感動をカギに回転率を上げる

うどんは、そばに比べて嗜好性が低く、味の違いをアピールするのは難しくないですか?

森岡氏 それは、「そば文化」が優勢な関東のかたの典型的な考えですね(笑)。うどんも、材料が小麦と塩と水のみという究極のシンプルさで、個性ある食感と味を作る。そこが讃岐うどんの奥深いところです。確かにそばは、いろんな含蓄が商売に結び付けられ、客単価の高いビジネスを編み出してきました。うどんを生業にする人は商売下手なところがあったかもしれない。それだけにブランディングのしがいがあります。

店づくりも改良されますか? 実際に店まで足を運んだ人が満足することも大切だと思いますが。

森岡氏 その通りです。私にとってブランドは、「感動体験」とほぼ同義です。丸亀のこれからを考えると、「出来たての感動」を店で体験していただくことが一番です。それを実現するには、店内のオペレーションの質を上げ、来店されたお客様が、うどんを食べることに感動できる環境を整えないといけないでしょう。そうすれば客の回転率が向上し、売り上げも良くなります。

回転率の向上とは、客の滞在時間を短くするということですか?

森岡氏 いいえ、うどんを注文してから食べるまでの時間を短くするということです。この時間が、短ければ短いほど、出来たての味を楽しめるわけですから。そのためにはレジでの計算が滞らないようにし、前の客が席を立ったら、すぐにテーブルをきれいにして、気持ちよく座っていただくなど、やるべきことがたくさんあります。実際、こうしたところで5秒、10秒と余計にかかった時間が積もり積もって、売り上げのロスにつながる。ただし回転率や効率を上げることを目的にしても、結果は伴いません。目的にすべきは、あくまでも感動です。お客様に喜んでいただければ、回転率や客単価は自然に付いてきます。経験則から言っても、おいしいと評判で、いつも活気がある店は、客があまり長居せずに、待っている人との間に連帯感みたいなものがあって、なるべく早く外に出ようとするじゃないですか。店舗動線と感動設計は、つまるところ同一のものなのですね。そして、その実現こそが、刀の仕事だと思っています。

必要なのは働く人の意識変革

注文時やレジでの待ち時間を短くするために、どんな対策をしますか?

森岡氏 分かりやすいメニュー作りは必要だと思っています。今は少し複雑なので、注文する品を決めるまでに時間がかかってしまう。選択肢は必要ですが、人は選択肢が多過ぎると苦痛を感じるものです。そしてよく分からないままに、焦りながら季節限定のセットメニューを頼み、想定したより高い金額を払うことになる。これは客にとってだけでなく店にとっても不幸です。

 大事なのは原点回帰。うどんの量や、釡揚げ、ぶっかけなどの食べ方、そして一緒に食べる天ぷらなどを自分好みにカスタマイズできるのが、讃岐うどんの良いところです。組み合わせ次第で、無数のメニューがある。その特徴を十二分に楽しんでいただくためにも、選びやすいメニュー作りは必須です。メニュー表を見やすい位置に配置することも忘れてはいけません。

 天ぷらの価格設定も見直した方がいいでしょう。今の基本メニューだと、種類によって110円から150円まで分かれていますが、そこまで細かく刻む必要があるのかは疑問です。選ぶときも値段がよく分からなくて不安だし、レジを打つ作業もそれだけ煩雑になるので時間がかかる。出来たてを早く食べていただくために、変えるべき点はいくらでもあります。大切なのは「出来たての感動」という1番目の目標。そのために必要ならば、それ以外は、全部変えても構わないのです。

スタッフの教育にも力を入れていく予定ですか?

森岡氏 一人ひとりの役割や技量を見直す前に、やるべきことがあります。店舗を「感動を発生させる装置」と見立てた場合に、スタッフや作業をどのように配置するのが最適なのかを見極めます。このような「実店舗経営システム」の構築は、USJ時代の飲食・物販店舗の試行錯誤で、強力なノウハウを開発してきました。さらにそれぞれのスタッフが「ブランドをつくる」、すなわち「感動をつくる」という自覚を持って、仕事に臨んでもらいたい。例えば、自分の役割は天ぷらを揚げてスペースに補充する作業ではなく、揚げたての天ぷらでお客様を感動させることだと誇りに思う従業員であれば、自然と「揚げたてで、おいしいですよ」と目の前のお客様に声を掛けたくなるはず。それが仕事というものです。

 それは会社全体にも言えることで、マーケティングが機能するための理想的な組織モデルは、「人体」だと私は信じています。脳の指令を神経が正しく手や足に伝えるから正確に動くのは、組織でも同じです。丸亀の社内では当初、変革に伴う戸惑いもあったでしょうが、最近は業績の回復とともに、社員の意識も統合されつつあります。

森岡毅氏単独インタビュー 丸亀製麺・復活の秘策(画像)

店舗を「感動発生装置」に変える

うどんへの理解を深める

2019年3月に「大人のための社会科見学会」を実施。参加者はミキシングや圧延など、こだわりの店内製麺を体験。大人を対象にした体験会は丸亀初の試みだ
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店内で作った麺を、その場でゆで上げ、出来たての感動を届ける仕組みが丸亀のブランド資産
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「活気」をカギに回転率を上げる

カウンター上部にしか無かったメニュー表を入り口付近に掲示。分かりやすい見せ方も工夫
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うどんを注文し、トッピングする天ぷらなどを選びながらレジへと進む。出来たてを、いかに迅速に口にしてもらうか。今後、改善が進む
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