日本でも広がりを見せるスコアリングサービスは、「信用スコア」と呼ばれることが多い。だが、そもそも信用スコアとは何なのだろうか。サービス提供から約2カ月で登録者数が200万人を突破した「LINE Score」を例に、サービスの実態に迫った。
スコアリングサービスが日本でも相次いで登場している。先行する中国では、高得点を得るとビザの取得が容易になったり、ホテルなどでデポジットが不要になったりと、個人の“信用”を担保するのに利用する。これらは「信用スコア」と呼ばれ、生活の基盤になりつつあるようだ。
日本では、LINEが運営する「LINE Score」や、ヤフーが運営する「Yahoo! スコア」、ソフトバンクとみずほ銀行の共同出資会社J.Score(Jスコア)が運営する「AIスコア」などがスコアリングサービスとして展開され、「信用スコア」と紹介されることが多い。点数を付けるのでスコアリングと呼ぶのは分かるが、日本で広がりつつあるスコアリングサービスは、中国のように本当に“信用”を担保するものなのだろうか。スコアリングサービスを提供するLINE、ヤフー、Jスコアの3社に聞いてみた。
「信用スコア」の明記なし
驚くことに、3社とも信用スコアという表現はしていないと回答した。LINEは、スコアのことを「個人向けのスコアリングサービス」と記載している。その理由として「信用という言葉を使うと、不安が増したり人間を格付けしたりする意味合いになりかねない。LINE Scoreはあくまで、日常をちょっと豊かにすることをコンセプトにしているので、今後も信用スコアという言葉を使う予定はない」(LINE広報)と話す。2019年8月29日にリリースされた、「LINE Pocket Money」の紹介においても、“信用”スコアという言葉の記載はなかった。
ヤフーは、スコア算出データに、ヤフオク!における取引実績や評価など「信用行動」を盛り込んでおり、「ここだけ切り取ると“信用”スコアと言えるが、他の要素が大きいため明示しない」(ヤフー広報)と話す。まだデータを取っている段階のため、スコアで得られる特典については発表していないが、「与信以外の特典が大きい。開始時期は未定だが、レストランやコンサートの先行予約、ヤフーショッピングでちょっとしたベネフィットが得られることを想定している」(ヤフー広報)と話し、金融や貸し付けに関しても未定だという。
Jスコアは、信用スコアと明記はしていないものの、提供するスコアリングサービスを「お客様の可能性や信用力をスコア化したもの」と定義している。Jスコア担当者によると、「ビッグデータとAI(人工知能)を活用してお客様個人の信用力や可能性を数値化しているという観点からは信用スコアと呼ぶことができる」と話すが、今後明確に表記するかは未定。
日本で広がりつつあるスコアリングサービスは各社三者三様だが、中国で普及している“信用”スコアと比べると、まだそうは言えないようだ。今後のサービス展開によっては、“信用”を担保するものになり得るかもしれない。
誰でも利用できるLINE Score
3社の中で、最も後発なのが19年6月にサービスを開始したLINE Scoreだ。LINEプラットフォーム上での行動傾向データや、パーソナル情報のアンケートを基に、AIを活用してスコアを算出する。登録者数は200万人に達した(19年9月7日時点)。
利用方法は、チャットアプリ「LINE」のウォレットタブから「スコア」を選択。スコアの算出に同意すると100点が付与され、配偶者の有無、住宅の種類、年収など15個のライフスタイルに関するアンケートに答えると、リアルタイムにスコアがアップする。その後は、LINE Payのカンタン本人確認やLINE家計簿の利用頻度によって週次で更新、行動情報や属性情報などLINEサービス全般によって月に1度更新される。また、チュートリアルの位置付けで「Mission」があり、本人確認や、LINE家計簿の情報を入力すると、翌週に20点追加される。
スコアは100~1000点までで算出され、点数に応じてインセンティブが受けられる。利用者層は、20~40代が中心で、女性の割合が高い。女性の登録者が多い理由は「(サービス開始から1カ月間は)女性向けのキャンペーンが多かったから」だと、LINE Credit事業企画室 サービス企画運営チーム マネージャーの川崎龍吾氏は言う。例えば、ブランドバッグの使い放題サービス「Laxus」とのコラボキャンペーンで、「エルメスのバーキンとケリーを3カ月間無料レンタルできる権利」を抽選でプレゼントした。
スコアリングサービスのメリットは?
では、LINE Scoreを利用するユーザーの具体的なメリットは何なのだろうか。川崎氏は、「日本で信用スコア自体が投入期の今、LINE Scoreではまず登録してくれた人にクーポンを配布し、他では手に入らないメリットを提供する。中長期の目標として、一見さんでは予約できないところが予約できたり、手の届かないものが借りられたりするサービスを想定している。さらに連携企業が増え、LINE Scoreが普及したらCtoCサービスへの情報提供も視野に入れている」と話す。
実際、19年9月時点での利用メリットは、シェアリングサービスなどのクーポンとLINE payでの還元率アップにとどまる。
現時点で、クーポンをもらえるのは、LINE Scoreに登録するすべての人。投入期で利用者・認知拡大を優先するため、「車のレンタルが5000円引き」など、分かりやすく大きな特典を提供している。今後は、金額的なインパクトは大きくないが、あると便利なメリットを積み重ねて訴求する計画だ。例えば、シェアリングサービスなどで、サービスを何度も利用しロイヤルカスタマーにならなければ借りられなかったものが、一定以上のスコアを持っていると初めてでも借りられるといった、日常生活に根ざしたものだという。
一方LINE Payの還元率は、スコアに連動してアップする。既にLINE Payでは、毎月の利用実績に応じて還元率が変化する「マイカラー」プログラムがある。この色は4種あり、利用金額が1万円未満だとホワイトで0.5%の還元、5万円未満はレッドで0.8%、10万円未満はブルーで1%還元、10万円以上はグリーンで2%還元される。ここでLINE Scoreを連動させると、利用金額に関係なく626~725点だとブルー相当の1%還元、726~1000点でグリーン相当の2%還元のサービスが受けられる。
日本で広がりつつあるスコアリングサービスは、いまのところ、ゴールドカードやサービスを継続することで得られる特典と変わらない、いわゆるロイヤルカスタマーを作るサービスのようだ。また、「信用スコア」という言葉にも三者三様の定義があり、確立されていない。今後スコアリングサービスだから得られる特典やサービスを提供できることが、日本でのスコアリングサービス普及の鍵となるだろう。