※日経トレンディ 2019年9月号の記事を再構成

大学経営に乗り出した永守重信氏へのインタビュー後編。今後のビジョンを尋ねると、滔々(とうとう)と語り始めた。付属中学、高校を開設し、ビジネススクールでは塾長を務める。ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長、ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長にも講師就任を要請するつもりだ。

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永守重信氏
永守重信氏
1944年京都府生まれ。73年に28歳で日本電産を創業し、1代で世界一の総合モーターメーカーに育て上げた。2018年3月、学校法人京都学園理事長に就任。19年4月から法人名変更に伴い学校法人永守学園理事長。日本電産会長兼CEO(最高経営責任者)を兼務する

 大学経営に際し、永守氏は既に50年間の長期計画を立てている。その計画の一端として「京都先端科学大学付属の中学・高校をつくる」ことも視野に入れていると明かした。

 「一からやるのは大変だから、既存の中学・高校をグループに取り込んだ方が早いかもしれない。いい先生を集めたら、学校は変わる。意識を変えて、夢を持った人を集めて、一緒にやっていく」

 青写真は既に描いている。中学校から徹底的に「しゃべる英語」に触れ、工学に興味のある生徒には高校からモーターの基礎を教え込む。「中学と高校ができれば、大学の学部が大学院みたいになる。いわば、飛び級で、若く優秀な人を出していける」。

 大学では、医学部の設立も目指す。「なかなか許可が下りないというけど、簡単に諦めたらいけない」。近いうちにビジネススクールも開校するつもりだ。既に受講希望の申し込みが、ひっきりなしに届いているという。

 「世の中、経営が分かる人なんてほとんどいない。だから、ビジネススクールの塾長は僕がやる。夜学で社会人を教える。講師陣には孫(正義)さん、柳井(正)さんとか、一流の企業人に加わってもらう」。経営者の誰もが憧れる永守氏の言うことだけに、実現する可能性は高い。

「貧乏人は生涯貧乏ではない」

 永守氏を教育へと駆り立てる原点は、貧しい家庭で育った経験にある。「長兄から中学を出たら働けよと言われていた。しかし、先生は、せめて工業高校に行かせてあげたらどうですかって何回も言ってくれた。僕の場合は、早くにおやじを亡くしたから。高校の担任の先生も、君は勉強がよくできるし、学費の要らない大学に行ったらどうかと言ってくれた。受験勉強はしたことがない、塾も関係ない、浪人をしたこともない。国のお金で社会に出られた」。

 だからこそ思う。「いい教育に巡り合えたら、人って変わるんですよ。貧しい家庭だから、一流大学に行けなかったから、そんなことは人生に関係ない。松下幸之助や本田宗一郎を見てみなさいと僕の母は言った。貧乏人は生涯貧乏か。そんなことはない。米国にはアメリカンドリームがある。僕だって、つい46年前に自宅で従業員3人とつくった会社が、ここまで大きくなったんだから」。

 だから、学生には心置き無く学べる環境を整えてあげたいと考える。「貧しい家庭の学生には、アルバイトをしなくてもいいぐらいお金を出す。学費を全額無料にするぐらいでは駄目だ。本当に優秀な学生なら、年間300万円ぐらい出していい」と明言する。

亀岡キャンパスは甲子園球場5.5個分の広さがある
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企業も大学も「夢を語れ」

 永守氏は日本電産でも、倒産寸前の企業を次々とM&Aで買収して立て直してきた。1株1円で買った企業もある。しかし今や、再生させた企業の利益だけで年間800億円程度を稼ぎ出す。

 「経営は頭じゃない。気概と執念です。やり抜く、そして、絶対に逃げない。一番必要なのは、人心掌握。経営者も大学の理事長も、どこまで行っても、夢を語らないといけない。僕は、大ぼらを吹いてきた。ほらと嘘は、全く違う。嘘は嘘。詐欺師みたいなものだ。でも、ほらは、できると信じてやれば、絶対にできる。夢は必ず実現します」

 あふれんばかりの情熱は、昔からいささかも変わらない。今も鮮明に覚えているのは、1973年7月23日。日本電産を設立した日だ。朝8時から従業員3人に訓示した。5、6分で終わるはずだったが、1時間40分語り尽くした。

 「将来こうなるぞって言ったことが、何十倍にもなった。当時は大ぼらだったけれど」。時価総額が4兆円を超えた今も、日本電産なんて知らないとよく言われるというが、時代は変わっていく。「5年か10年後には、モーターが産業のコメになる。クルマに200個ぐらいモーターを積むんだから」。

 日本電産の海外でのブランド名は、「NIDEC(ニデック)」。これは大ぼらではなく、小ぼらまで近づいている話だと、前置きして永守氏は言った。

 「電気自動車に最も優れたモーターを供給して、世界で圧倒的なシェアを取る。そして、フロントガラスに『NIDEC INSIDE』というステッカーを貼ってもらう」。米インテル(Intel)と同様のアプローチで知名度を上げていき、ゆくゆくはニデックコーポレーションに社名を変更することも辞さない。

 ほらは、ほらのままでは終わらせない。「真実に変えていく」。実は、世界大学ランキングの本当の目標は、199位以内どころではない。「何でも最後は1番だ」。そう笑いながら、付け加えた。

 「今、笑っているけど、年を重ねて振り返ったら、あのとき言った通りだと思うようになる」。ほらを吹き、夢を語る。それがかなったとき、今までの大学の常識は、音を立てて崩れ去る。

20年4月開設。京大教授をトップに迎えた工学部の全貌
工学部の建物は、京都市の太秦キャンパスに建設している。機械電気システム工学科のみの単科学部で、留学生寮を建物内に併設。日本で唯一のモーター技術を学べる学部になる
工学部の建物は、京都市の太秦キャンパスに建設している。機械電気システム工学科のみの単科学部で、留学生寮を建物内に併設。日本で唯一のモーター技術を学べる学部になる

 2020年4月に開設する京都先端科学大学の工学部長に就任するのは、京都大学大学院工学研究科の田畑修教授。「この大学が育つことは、京大にとってもウィンウィン。教員や学生の流動性を高めていきたい」と意気込む。カリキュラムの特徴は、英語の授業数にある。語学学校のベルリッツ・ジャパンと連携し、入学直後から90分授業を週10コマこなす。

 特筆すべきは、卒業研究に代えて、学部の段階から「キャップストーン」プログラムを導入すること。ゼミの教員ではなく企業が選んだ社会的な課題に、チームを組んで解決策を見いだしていく試みで、ストリートスマート(実践力のある秀才)を育て上げる。教員21人のうち7人が外国人。定員200人に対し、留学生は21年度に40人、24年度には100人と定員の半数まで増やす計画で、グローバルなエンジニアを輩出していく。

■入学直後は毎週15時間の英語漬け
■入学直後は毎週15時間の英語漬け
英語は15人の少人数クラスで、1、2年時に集中的に開講。特に入学直後は1週間に10コマ(900分)と極めて多い
工学部長に就任する京大大学院工学研究科の田畑修教授。工学部棟の特徴は、留学生寮が図書室や研究室と隣り合っている点にあるという
工学部長に就任する京大大学院工学研究科の田畑修教授。工学部棟の特徴は、留学生寮が図書室や研究室と隣り合っている点にあるという
工学部では、農場を観測するドローンも学べる
工学部では、農場を観測するドローンも学べる

DATA
●学科名/機械電気システム工学科●定員/学部200人(うち留学生21年度40人 → 24年度100人へ)
●大学院名/工学研究科●定員/修士15人(将来100人へ)、博士2人(将来10人へ)

(写真/水野浩志)