個人情報が匿名加工されていても利用目的などが不明確だと「気持ち悪い」――。一般社団法人データサイエンティスト(DS)協会は、個人情報の「匿名加工」に関する調査を実施。その結果、認知がわずか15.9%にとどまることが明らかになった。
会社としては積極的に活用していきたいが、個人としては利用目的や使用される情報が不明確だと気持ち悪い――。
データサイエンティスト協会は、個人情報の「匿名加工」に関する調査を実施した。匿名加工とは特定の個人を識別することができないように個人情報を加工し、その個人情報を復元できないようにすることを指す。2015年に施行された改正個人情報保護法で、データの自由な流通・利活用を促進することを目的に導入された。
この結果、適切な加工、安全管理措置、公表義務、識別行為の禁止という、事業者が守るべき義務を果たすなどすれば、本人同意を得ることなく、匿名加工情報が活用できるようなった。
それから4年。
法整備が進んだにもかかわらず、「データの自由な流通・利活用は今も、ほとんど進んでいない」。データサイエンティスト協会理事の中林紀彦氏(SOMPOホールディングス・チーフ・データサイエンティスト)は嘆く。
要因を探る中で、個人情報の利活用に対して、「何となく気持ち悪さを感じている人」が少なくないことが分かった。実は、冒頭のコメントは、データサイエンティスト協会に参加している会員が発したものだ。同協会に参加するほどデータ利活用に熱心な企業の社員ですら気持ち悪さを感じる。それはなぜなのか。調査では、そうした実態を把握しようとした。
一般消費者の認知度は15.9%
まずは匿名加工の認知について。一般消費者の認知度はわずか15.9%だった。「内容まで知っている人は3.8%しかおらず、ほとんどの人は知らなかった。匿名化加工情報は“有名”だと思っていたが、そうでないことが改めて分かった」(中林氏)。その詳細は下のグラフの通りだ。
認知度が低いため、匿名加工情報の利用に関する賛否を聞いても、過半の人が「どちらでもない」「わからない」となり、判断すらできない状態であることが判明した。
では、健康社会の促進や高齢化社会に向けての活用など、「公共性が高い研究目的」なら利活用に賛成してくれるのか。
結果は、「自然災害に関する公的な研究」の許容度が43.8%と最も高かった。さらにその43.8%の人に自然災害時の活用についての許容範囲を聞くと、性別、年齢、居住地の許容度が高いことが分かった。
さらに性別、年齢、居住地の3つについては、銀行の取引、保険の契約、交通機関での移動、通院やクスリの処方、インターネット閲覧などに関するものでも、活用を許容する人が75%以上いた。
官民共同で認知向上を推進
例えば交通機関での移動に関する性別、年齢、居住地の情報と、時間帯別の位置情報が活用できれば、自然災害が発生した際の避難計画の立案や、「通行可能な道路の把握、救援隊の派遣や援助物資の配給などに活用できるだろうと考えている」(中林氏)。
データサイエンティスト協会では、2020年度の個人情報保護法改正に向けて、まずは匿名加工情報の認知向上に官民共同で取り組み、自然災害時の活用についても推進する構えだ。
「提供者へのインセンティブも必要だと思う。アイデアベースだが、匿名加工情報をオープンデータ化すると、優遇が受けられるなど、さまざまな提言をしたいと考えている」と中林氏は話す。
一方、ひかり総合法律事務所の弁護士で理化学研究所革新知能統合研究センター客員主管研究員・国立情報学研究所客員教授の板倉陽一郎氏は、「法律に従っているから(利活用について)文句を言うなとでもいうような態度を事業者側が取ってきたことにも問題がある。このような態度を改め、信頼を得るようにすることが重要」と指摘した。データサイエンティスト協会では引き続き、匿名加工情報の認知向上などに努める一方、利用者の理解度などを把握する調査も継続していくという。