基本的に土日に組まれてきたJリーグの試合をあえて金曜日に開催。熱心なファンが中心になる土日とは異なる客層を開拓し、サッカー来場者を増やす――。そんな狙いを持つJリーグの集客策「フライデーナイトJリーグ」(金J)が効果を上げていることが、データにより明らかになった。
金Jがスタートしたのは2018年。合計11試合を金曜に開催した。今年も既に7試合が終了。残るは、サガン鳥栖所属で今年引退するフェルナンド・トーレス選手の「引退試合」を含む6試合。昨年より2試合多い開催数となる予定だ。
特筆すべきは、終了した7試合のうち5試合の平均入場者数が、土日を含む全体平均を上回ったこと。中でもセレッソ大阪は金Jで今季最高の入場者数を記録。湘南ベルマーレとサンフレッチェ広島も今季2番目の入場者数となっている。
「金Jの入場者数は土日にも見劣りしない」。金J施策などを統括するJリーグ専務理事の木村正明氏は胸を張る。
2万人の壁をいかに越えるか
さらに金J施策で来場した人たちについてデータ分析したところ、7試合全てで新規層が10%以上となり、うち3試合は新規層が25%以上となっていたことが分かった。金J施策がその狙い通り、サッカー観戦経験がない新規来場者を増やすことにつながっていたのだ。
実はJリーグのトップリーグである「J1」の平均入場者数は、空前のサッカーブームに沸いた1994年シーズンの1万9598人をピークに、今に至るも「2万人の壁」を超えられずにいる。Jリーグはこれを2030年シーズンまでに2万4000人に増やすことを目標に掲げる。これはJ1所属18クラブのスタジアムが全試合で満員(平均収容率80%以上)になることに等しく、簡単な目標ではない。
これをクリアするために必要なのが新規層の開拓。金Jはそうした狙いで英パフォームグループが運営する動画配信サービス「DAZN(ダゾーン)」と共同で実施しているマーケティング施策だ。
JリーグとDAZNと言えば、17年シーズンに放映権に関して、10年間で約2100億円という巨額契約を結んだことが話題になった。この資金を元に選手強化の他、サッカーファンがJリーグを楽しむ体験の質向上などに取り組んでいる。
金曜開催という一見奇抜な施策も、ファンがより観戦しやすい環境を提供することの一環だ。
実際、金J来場者を、来場経験がない新規層と何度か観戦したことがある既存層とに分け、「最も観戦しやすい日程」を調査したところ、既存では「土曜昼」(23.6%)と「土曜夜」(38.9%)とが「金曜夜」(5.7%)に圧倒的な差をつけていた。だが、新規層についてはその差が小さく、「金曜夜」を選んだ人が23.6%もいた。
この調査は金曜に来場している人を対象にしているため、割り引いて捉える必要はあるが、金曜夜にサッカーを観戦したいという潜在ニーズが、サッカー観戦“初心者”などの人たちには想像以上に強い、と言えそうだ。
新規層「友人や家族に誘われた」が38.5%
同じ調査で、「来場のきっかけ」の違いなども分析した。その結果、既存層で最も多かったのは「好きなクラブを応援したい」(76.5%)。これに「サッカー観戦が好き」(70%)が続いた。
この2つは新規層でも2トップだったが、「友人や家族に誘われた」が38.5%と、既存層の5.7%より17.9ポイントも多かったことが目につく。「サッカーファンに会社の同僚などを誘って来場してもらう」というもくろみが当たっている。こうした結果をデータで示せたこともあり、当初は懐疑的だったクラブ関係者の見方も変わった。当初、懸念していたサポーターからのネガティブな反応も変わり、今では継続実施を望む意見が多くなっているという。
木村氏は、社員同士の親睦を深めることなどを目的に、レクリエーション費が使える企業もあり、金曜開催のサッカー観戦はそうした用途にうまくフィットすると話す。またファジアーノ岡山の社長を務めていた木村氏は、その経験から、「個人的には、金Jは首都圏や関西よりも地方での新規層開拓の余地が大きいと思う」とも語った。
一定の成果は出ているが、今後は、17年に導入したデータ分析基盤となるIDシステム「JリーグID」も活用。さまざまな集客施策を打ち出すのに加えて、整備を進めているマーケティングオートメーション(MA)ツールを使って来場頻度を高めるなどのCRM(顧客関係管理)施策も展開したい考え。一連のデジタル施策の実施により、悲願である「2万人の壁」超えを目指す。