(右)森岡 毅氏
戦略家、マーケター。P&G、USJを経て、2017年にマーケティング精鋭集団「刀」を設立。「マーケティングで日本を元気にする」を大義に掲げ、数学マーケティングを駆使する「森岡メソッド」を最大の武器とする。丸亀製麺の復活をはじめ、いくつものプロジェクトを推進中だ
(左)奥野一成氏
農林中金バリューインベストメンツ常務取締役・最高投資責任者。日本長期信用銀行、UBS証券などを経て、2003年に農林中央金庫入庫。14年から現職。日本における「長期厳選投資」の第一人者であり、日本人の投資家精神の育成、若者の教育にも情熱を注ぐ

「金融でも『感動体験』を実現させる」(森岡氏)

農林中金バリューインベストメンツ(NVIC)と協業する意義は?

森岡氏 投資を消費者の豊かさにつなげるという考え方に共感したからです。金融業界は、プロと素人の間の情報格差が甚だしい市場です。この「情報の非対称性」と呼ばれる構造が、消費者に対してものすごく不利に働いています。要は、情報を持っているプロが素人相手にお金をもうける構造が根強く残っているのです。通常であれば、消費者の価値に寄り添った企業や商品が現れ、競争が始まりますが、金融業界は規制に保護されているので、消費者のプレファレンス(相対的な好意度)に基づいた競争が起こりにくい。

 高度成長期には、それでも人々が豊かに暮らせたでしょう。しかし、今の日本は市場全体が縮小気味で、低成長時代を迎えている。そこで問われるのが個人の資産形成の在り方。消費者が、金融や投資に関してある程度の知識を持ち、最適な金融商品を選択できる社会への変革が必要です。それには奥野さんの「長期投資によって人は豊かになる」という考えが有益に働きます。

中短期投資では金融業界は変えられないのですか?

森岡氏 素人が金融のプロと勝負して勝てるわけがないですよね。短期投資は投資ではなく、実は「投機」なのです。といってプロと戦える知識を身に付けるまで勉強する余裕は、普通の人には無いはずです。日々の株価に一喜一憂するのも、精神的に良くない。そんなことに時間を費やすなら、本業を一生懸命やった方が有意義です。

 しかし長期投資ならば、無駄な悩みを抱えずに済む。世界経済は過去から現在、そして未来へ向かって年平均9%のペースで成長し続けているからです。基本的な潮流をベースにして、資産形成の手順を提供しているのが、奥野さんたちNVICのチームです。

以前から、金融業界にマーケティングが必要だと訴えていましたね。

森岡氏 構造的なゆがみを正すには、マーケティングが最も有効です。カギは、消費者の中に選択の軸を持たせること。無知は罪なのです。今までの金融業界は積極的に伝えてきませんでしたが、私たちは商品を選択するための軸をシンプルに提供するつもりです。それによって消費者がプレファレンスに基づく行動を起こせば、他の企業も従わざるを得ない。最後には金融業界のすべてが変わるでしょう。

NVICのブランディングの方向性は既に決まっていますか?

森岡氏 それは明確です。奥野さんの哲学の核心を抽出することでブランドは設計できます。NVICの商品の最大の強みは、消費者に「安心」を与えられること。これを正しく消費者に伝えることが最重要です。資産形成を考えている消費者のなかで、自分が正しい金融商品を選べると確信できる人は、1割にも満たないでしょう。その点、奥野さんたちは、安心を生む二重の構造を持っています。一つは「成長し続ける世界経済」に手堅く乗っかる構造。もう一つは、その世界から強靭な構造を持つ企業を厳選するノウハウ。ファンドのなかには、投資先の選択を海外の専門家に任せているところもあります。しかし奥野さんたちは、自らが汗をかく。だからファンドの手数料も低額に抑えられていますし、何よりも商品に信頼を持てるのです。

金融商品においても、消費者は「感動体験」を得られますか?

森岡氏 もちろんです。人は自分の期待をポジティブに超えられたときに感動します。消費者目線で本質的な欲求を捉え、その期待を上回る実績やサービスを提供すれば、ブランドは必ず顧客を感動させることができます。

SNS施策に協業で着手。今夏始めた、NVICによるnoteでは、投資哲学や奥野氏の思想に関する表現方法などについて「刀」が協力している
SNS施策に協業で着手。今夏始めた、NVICによるnoteでは、投資哲学や奥野氏の思想に関する表現方法などについて「刀」が協力している
2019年4月から個人向け株を販売するJAバンク。森岡氏も一消費者として窓口を訪問し今後の戦略に役立てる(写真はイメージ)
2019年4月から個人向け株を販売するJAバンク。森岡氏も一消費者として窓口を訪問し今後の戦略に役立てる(写真はイメージ)