アサヒビールは、缶チューハイ「アサヒもぎたて」のリニューアルに当たり、消費者調査にニューロリサーチ×アイトラッキングを採用。パッケージ案を見た被験者の視線と感情を測定、スコア化することで、評価の高いパッケージを採用。リニューアル後の売り上げを伸ばした。
コンビニエンスストアや食品スーパーでアルコール飲料を購入する場合、ビールならば長年愛飲しているブランドがある人が多いだろう。リピート層が多く、ブランドスイッチが起きにくい領域だ。一方、2018年まで10年連続で成長しているRTD(ready to drink)市場は、「キリン 氷結」やサントリー「-196℃ ストロングゼロ」など強い缶チューハイブランドはあるものの、2~3ブランドをその時の気分によって選ぶ傾向があるという。そんなトライアル層に手に取ってもらいリピート層に転換できれば、後発ブランドでも追い上げ・逆転が見込める市場である。
アサヒビールが16年4月に発売した缶チューハイ「アサヒもぎたて」は、後発ながら3年で6億本以上を売り上げ、同社のRTDの中核を担っている。ただ発売から3年がたち、他社からも新商品が続々発売される中、埋没を防ぐためにリニューアルが必要な時期に差し掛かっていた。
リニューアルに際して、同社が消費者調査の手法として新たに採用したのが、ニューロリサーチにアイトラッキングを組み合わせた手法だった。消費者モニターの視線がパッケージのどの部分を見ていてどれくらい魅力を感じているかを測定できるもので、調査にはマクロミルの支援を得た。
同社マーケティング本部RTDマーケティング部副課長の宮广朋美氏は、「缶チューハイの場合、商品の認知経路の8割近くをパッケージが占めるため、店頭で強いインパクトと好感を得られるデザインが必要。そのため新パッケージ案がポジティブな反応を得られているのか、科学的に解明したかった」とニューロリサーチ導入に踏み切った理由を語る。
最終2案、社内でも意見は真っ二つだった
ニューロリサーチ×アイトラッキングでは、脳波と視線を測定できるヘッドセットを消費者モニターに装着してもらい、新デザインのパッケージを見せる。アイトラッキングだけの場合、視線を追跡して注目している箇所をヒートマップ上で可視化できるが、それがポジティブなのかネガティブなのか、感情までは把握できない。インタビュー調査や陳列棚を再現した会場調査でパッケージの印象は尋ねるが、それは主観であり、また言語化しづらい面があった。新手法ならば、モニター当人も自覚していない情動を可視化、スコア化できる。
宮广氏は当初、ニューロリサーチではたくさんコードが付いた重い器具を頭に取り付けて実験するイメージを持っていたため、「通常の買い物と異なる環境で果たして正しい結果が得られるのか?」と不安があった。だが、実際の器具は軽く手軽に装着できるもので、自ら試してみて不安を払拭できたという。
100を超えるデザイン案から、これまでの調査を基に色彩やコピー、配置を厳選し、最終2案に絞り込んだうえでニューロリサーチ×アイトラッキングを実施した。
案1は、「もぎたて」のロゴを大きく、キーワードを丸形アイコン化してロゴ脇に配置したデザイン。案2は、缶上部に緑色の帯を敷いてキーワードを置き、「もぎたて」の「も」の上に「24」が見えるデザインだった。緑色の帯は、果実の木を想起させて、もぎたての果実感を印象づける狙いがある。絞り込んだ2案だけに、社内でも意見は割れていたという。

16人のモニターに調査した結果、案2の方がハイスコアを得た。ヒートマップ上で緑帯上の「24」の数字付近が、高い注目を示す赤で染まり、好感を示す脳波が測定された。
宮广氏は、「パッケージデザインの世界では、『視線は上から降りてくるから訴求したいものを上に置く』のがセオリー。実際に視線は上に集中していて、セオリー通りだった。予想以上に『24』の数字にインパクトがあった」と振り返る。
なお調査に当たっては、画像の缶と実物のダミー缶の両方を見せてテストした。缶の上部はやや狭まって角度が付くため、光の当たり具合などによって印象が変わることもあるためだ。この調査では、画像缶、実物缶ともに案2のスコアが高かったという。
こうして選んだ「案2」の新パッケージを19年4月2日から発売。「リニューアル後1カ月で、リニューアル前と比べて購入者数が29%増、1人当たり購入容量が2%増、認知経路調査でも『店頭で商品を見て』の割合が上がった。店頭で商品が目に留まって購入いただく、そしてリピーターになっていただく流れを作ることができた」(宮广氏)
消費者の「無意識」を測定、数値化できるニューロリサーチは、これまで実験的な取り組みは行われても、実用にまで至る例が少なかった。リサーチ結果を反映した商品を発売して実際に売り上げが伸びたのは、大きな前進、成果と言えるだろう。
(写真提供:アサヒビール、マクロミル)