サッカー、野球、カードゲーム……複数のジャンルでeスポーツイベントを展開するコナミデジタルエンタテインメント。2019年8月には「ウイニングイレブン」で「eFootball構想」を掲げ、11月には「実況パワフルプロ野球」2年目のシーズンを始めるなど、取り組みを拡大している。同社でeスポーツの広報を担当するプロモーション企画本部の車田貴之氏に、今後の展開を聞いた。
対戦を知るための大会が世界規模に発展
――PlayStation 4(PS4)版、モバイル版のサッカーゲームシリーズ「ウイニングイレブン」(ウイイレ)や野球ゲームシリーズ「パワフルプロ野球」(パワプロ)、モバイルカードゲーム『遊戯王 デュエルリンクス』など複数のゲームでeスポーツイベントを展開されています。特にウイイレ、パワプロはJリーグや日本野球機構(NPB)とも連携し、大きく育っています。そもそもeスポーツに取り組んだ経緯から伺えますか。
車田貴之氏(以下、車田氏): 「ウイイレ」(PS版)は、2001年に欧州で大会を開催したのが最初ですね。それから年々規模を拡大し、今では「PES LEAGUE」という名称で世界的にeスポーツ大会を展開しています。
もともと、大会を開くきっかけは「ウイイレ」の対戦の場をつくることでした。「ウイイレ」は対戦が面白いゲームですから。今でこそ、高速インターネットが普及し、家庭に居ながら、いろいろな人と対戦することができますが、当時はインフラが整っていなかったので、誰かと対戦するにはオフラインで大会を開くしかありませんでした。
その後、徐々にオンライン環境が整って、環境は変わりました。プレーにたけた人同士が対戦することで、スキルが向上し、より高みを目指すことができるようになって、今はプロ選手を育てる土壌になっています。
大会を始めた頃は、「eスポーツ」という言葉は使っていませんでした。使い始めたのは16年くらいからです。eスポーツと呼ぶようになって、それまでの大会と変わったのは、ストリーミング配信やイベントの演出など、見せることを意識し始めたことではないでしょうか。そういう意味では、今後、eスポーツ大会を興行として成り立たせないといけないと思います。ただ、まだまだプロモーションの一環として機能しているのが現状です。KONAMIとしては、eスポーツを活用し、「ウイイレ」や「パワプロ」といったタイトルの認知を高めていくことが目的です。
賞金総額2億円超の大会開く「eFootball構想」
――「ウイイレ」については、PS4版を使うPES LEAGUEに加え、モバイル版を使う「eJリーグ」も運営しています。それぞれの位置付けについてもう少し詳しく教えてください。
車田氏: 「ウイイレ」については、19年8月に新たに「eFootball構想」を掲げました。これは「eスポーツ」と「フットボール」を掛け合わせた言葉で、すべてのウイイレプレーヤーにeスポーツの楽しさを体感してほしいという思いを込めています。
そのうえで、PS4版の「ウイイレ」については、プロ選手が欧州クラブに所属し、クラブ同士が対戦する「eFootball.Pro」と、これまでのPES LEAGUEを元にした誰もが参加できるオープン大会「eFootball.Open」の2つを中核に大会を展開していきます。
eFootball.Proは、各国のクラブチームが選出したプロ選手同士が3対3で戦うチーム戦。一方、eFootball.Openは、ユーザーのレベルごとにクラス分けし、幅広い人に参加していただける1対1の個人戦です。特にeFootball.Proはリアルサッカーにおけるクラブのサポーターも応援しやすくなっています。これは、19年に行われたeJリーグでも同じような形で開催しています。
一方、モバイル版「ウイイレ」を使用したeJリーグでは、大会賞金を用意していますが、これは選手にではなく、クラブに入るようになっています。その使い道は各クラブが判断するところですが、19年7月に開催された「eJリーグ ウイニングイレブン 2019シーズン」で優勝した清水エスパルスは、子供向けのアカデミー活動に賞金を利用すると発表しています。eJリーグでの活躍が、Jリーグのクラブの発展につながるわけです。それにより、クラブのサポーターもeJリーグの選手やチームを応援しやすくなると思います。
そういえば、19年シーズンの大会でちょっと面白かったのが、7月15日に行われたeJリーグの決勝戦です。清水エスパルスとFC東京というカードだったんですが、その後の7月20日に行われたJリーグもまた清水エスパルスとFC東京という組み合わせになったんですよ。試合当日には両代表選手がスタジアムに招かれ、多くのサポーターの前で報告会も行われました。これには奇妙なつながりを感じましたね。
eJリーグはモバイル版の「ウイイレ」を使用していますから、やはり裾野が広く、19年シーズンは21万5000人ものエントリーがありました。PS4版に比べて、5~10歳若いのも特徴です。
アプリ内では、eJリーグの視聴を促す施策も行いました。日本だけでなく、世界各国からコメントも寄せられ、ゲームを通じてJリーグのことを世界に発信できたと自負しています。やはり既存のスポーツを題材にしたタイトルは、既にルールが浸透しているだけに、とっつきやすさで他のタイトルとは比べものにならないと思います。
「eBASEBALLプロリーグ」は2年目に突入
――18年に始まった「パワプロ」の大会「eBASEBALLプロリーグ」も2年目に突入しました。19年の展開はいかがでしょうか。
車田氏: 「eBASEBALLプロリーグ」はリアルなプロ野球をそのままなぞらえ、各チームが15試合を行うペナントレースとして開催しています。開催期間がプロ野球のオフシーズンに約2カ月間ありますから、その間にゲームファンだけでなく、野球ファンも見てくれるようになりました。
18年は1チーム3人のプロプレーヤーを登録していましたが、19年はさらに1人増やし、1チーム4人の体制になります。18年から引き続きチームでプレーできる選手は2人まで。最低でも2人は、全国のプロテストを勝ち残り、eドラフト会議にかかった選手でなければなりません。実は、「パワプロ」には、KONAMIとNPBが共催するこのeBASEBALLプロリーグのほかに、共同通信デジタルが主催した「eBASEBALL全国中学高校生大会」もあるんですよ。今回、そこで優勝した2人もeドラフト会議の候補選手として登録されています。
――さながら、高校野球からドラフトにかかるようなものですね。
車田氏: まさにそうですね。
eBASEBALLに関しては、よく話題になるのが、19年1月のeBASEBALLプロリーグ e日本シリーズで、三井住友銀行(SMBC)が冠スポンサーになったことです。SMBCはもともと、プロ野球日本シリーズの特別協賛をしている企業だったので、e日本シリーズ開催に当たって、相談させていただきました。SMBCとしても若い世代にリーチできるeスポーツに興味を持ってくださり、協賛に至りました。
――最近はSMBC以外にもeスポーツと直接関わりのない企業がeスポーツ大会に協賛するようになっています。それらの企業の狙いは何でしょう。
車田氏: 18年にアジア競技大会のデモンストレーション競技として「ウイイレ」などのeスポーツ大会が開催された頃から、今まで接点のなかった様々な企業からお話をいただけるようになりました。やはり若い人と接点を持ちたいと思っている企業は多く、eスポーツはその条件に合致していると考えられているようです。
――eスポーツを通じて、どういったゲーム市場の構築を目指しているのでしょうか。
車田氏: eスポーツは、タイトルが面白いだけでも、うまい選手がいるだけでもダメなんですよね。実況や解説、配信や演出など、大会として複合的にスキルを持つ人を集めないと、成立しないものなんです。
KONAMIでは2020年初頭に、銀座に「コナミクリエイティブセンター銀座」をオープンする予定です。その中には、eスポーツの配信や多言語中継などが可能なスタジオ施設、eスポーツ関連機器を販売するストア、プロゲーマーや実況者、大会運営者などを育成するスクールなどが入ることになっています。企業としてeスポーツ大会をやっているノウハウを生かしながら、eスポーツ関連の人材育成などにも注力していきます。