Coca-Cola STAGE:0 eSPORTS High-School Championship 2019」に協賛。8月に行われた決勝大会では、スポーツニュースアプリ「SPORTS BULL」上で、合計12画面を同時配信するマルチアングル配信を行った。

 KDDIのコミュニケーション本部宣伝部長の馬場剛史氏は「マルチアングル配信では活躍した選手や有名選手を選んで見る視聴者が多く、手応えを感じた」と自信をみせる。

 配信にも視聴にもまだセオリーとなる方法が確立していないeスポーツだからこそ、各社とも自社の通信技術の強みを生かした配信方法の探り合いに余念がない。

「Coca-Cola STAGE:0 eSPORTS High-School Championship 2019」の様子
「Coca-Cola STAGE:0 eSPORTS High-School Championship 2019」の様子
STAGE:0の様子を「SPORTS BULL」でマルチアングル配信した
STAGE:0の様子を「SPORTS BULL」でマルチアングル配信した

ブランディング、店舗誘導のきっかけにも

 携帯電話会社がeスポーツに求めるものの第1は技術検証、5G時代のビジネスチャンスだが、プラスアルファの要素もある。それは、他業種の企業同様、若い世代との接点だ。

 学生向けの料金割引プランや、学校生活を舞台にしたテレビCMなど、他業種に比べれば若い層との接点があるように思う携帯電話会社だが、それでも「10代、20代は最もアプローチしにくい世代」と口をそろえる。松田翔太、濱田岳、桐谷健太などが出演する「三太郎シリーズ」でCM好感度トップ10の常連であるKDDIでも、「年齢が上の層には響くが、若い人にはテレビを見ない人も多く、なかなかリーチできない」(馬場氏)と嘆く。そんな中、若い世代が多く見ているeスポーツへの期待は高まってきたのだ。

 ただし、具体的な取り組みは企業によって異なる。

 KDDIは前述のようにプロeスポーツチームへのサポートが主だ。実はKDDIはスポーツ振興に積極的な企業。サッカーの日本代表や京都サンガF.C.、GTレース「SUPER GT」の「LEXUS TEAM TOM'S」、スポーツクライミングでは楢﨑智亜、野口啓代、藤井快ら日本代表を含む5人の選手を「TEAM au」として支援している。この流れの中に、eスポーツチームの支援も位置付けている。

 KDDIの馬場氏は「これらの活動を知った人がすぐにauに切り替えてくれるということはないが、ブランドとしての姿勢を知ってもらうことができる。中でもeスポーツの場合、マルチアングル配信など技術的な取り組みと併せて知ってもらうことで、先進的なイメージをアピールしたい」と話す。eスポーツチームへの協賛活動による効果はまだ実感できないが、「実際に関わって、この分野が伸びている実感はある。今は直接的な効果よりもeスポーツの浸透にどう貢献できるか。そこで取り組んだことが、いずれauに戻ってくる」(馬場氏)。

auはスポーツ支援に積極的だ(写真提供/KDDI)
auはスポーツ支援に積極的だ(写真提供/KDDI)

 一方のNTTドコモは、一部のドコモショップの試みがユニークだ。NTTドコモ関西支社は19年2月以降、数回にわたり、一部のドコモショップ店舗でモバイル版『ウイニングイレブン 2019』などのスマートフォンゲームを使ったゲーム大会を行った。「ドコモユーザー以外も参加できるということで、他キャリアのユーザーにも多く来店してもらえたと聞いている」(森永氏)。東海エリアのドコモスマートフォンラウンジ名古屋でも優勝者などにdポイントをプレゼントするeスポーツ大会を開催した。NTTドコモでは現在、キャリアを問わず、dアカウントやdポイントの利用者拡大を進めており、そうしたサービスを紹介するきっかけになっているようだ。

NTTドコモ関西支社が設けたドコモショップで行われる「eスポーツ大会」の特設サイト
NTTドコモ関西支社が設けたドコモショップで行われる「eスポーツ大会」の特設サイト

 eスポーツはまだ発展途上の分野で、広く一般にまで関心が広がっているとは言いがたい。だが、今後、ゲームおよびeスポーツが通信事業において重要度を増していくというのは共通の認識だ。eスポーツの大会や観戦文化はもちろん、米グーグルや米マイクロソフト、ソニー・インタラクティブエンタテインメントなどが推進するクラウドゲーム(※)も広がれば、高品質な通信の需要は爆発的に増し、通信事業者である両社のビジネスチャンスは一層広がる。産業として盛り上がってきたとき、そこにどう参加するか。リーディングポジションを取るのか。今は地場固めの真っ最中だ。

※クラウドゲーム:ユーザーがコントローラーで入力した情報をサーバー上で処理し、その結果の映像だけを手元の端末に配信、表示するストリーミングベースのゲームシステム
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