東京・銀座に2021 年、日本最高峰のラグジュアリーホテルが誕生する。米マリオットグループの最高級ブランド「EDITION(エディション)」だ。誘致したのは、森トラスト(東京・港)。ホテルの開業が続く銀座で、東京五輪後のタイミングで勝負する狙いを探った。

森トラストが2021年に開業する東京エディション銀座。銀座2丁目交差点からすぐの立地を射止めた
森トラストが2021年に開業する東京エディション銀座。銀座2丁目交差点からすぐの立地を射止めた
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 ルイ・ヴィトン、ブルガリ、カルティエ、シャネル。高級ブランドが4つ角をそれぞれ抑え、4つ葉のクローバーのように向かい合う東京・銀座の2丁目交差点。

 この大通りから一歩入った地で19年7月11日、「エディション」が着工した。米マリオット・インターナショナルの30あるホテルブランドの中でも、最高級グレードに位置する。地上14階、地下1階。レストランやロビーバー、フィットネス施設を完備し、屋上にはルーフトップバーを備える、豪華なしつらえとなる予定だ。

屋上には、銀座のにぎわいを一望できるルーフトップバーを設ける。東京タワーも視界にとらえ、東京のダイナミズムを体感できる
屋上には、銀座のにぎわいを一望できるルーフトップバーを設ける。東京タワーも視界にとらえ、東京のダイナミズムを体感できる
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 エディションは、「ブティックホテルの生みの親」として知られるイアン・シュレーガー(Ian Schrager)氏とマリオットが手を組み、13年、英ロンドンに誕生した。独創的な空間とサービス力で、世界の富裕層の心をつかみ、米ニューヨーク(マディソンパークとタイムズスクエア)、マイアミビーチ、スペインのバルセロナ、中国の上海、中東のアブダビなど、世界展開を加速している。

 このエディションを日本に初めて持ち込むのが、森トラストだ。20年に東京・虎ノ門、21年には銀座と立て続けにオープンする。虎ノ門も銀座も、建築家の隈研吾氏を起用。エディションの格式にふさわしい、ジャパンブランドのラグジュアリーホテルをつくり上げていくという。

ホテルラッシュに挑む勝算

 先陣を切る「東京エディション虎ノ門」は、東京メトロ神谷町駅の近くで建設中の超高層ビル「東京ワールドゲート」の31〜36階に入る。スイートルームを含む約200室を備え、東京五輪開幕を前にした20年春から夏にオープンする。

森トラストが開発を進める「東京ワールドゲート」。アメリカン・エキスプレス、伊藤忠商事、エイチ・アイ・エスの入居が決まり、20年3月の竣工を待たずにオフィステナントがほぼ埋まった。周辺には、約5000平方メートルの緑地空間を整備する
森トラストが開発を進める「東京ワールドゲート」。アメリカン・エキスプレス、伊藤忠商事、エイチ・アイ・エスの入居が決まり、20年3月の竣工を待たずにオフィステナントがほぼ埋まった。周辺には、約5000平方メートルの緑地空間を整備する
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 これに対して「東京エディション銀座」は、東京五輪後の21年春から夏のオープンを目指す。五輪イヤーの熱気は収束に向かうが、伊達美和子社長は、それでも着工に打って出た。「銀座がさらに成熟し、飛躍する起爆剤となりたい」。起工式では、晴れやかな表情を浮かべながら、並々ならぬ決意を口にした。

起工式に臨んだ、左から建築家の隈研吾氏、森トラストの伊達美和子社長、統括総支配人のクリスティアーノ・リナルディ氏
起工式に臨んだ、左から建築家の隈研吾氏、森トラストの伊達美和子社長、統括総支配人のクリスティアーノ・リナルディ氏
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 訪日外国人客(インバウンド客)が増え続けるなか、銀座は今、空前のホテル開業ラッシュに沸いている。

 18年には「ハイアット セントリック 銀座 東京」と「ザ・スクエアホテル銀座」、19年は3月に「ザ ロイヤルパーク キャンバス 銀座8」、4月に「MUJI HOTEL GINZA」が開業し、12月には「レムプラス銀座」、20年春には「アロフト・ホテル」、20年夏には「ACホテル・バイ・マリオット東京銀座」のオープンが控えている。

 五輪需要を逃すまいと一斉に駆け込む再開発の波。東京エディション銀座は、その波に乗らず、宴の後に産声を上げる。しかも、森トラストが銀座でホテルを手掛けるのは初めて。まさに賭けと言える決断だった。

“爆買い”の先にある銀座のあるべき姿

 「銀座って高いな、ちょっとどうかなとも思ったが、一歩俯瞰してみると、ハイエンドなブランドが4つ角にあり、そこから一歩入っただけの土地は、今後出てくるものでもない。まず買おうというところから始まった」(伊達氏)。

 土地を取得したのは、15年12月。「その頃の銀座は、中国系の方が爆買いという形で多く訪れていた。ただ、この先、新しく商業施設ができ、インバウンドの流れが大きくなると、旅行者も成熟してくる。そのとき、世界で戦える、銀座のあるべき姿を考えると、(デザイン性の高い)ライフスタイルホテルでありながらラグジュアリーなホテルが、センター・オブ・センターの中央通りからすぐのところに必要だ」と読んだ。

 着工した今となっても、その思いは変わらない。「東京に来た訪日客の半分以上が、銀座を訪れている。中国系の方だけでなく、実は欧州の方も比較的多い。そしてその数は増えてきている。本来あるべき銀座のハイエンドな世界観が、世界から注目され始めている」(伊達氏)。

 ホテルの開業ラッシュを迎えているとはいえ、銀座には、最高級グレードのホテルは皆無と言っていい。だからこそ、エディションに勝算を見出した。

起工式で鍬を入れる伊達美和子社長。「銀座のプロジェクトも、とうとう旅立つ」と感慨を込めた
起工式で鍬を入れる伊達美和子社長。「銀座のプロジェクトも、とうとう旅立つ」と感慨を込めた
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 「エディションは、トレンドセッターと呼ばれる、世界の富裕層たちが好むエリアに展開してきた(シュレーガー氏とマリオットによる)最強タッグのブランド」(伊達氏)。

 立地からして他のホテルとは一線を画する。例えば、バルセロナのエディションは、旧市街の一等地にある。伊達氏によると、「建設規制もされており、今後ホテルがつくれない特別な場所」。新たな文化、新たなラグジュアリーを世界各地で発信し続けてきた特別なホテルブランドだからこそ、東京に、銀座に持ってくる意義があるという。

 「(東京五輪が開幕する)20年に向かって、インバウンドは一つのピークを迎えると思う。だからこそ一過性で終わらせないためには、21年以降の起爆剤になる開発が必要。銀座自体がまた次の展開に進む。東京そのものが進化し続けるというメッセージを世界に発信し続けることこそが、インバウンドの継続のために必要なのではないか」(伊達氏)。

 実は、虎ノ門と銀座では、同じエディションでもコンセプトが異なる。虎ノ門は、大型複合開発の顔となるフラッグシップホテルという色彩が強い一方、銀座は、スモールラグジュアリーを追求し、街に溶け込むホテルにする。

 客室数は、スイートルームを含めて約80。当初は100室程度を考えていたが、客室面積を約40〜50平方メートルに広げることで、居住性を高める。高級ブランドが軒を連ねる一角でも映える、銀座の新たなシンボルに育てたい考えだ。

 完成予想図では、ガラス張りと緑が織りなすエントランスが目を引く。隈氏は「ストリートの活気が、建物の屋上までつながるイメージでデザインした。地面からルーフトップバー、空へと活気がつながり、自然と響き合う。非常に銀座らしい、エディションらしい、特別なものができる」と自信を見せた。

高級ホテルに特化し、7期連続の増収

 森トラストは近年、ホテル事業を急速に拡大している。18年には新たなホテルブランド「翠(SUI)」を立ち上げ、沖縄・伊良部島に「イラフ SUI ラグジュアリーコレクションホテル 沖縄宮古」を開業した。都心部のみならず、全国の魅力ある都市、リゾート地に高級ホテルを開発することで、世界の富裕層の心を打つ「ラグジュアリー・ディスティネーション・ネットワーク」を列島に広げることを目標に掲げる。

 現在進行中の新規プロジェクトだけで19。エディション以外にも、20年春、奈良に日本初進出のJWマリオットホテルをオープンするなど、積極投資を続けていく。19年3月期のホテル事業の営業収益は372億円で、7期連続の増収。20年3月期には過去最高の400億円を見込む。賃貸事業、不動産販売事業に次ぐグループの柱になった。

進行中の新規プロジェクトは全国で19を数える(公表資料より抜粋)
進行中の新規プロジェクトは全国で19を数える(公表資料より抜粋)
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 伊達氏は、展開中のホテルを大きく4つに分類している。ラグジュアリー系、ライフスタイル系、トラディショナル系、ネイチャー系だ。「京都のようなトラディショナルな(伝統的な)場所であれば、その世界観を表現する。地方の自然の豊かな場所であれば、その雰囲気に合った空間を掘り下げてつくる。一方、東京都心は、メトロポリタンで、眠らない都市。ニューヨーク、ロンドン、香港、シンガポールと戦っていくには、最先端のホテルが必要だと思う」(伊達氏)。

 東京エディションは、まさに都心戦略の中核を担う存在になる。この2つのホテルの統括総支配人に就任したのは、クリスティアーノ・リナルディ氏。ザ・リッツ・カールトンやブルガリ ホテルズ&リゾーツ、エディション ホテルズのアジア太平洋地域担当ディレクターを歴任し、ブルガリホテルズ&リゾーツ東京レストランの開業総支配人や、ザ・リッツ・カールトン香港の開業ホテル支配人も務め上げた。

 20年以上にわたり、ラグジュアリーホテルに携わってきたリナルディ氏は「東京のエディションでは、既存のホテル業界からだけでなく、ファッション、テクノロジーなど幅広いジャンルから、ラグジュアリー精神を持ったスタッフを探す。一人ひとりにカスタマイズされた、洗練されたサービスを届けたい」と意欲を語る。

 人材確保はホテル業界全体の課題だが、伊達氏は「魅力のあるサービスやライフスタイルをお見せすることで、スタッフは集まるというのが私の過去の経験。決して楽なことではないが、虎ノ門を20年、銀座を21年と(開業年を)分けたことで対応できる」と見通した。

ホテルは供給過剰なのか

 ホテルは、供給過剰だと指摘する向きもある。しかし、伊達氏はそうは考えていない。「人口は減っていくので、国内で需要を増やすのは相当の努力を要する。一方で、インバウンドは世界中で2~3%伸びていく。まだビジネスチャンスはある」。

 日本のインバウンド客は、年間4000万人を目指して増え続けている。インバウンド客の消費額も18年は4兆5000億円を超え、過去最高を更新した。政府が掲げる通り、30年には年間6000万人、消費額にして15兆円まで拡大すると考えれば、「今言われている開発の量自体が過熱しているかと言うと、そうではないと思っている」(伊達氏)。なかでも、ラグジュアリーホテルは、圧倒的に少ないという見立てだ。

 森トラストグループは30年に向け、新たなコーポレートスローガン「Create the Future」を策定した。実は、全国に19ある新規プロジェクトのうち、ホテルのブランド名を公表しているのは、エディションを含めてまだ5件に過ぎない。世界から人々を呼び込める、ジャパンブランドのラグジュアリーホテルをいかに形にしていくか。未来をつくる挑戦は、まだ緒に就いたばかりだ。