2019年国際文具・紙製品展 ISOTの「第28回 日本文具大賞」デザイン部門グランプリを受賞したマークス(東京・世田谷)の「システム手帳」。18年11月に発売するとすぐに追加生産が決まるなど、女性向け文具市場を快走している。男性がメインのシステム手帳の分野に、徹底した女性好みの商品を投入した。
バインダー型の手帳にリフィルという詰め替え用紙を組み合わせたシステム手帳は、自分好みにカスタマイズできる使いやすさが特徴。だが本格的な革製だったり、黒などを基調としたりするなど男性のビジネスパーソン向けというイメージが強い。それを女性好みに仕上げ、18年11月に発売したのがマークスの「システム手帳」。女性目線による開発姿勢が今回、評価されたようだ。
A5サイズと、やや小さい「HB×WA5」と呼ぶサイズ(縦170×横148ミリメートル)の2種類を用意。豊富なリフィルに加えて、付せんやシールを収納できるポケット、半透明のインデックスシートなども別売りで設けた。HB×WA5サイズは19年8月からマークスのサイトや直営店、一部店舗で先行発売し、その後に全国の取扱店で順次発売。
女性向けの文具を主に開発しているマークスにとって、システム手帳を開発するのは今回が初めて。「それだけに、どうすればマークスらしいシステム手帳を作れるか、かなり悩んだ」とマーケティング本部の吉川理恵氏は言う。「女性にシステム手帳のニーズがあることは感じていたが、実際に作るならマークスらしい、マークスでしか作れないものを作りたかった」(吉川氏)。実際の開発期間は約半年で、具体的な販売数は公表しないが、計画を上回る受注があり、発売後はすぐに追加生産をかけたという。
女性向けを狙ったシステム手帳は他社からも発売されているが、マークスは使い勝手にこだわった。例えば、女性でも簡単に持ち運べる軽さにするため、カバーに合成皮革を使用した。A5サイズのシステム手帳で重さは約177グラムと非常に軽く、リフィルを入れても一般的な手帳を持ち運ぶのとほとんど変わらない。
さらにカバーは無地や水彩柄、ハート柄など、サイズや柄違いで計16種類がある。A5サイズではピンクだけでも微妙な違いで3種類を用意した。「以前は、どんなピンクでも売れたが、最近はピンクのニュアンスにこだわりを持つ人が増えた。そのため、今回もピンクの表現にはかなり気を使った。例えば水彩柄のピンクには黄や紫を加えることで、普段はピンクを選ばないような人でも、いいなと思える色合いにした」(吉川氏)。企画と工場の担当者が直接やりとりしながら、色味の調整を何度も繰り返したという。
「システム手帳アンバサダー」を募集
マークスがこだわったのは外観だけではない。女性にとって、どんな使い方が好まれるかを調査し、リフィルの開発に生かした。女性の手帳ユーザーがSNSに投稿した画像を分析したところ、毎日の生活をライフログとして記録する他、自分好みにカスタマイズした手帳を作る人、勉強ノートの中身を公開する人など、手帳を軸にしたコミュニケーションを楽しんでいる人が目立った。そこでマークスが考えたのが「どんな人でも理想の手帳が作れる」「かわいくライフログができる」ためのシステム手帳だった。
それを具体的にどう実現すべきか。「自分も手帳をおしゃれに飾りたいが、どうすればいいのか分からない」「自分には絵心もないし、きれいにレイアウトできない」という人もいる。そこで3種類のダイアリーリフィルに加えて、A5サイズ向けには6種類の目的別のリフィルを用意した。目的別リフィルには、勉強の内容や時間を記録できる「勉強ノートセット」、自分の目標や体重の変化を記録できる「ガールズノートセット」、毎日の家事や家計を管理できる「家計簿・家事ノートセット」の他、キヤノンのiNSPiC(インスピック)に対応した「写真ログ」がある。
iNSPiCとは、スマートフォンで撮影した写真を印刷できる、手のひらサイズの小型プリンター。印刷した写真の裏はシールになっており、貼り付けることができる。iNSPiCに対応したリフィルには、写真サイズの枠と文字を書き込める枠があるため、それに従って写真を貼ったり書き込んだりするだけで、アルバムのように飾ることができる。手帳としての機能だけでなく、ライフログやアルバムなど「女子受け」するような要素も盛り込んだ点がヒットした背景にある。
さらにマークスでは、19年3~5月に「マークスのシステム手帳アンバサダー」を募集。アンバサダーに選ばれた人は、SNSでマークスのシステム手帳の使用例を投稿している。アンバサダーの手帳を手本にすることで、誰でも簡単におしゃれな手帳を作ることができるという。
(写真提供/マークス)