太秦、亀岡の両キャンパスと、経済経営、人文、バイオ環境、健康医療の4学部すべてを京都学園大学から引き継ぎ、工学部を加えた総合大学へと飛躍させる。大学名と理事長が変わっただけではない。学長、そして学部長の大半も刷新した。これほどの荒療治を断行できたのも、60社を超す企業を買収し、すべて再建させてきた日本電産のノウハウを注ぎ込んだからだ。

当面の目標は、東京大学、京都大学に次ぐ国内3位の座。基準とするのが、英国の教育専門誌「タイムズ・ハイアー・エデュケーション(THE)」のTHE世界大学ランキングだ。日本で200位までに入っているのは東大と京大のみで、まずは199位以内を狙う
当面の目標は、東京大学、京都大学に次ぐ国内3位の座。基準とするのが、英国の教育専門誌「タイムズ・ハイアー・エデュケーション(THE)」のTHE世界大学ランキングだ。日本で200位までに入っているのは東大と京大のみで、まずは199位以内を狙う

 採用してきた側だからこそ、本当に欲しい人材が分かる。「しかし、送り出す大学側は、相変わらず昔のカリキュラムで、使えない学生ばかり送ってくる。経営学部を出てきても、決算書一つ作れない。最大の問題は、偏差値教育と大学のブランド主義。これが日本をぐちゃぐちゃにしてしまった」。

 偏差値が高いとはどういうことか。永守氏いわく、それは暗記とテクニックに秀でているだけ。「今、東大に入ろうと思ったら、貧乏人は入れません。金持ちしか入れない。なぜかというと、予備校や家庭教師が受験のテクニックを教えるから。そして、自分がやりたいことよりも、大学名のブランドを取る。『農学部なら京大に入れる』と言われたら、本当は工学部に入りたくてもしょうがないと妥協する。人生100年の時代。前途ある若者に対して、18歳の段階で偏差値やブランドで君はこっちと進路を割り振るなんて、どんなつもりなのか」。

玉露のかすより番茶の上等

 一流大学を出たら、社会で即戦力になれるのか。それは違うと永守氏は言う。関西では京大を学歴ピラミッドの頂点に、私立は関関同立、産近甲龍(京都産業大学、近畿大学、甲南大学、龍谷大学)と続く。日本電産では7000人以上の社員を採用してきたが、「ここ最近で一番早く課長、部長に出世したのは、龍谷大学の出身者。大学のランクなんて、全然関係ない。使ってみたら極めていい人材がいるんですよ。僕は思うんです。玉露のかすよりも番茶の上等が欲しい、と」。

 一流大学の真ん中以下の学生よりも、京都先端科学大学の1番、2番の方がはるかに逸材という考え方だ。「玉露のかすなんて飲めませんよ。番茶の上等の方がずっとおいしい。玉露の上等は確かにすごい。でも、そんな人材は、ノーベル賞を取るとか、全然違う所に行く。大学受験の結果なんて、ビジネスの世界では関係ないわけです。僕は、世の中に足りない人を育てる大学にしたい。今、どんな業種でも欲しいというのが、英語ができる学生だ」。

 この大学の大きな特徴の一つは、まさに英語教育にある。「日本はまず読み書きから始める。だから、全然使いものにならない。文法をやり過ぎている。スリッパではなく、左右あるからスリッパーズでしょと。そんなふうに教えるから、みんな英語が嫌いになる。この大学では、まずしゃべる。しゃべれたら、文法とか読み書きをさせるという全く逆の教育をする」。

 そう言い切るのは、日本電産の社員を見てきたからだ。「今どき、東大、京大を出ても、英語をしゃべれない。しゃべれると思ったら帰国子女。だから、うちはTOEIC 650点以上の到達を絶対目標にする。そのぶん、英語に相当お金も時間も割く」。

モーター研究の即戦力を育てる

 そもそも永守氏が大学経営に乗り出したのは、モーター技術者が圧倒的に足りないという危機感からだ。「学生というのはAI(人工知能)とか華やかな業界に行く。もうハードの時代ではないとか言って。でも、ソフトだけで何ができるんだと。スマートフォンにだって、モーターが入っている」。

 永守氏が思い描くのは、2050年の世界だ。「人口は100億人になる。そのときにロボットは500億台稼働している。工場は全自動になる。ものを運ぶのは全部ドローン。そのとき、どれくらいのモーターが必要になるかと計算したら、天文学的数字になった。では、誰がモーターを設計して、誰が教育するんだと。それを思ったら、これは早くやらないと駄目だと悟った」。

 まずは14年に「永守財団」を設立した。永守賞という名前で世界のモーター研究者を顕彰し、研究資金を助成している。これにより、「僕は世界のモーター研究者のネットワークをつくり上げた」。17年には、京大にモーター研究の寄付講座を開設した。しかし、それでも技術者は全く足りない。

 「クルマはEV(電気自動車)になっていき、ロボットや空飛ぶタクシーが行き交う未来が訪れる。それを支えるのは、全部モーター。ところがモーターを学んだ人は500人採用しても1人、2人いるかどうか。だから結局、社内に『モーターカレッジ』を設立して、入社後に半年から1年、一から教えている。それでは、世界と戦えない」

 業を煮やした永守氏は、京都に大学をつくる計画を温めていた。「2025年ぐらいに完全な単科大学を全寮制でね。半分は留学生にして、学費は無料。自分の私財を全部なげうって、モーター工学だけ教える大学を設立する。1学年500人。4学年で2000人の小さな大学。大学院も入れて5000人までの大学をつくろうと思っていた」。

 文部科学省の補助金を当てにするつもりは毛頭なかったが、大学設立の手続きは煩雑だった。そんなとき、京都学園大学の当時の理事長に声を掛けられた。「この大学を使ってやってほしい」。確かに自分でつくるよりは簡単だ。総合大学にするのも悪くない。そう思い直し、すぐさま工学部の設置を申請した。モーター技術を専門的に教える日本初の学科を形にするためだ。

 工学部は半数を留学生にすることを目指し、英語で講義を行う。「モーターの設計がすごくできて、かつ英語ができる。うちが全部取りたいぐらいだけど、世界にも出ていってもらいたい」。

 他学部もインターンには力を入れる。「2日、3日で終わるのは、インターンではない。米国では、半年、1年がざら。本物の実学を学び、英語もできる学生なんて、間違いなく全員売れますよ」と自信を見せた。目標は、“とんがった人材”を育てること。「どんな人間かって、僕みたいな人間ですよ」。

※後編(19年8月21日公開)に続く。

(写真/水野浩志)