丸井グループが、就職活動用のスーツとバッグの月額制レンタルシェアサービス「COCONi」を2019年5月に開始した。実証実験として始め、本サービスとしての運用を目指す。小売業者である同社がなぜ商品を“貸す”サービスを始めたのか。就活スーツのレンタルを切り口に、顧客と長い付き合いを築く狙いがあった。

丸井グループが始めた「COCONi」。月額4320円(税込み)で就職活動に必要なスーツとバッグを借りられる
丸井グループが始めた「COCONi」。月額4320円(税込み)で就職活動に必要なスーツとバッグを借りられる

 COCONiは、月額4320円(税込み)でスーツの上下とバッグの計3点をレンタルできるサービスだ。主なターゲットは就活生で、同サービスの公式サイトからスーツのサイズと到着希望日を選択すれば、自宅に配送される。使用後は、届いた箱にスーツとバッグを入れ、同梱の着払い配送伝票で返送。COCONiが契約する専門業者でクリーニング、修繕などのメンテナンスを行い、再利用する仕組みだ。

若手社員が発した就活スーツへの不満がきっかけに

 COCONiを担当する丸井グループ 新規事業プロジェクト サステナブル・ビジネスプロジェクト担当リーダーの福田藍氏によると、このサービスを思いついたきっかけは若手社員へのヒアリングだったという。

 「一昔前はモノを所有することに価値があったが、今は『使いたいときに利用できればよい』という価値観が強まっている。今の若者にとって、それはファッションにも当てはまると感じる」(福田氏)。「所有」から「利用」に価値観が変化したことを受け、若い世代の消費トレンドに合わせて、新規事業開発を模索していた中で注目したのが、「就活用のスーツ」だった。

 「若い世代が無駄に感じるものとして挙がった。靴は社会人になってからも使う。シャツやストッキングのように直接肌に触れるものは自分用を購入したいという一方で『就活スーツとバッグは無駄』という意見が多かった」(福田氏)という。

 そこで、入社1~3年目の若手社員による13人のコアチームを社内公募で結成。就活スーツのレンタルシェアサービスの開発に取り掛かった。

COCONiで貸し出す就活スーツとバッグ
COCONiで貸し出す就活スーツとバッグ
XS~3Lまでサイズをそろえる。体形に合ったスーツが選べるように、上下異なるサイズを選ぶこともできる(写真/COCONiのサービスページ)
XS~3Lまでサイズをそろえる。体形に合ったスーツが選べるように、上下異なるサイズを選ぶこともできる(写真/COCONiのサービスページ)

就活生が抱える、スーツの汚れへの恐怖

 サービス開発の過程で重視したのは、就活生のリアルな意見だ。まず、就職活動を終えたばかりの男女にアンケート調査を行い、就活スーツの活用状況を調べた。例えば、着用期間は、1カ月以内の人もいれば、3カ月以上続く人もいて幅が広いが、そのうち着用した日数は平均で55日だった。また、1カ月に1、2回は洗濯をしていることなどが分かった。

 18年に丸井グループの夏季インターンシップに参加した204人とは、同サービスをテーマとしたワークショップを実施。そのうち23人からモニターとしての協力を得た。就活スーツとバッグを実際に貸し出して、使用感や摩耗の程度、スーツの着用回数、洗濯の回数などについて調査したり座談会を開いたりしたという。

 その結果も踏まえ、COCONiで貸すスーツでは、自宅で洗えることを重視している。「就活では、清潔感やキチンと感が大切。一方、『明日面接に来てほしい』と企業から急に呼び出されるケースもある。うかうかクリーニングに出せない。常に手元に置けることが利点になる」(福田氏)。

 自宅で洗えることは、節約にもつながる。一般に、就活スーツのクリーニング料金は上下で1600円程度。就活期間を半年として、1カ月に1回クリーニングすると、総額は8000円を超える。就活生には痛い出費だ。

 また、洗えることは汚しても何とかなるという安心感にもつながる。同プロジェクト担当課長の安東良子氏は、「就活中は移動や面接で精神的にも疲労が大きい。友人とカフェで愚痴を言い合って帰りたいけれど、1着しかないスーツを汚したらと心配する声もあった」と話す。そうした悩みにも応えた形だ。

 さらに、自宅での洗濯方法が分からない人のために、発送時に洗濯方法を解説する資料や洗濯ネットをつけるといった配慮もしている。

利用を機にエポスカードに誘導

 なぜ、小売業者である丸井グループが商品を貸すレンタルシェアサービスを始めたのか。そこには、COCONi単体での収益に加え、「早い段階から若年層との接点を持つきっかけにしたい。就活のときに丸井グループのサービスが役に立ったという経験が長い付き合いにつながる」(福田氏)という考えがある。

 想定している効果の一つが、同社が運営するクレジットカード「エポスカード」への誘導だ。COCONiの支払いはエポスカードのみで、ほかのサービスは使えない。「COCONiをきっかけにエポスカードを作ってもらい、就職後もカードを使い続けてもらいたい」(福田氏)。丸井グループでは、エポスカードで利用できる家賃保証サービス「ROOM iD」や、同カードでつみたてNISAに投資できるtsumiki証券などを運営しており、これらサービスへの展開も図れる。

 COCONiと同様のサービスでは、ドレスレンタルの「DRENi(ドレニ)」がある。ドレスからバッグ、アクセサリーまで一式揃うサービスで、結婚式などの冠婚葬祭が徐々に増えていく社会人を引き込むにはうってつけだ。

ドレスレンタルの「DRENi(ドレニ)」(写真/DRENiのサービスページ)
ドレスレンタルの「DRENi(ドレニ)」(写真/DRENiのサービスページ)

リアル店舗はサービスのパーツの1つ

 こうした施策の背景には、丸井グループが掲げる「デジタル・ネイティブ・ストア」という店舗戦略もある(関連記事「丸井が「モノを売らない店」に大転換 急成長D2C取り込む大胆戦略」)。これは、D2Cやシェアリング、サブスクリプションといったデジタル分野のビジネスモデルを積極的に取り入れるブランドとの連携を高め、それらブランドの商品やサービスを体験する場としてリアル店舗を位置付けるというもの。安東氏は「かつてはリアル店舗の延長にECなどのデジタルサービスがあると考えていたが、今はデジタルのコミュニケーションのパーツの1つとしてリアル店舗があるという考え方になってきた」と説明する。

 COCONiについても、利用申し込みはネットのみで受け付ける一方、全国19のマルイ店舗でスーツやバッグの試着、購入ができる。「就活生の多くは、サイズが合っているか、似合っているかを自分だけで判断するのは不安と感じている。ネットで気軽に申し込めるレンタルと、店舗で店員に相談しながら選べる試着や購入という選択肢を設けることで、自分に合った利用法を選んでほしい」(安東氏)。

 現在は実証実験の位置づけで、COCONiの真価が分かるのは、就職活動が一段落する秋以降。それを受け、本サービスとしての運用を目指す。福田氏は「今回はターゲットを絞るため、就活スーツをうたっているが、転職や塾講師のアルバイトなど、スーツの用途は広い。まずは就活生からスタートし、ターゲットを徐々に広げていきたい」と意気込みを語った。

(写真提供/丸井グループ)

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