ロート製薬が開発した女性用ボディーソープ「デオコ」は、女性の若い頃の香りを“補う”という、従来の加齢臭対策とは全く異なる驚きのアプローチで人気上昇中。意外にも男性に受けて売り上げを伸ばし、発売から1年たった今でも小売店では品薄状態が続いている。Twitterでは“デオコおじさん”まで登場。ヒットの理由を探った。
デオコは、大人の女性に特化した匂いケアブランド。ターゲットは40代前後の女性で、年齢を重ねるごとに気になる「加齢臭」対策製品として、2018年3月にボディーソープ「デオコ薬用ボディクレンズ」(実勢価格税別1000円)でスタート。19年2月には制汗剤「デオコ薬用デオドラントシリーズ」(スティックタイプ、ロールオンタイプともに同税別900円)を発売して拡充し、売り上げは伸長を続ける。19年4~6月の3カ月で、目標売上額の1.7倍を記録する好調ぶりだ。
JKの香りの正体は?
ロート製薬は加齢臭対策製品として、女性向けに先駆けて13年に男性向けの匂いケアブランド「デ・オウ」を発売している。加齢臭対策製品の女性ニーズは男性より少ないと業界では思われていたが、同社のヒアリング調査で、実はデ・オウなど男性用匂いケア製品を使っている女性も少なくないことが判明。16年秋に、女性向けの製品開発が始まった。
男性向けは“においを取り除く”のが基本だが、女性向けのデオコは根本的に考え方が異なる。それに気づいたのは、開発にあたって実験を繰り返していたときだ。10~50代の女性50人に24時間同じTシャツを着てもらい、匂い研究員2名が「2-ノネナール臭」「脂肪酸臭」「アンモニア臭」「硫黄臭」「SWEET臭」という5種の臭気強度を測定した。ちなみにSWEET臭とは、ピーチやココナツのような甘い匂いを指す。その結果、10~20代と比較して30代以降ではSWEET臭が減少することが分かった。さらに原因を探ると、ラクトンC10/11という成分であることが判明した。ラクトンC10自体はピーチのような甘い香り、C11はミルクのような優しい香りであり、若い女性特有の“甘い香り”の正体だったのだ。
ロート製薬によると、加齢臭の原因とも言われている2-ノネナールが増える男性と比べ、女性は加齢による変化は少なく、臭いの構成成分のバランスが変化する。そこで、加齢臭を洗浄するとともに、年齢を重ねると失われるラクトンを補う、画期的な仕組みのデオコが誕生した。
打ち出し方も男性向けとはガラッと変えた。「加齢臭を取り除く」とうたう男性向けのアプローチと同じでは、「臭いにデリケートな人が多い女性には売れないのでは」とロート製薬プロダクトマーケティング部 PM2グループリーダーの奥野久仁子氏は考えた。男性はクサイと感じてから、臭いを取りたいと商品を使ってくれるのに対し、女性は臭いを認めたくない人が多いため、コピーワークを工夫。『ニオイまでキレイに』とうたい、男性向けと一線を画した。
またパッケージデザインも男性向けとは大胆に変え、濃い青地に白色でガラス瓶のような清潔感と重厚感を演出。ボディーソープのボトルには、くびれを設けスタイリッシュな印象にした。制汗剤のキャップは香水をイメージし、持ち歩きたくなるようなかわいらしいデザインに。匂いケアというと、ネガティブなイメージを持つ人も多いが、自ら進んで使いたくなるようなデザインが徹底されている。
ヒットの要因は“おじさん”
そんな大人の女性向け製品が、19年5月中旬に投稿されたブログをきっかけに男性にも売れ、予想外の大ヒット。ある男性がこの製品を体験した「リアル君の名は。おっさんが女の子の匂いを買ってきて身につけたら、たまらない背徳感を味わえた」というインパクト大なタイトルのブログの記事だ。この記事はSNSで爆発的に拡散。記事が投稿された前後の週で、売り上げは店頭と通販合わせて約4倍になったという。
Twitterでは「#(ハッシュタグ)デオコおじさん」というタグを付け、製品を試してみる男性が続出。「JK(女子高生)になれる」や「自分からほんのり甘い匂いがする」といったツイートもあふれ、またまた拡散。奥野氏は、「女性のことしか考えていなかったので、予想だにしないヒットだった」と話す。
SNSで拡散されたことにより、“ネタ消費”以外の男性のニーズも掘り起こした。例えば、肌の弱い男性。男性向け製品には、メントールが配合されている製品も多く、さっぱりと感じられるものの、その刺激が苦手だという人もいた。女性向けに清涼感を抑え、ビタミンC誘導体(うるおい成分)を加えたデオコは、そんな男性の心まで捉えた。甘い匂いのラクトンには加齢臭をマスキングする効果もあり、男性が使用しても効果はあるという。
また、夫が口コミを知り購入し、妻がほれ込むといったように、製品への入り口は男性だが、結果ターゲットとなる女性へも広まるという好循環も生まれている。「デオコおじさん」から「デオコファミリー」へと消費が拡大したのもヒットの理由だろう。
(写真提供/ロート製薬)