「“敵”はこれまでの金融の在り方」(奥野氏)

刀との協業の狙いは?

奥野氏 まず森岡さんとは、目指すものが同じでした。既存の「常識」にとらわれずに「日本を元気にしたい」という点で考え方が一致したのです。

 長寿化時代、引退後により多くのお金が必要になることは間違い無く、個人の資産形成に投資は絶対に必要です。私たちNVICは、「構造的に強靭な企業」を厳選してファンド(農林中金〈パートナーズ〉米国株式長期厳選ファンド)を作ってきましたが、お客様にもっと寄り添う形で展開したいと考えたときに、ロジカルなアプローチが不可欠になりました。中短期の投機が主流の日本において、長期投資をするには、目先の遊ぶ金を我慢しなければいけないときもある。それを理解していただくためには、長期投資の哲学、NVICの思想を、刀の皆さんと共に広めていきたいと思っています。まだまだ多勢に無勢で、桶狭間の戦いに臨む織田信長にも似た気持ちになりますが。

その場合、今川義元は既存の金融業界の在り方ですか?

奥野氏 そうですね。今までの金融業界は自分たちの都合を顧客に押し付けることが多く、消費者のニーズに応えるビジネスをあまりしてこなかった。金融機関の多くは、窓口を境にお客様と対峙しています。そして売買や業務が発生するたびに、手数料を取ってきました。これでは、いくら「お客様のことを考えている」と言っても説得力がありません。だから私たちの商品を提供する販売員の方には、まずはファンドのコンセプトをよく理解してもらっています。お客様に心から薦めたい商品だと思えることが大切だからです。

それだけ、NVICの長期厳選ファンドに自信があるのですね。

奥野氏 消費者視点に立ったときに、納得のいくファンドを作っている自負はあります。もともと私たちは、機関投資家を主な顧客としてきました。その頃からファンドのコンセプトを直接説明して信頼関係を築き、成果も上げられました。今はそれを一般の個人へ広げようとしているところです。

 私たちは、投資対象の企業が今どういう状況にあるかを、現地に行って調べ、レポートとして顧客に伝えています。投資家の方を企業までお連れして、自分のお金の使われ方を、その目で確かめていただくこともある。我々の趣旨に賛同してくださった顧客への礼儀だと思うのですが、ここまでやっている金融機関はほとんどありません。

それはアフターサービスを充実させているということですか?

奥野氏 それもありますが、投資をする人に、資本主義社会に参加しているという意識を持ってもらうことが重要だからです。我々が何を信じ、どこに着眼して、銘柄を選んだのか。その根拠を理解していただくために、私たちは企業の経営者と面談し、必要ならば工場にまで足を運びます。それをつぶさに報告するのは、顧客の皆さんに、投資先を自分で選んだという「自覚」を持っていただきたいからです。

奥野さんが理想とする社会の在り方を教えてください。

奥野氏 投資の本質は、企業に対してオーナー意識を持って資産を投じること。日本人も、その考えを理解し、「構造的に強靭な企業」に長期投資をするようになってほしい。人は何もしなければ、単に労働力を提供して社会の歯車になるだけです。しかし投資をすることで、誰もが名だたる経営者を働かせる立場になれるのです。それが、資本主義の根幹の考え方ですから、何もしないのはもったいない。せっかく先進国に住んでいるのですから、資本家的な発想を持った人が、もっと増えることが望ましいですね。

企業との面談を通して強靭さを見極め、企業を可視化するのが奥野流。写真は世界最大の、動物のための製薬会社・米ゾエティスとの面談風景
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毎月発行する運用レポートには、NVICが興味を持って調査をしている会社について細かく記載。投資家が安心して投資を継続しやすい工夫も、希少な特長だ
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京都大学の経営学特別講義をはじめ、奥野氏は真の「投資」の意義を若者たちに教示する
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(写真/大髙和康)