カバヤ食品の夏限定清涼菓子「塩分チャージタブレッツ」が売れている。生産数が供給に追いつかず、2種類あるうち「塩レモン味」の2019年販売分は6月時点で終売に。18年も夏前に終売したことから、生産数を増やしたが、追いつかなかった。販売個数は09年発売時の100倍まで伸びているという。

カバヤ食品の夏限定清涼菓子「塩分チャージタブレッツ」。写真は「スポーツドリンク味」。「塩レモン味」は2019年販売分が6月時点で終売した
カバヤ食品の夏限定清涼菓子「塩分チャージタブレッツ」。写真は「スポーツドリンク味」。「塩レモン味」は2019年販売分が6月時点で終売した

 塩分チャージタブレッツは、カバヤ食品が2009年から販売している夏限定の清涼菓子。発汗で体から失われる塩分やカリウムを手軽に補給できるタブレット型のラムネ菓子だ。今や同社の主力商品の1つだが、「発売当初は、ここまで売れると予測していなかった」とマーケティング戦略本部の河村早苗氏は言う。

 開発のきっかけは、社内に飛び込んできた「塩アメが売れている」との情報だった。河村氏は「関西のとある会社が、隣接した工場から『熱中症対策になるアメが欲しい』と要望を受けたという話を聞き、当社でも販売しようということになったそうだ」と明かす。タブレットにしたのは、同社が「ジューC」などのラムネ菓子を販売していたから。熱中症予防のための“塩分補給”なら、かんですばやく摂取できるタブレットのほうが適していると判断した。

猛暑日増加、計画停電が後押しに

 「発売当初は大して売れていなかった」(河村氏)という塩分チャージタブレッツだが、日本の夏の厳しさが徐々に販売数を押し上げ始めた。

 日本では10年ごろから暑い夏が続き、熱中症で救急搬送される人の数が激増している。総務省消防庁のデータによると、09年の搬送人数が2万人に満たないのに対し、10年は5万6000人を超えた。

 これに伴い、マスコミによる熱中症対策の報道も活発化した。かつては屋外で仕事やスポーツをする人を中心に水分補給の重要性を訴えていたが、屋内にいても熱中症になる可能性があること、熱中症予防には水分だけでなく塩分も摂取する必要があることが周知されるようになった。

 こうした中、塩分チャージタブレッツの販売個数が特に伸びるきっかけになった出来事は2つある。1つは11年、東日本大震災の被害に伴う計画停電だ。時間帯によってエアコンが使えなくなったこともあり、熱中症への危機感や水分、塩分補給への意識がより高まった。その結果、11年の塩分チャージタブレッツの販売個数は前年比600%に伸びたという。

 さらに18年の猛暑。日本気象協会が作成したデータによると、同年、最高気温が35度以上の猛暑日を記録した地点数は6483カ所と過去6年間で最高。塩分チャージタブレッツの販売個数も17年の150%に達したという。

日本気象協会提供資料。気象庁の「猛暑日日数積算(2010~2018)」より作成
日本気象協会提供資料。気象庁の「猛暑日日数積算(2010~2018)」より作成

「変えない」ことで定番化

 日本の猛暑化とともに徐々に出荷数を伸ばしてきた塩分チャージタブレッツだが、発売から一貫して、カバヤが維持してきたことがある。それがパッケージのデザインだ。「当社の商品はよくパッケージを刷新するが、塩分チャージタブレッツは発売当初からほとんど変えていない。年に1度登場する季節商品だからこそ、“変えない”ことが売り場での認知度につながっている」(河村氏)

 食材や商品のイメージ画像は控えめにし、「塩分チャージ」の文字を大きく目立たせたパッケージは、シンプルで使用目的が伝わりやすい。ツイッターなどでは「夏に向けて購入した」「塩分チャージタブレッツの季節がやってきた」といった投稿も多く、夏の到来とともに毎年購入しているユーザーにとっては“夏の風物詩”にもなっているようだ。

 教育現場への普及にも努めている。同商品は、日本学校保健会の推薦を受けているほか、日本気象協会が推進する「熱中症ゼロへ」プロジェクトのオフィシャルパートナーにも登録済みだ。

 「自分用に購入する人も増えているが、もともとの主な購買層は子どものいる家庭。こうした活動によって、ターゲットである親に商品を知ってもらうきっかけになる。部活の差し入れなどにも活用されているそうだ」(河村氏)

 また、薬事法に違反することから商品に「熱中症に効く」といった表現は記載できないが、「『熱中症ゼロへ』プロジェクトに参加し、そのロゴをパッケージに掲載することで、商品の特性をアピールできる」(河村氏)という側面もある。

 こうした積み重ねが功を奏し、09年の発売から10年間で、販売個数はおよそ100倍にまで伸びた。18年からは、岡山工場にチャージタブレッツをメインとする生産ラインを新設し、生産力を増強。ただ、それでも今年、「塩レモン味」が終売してしまったのだから、セールス泣かせの商品だ。

⽇本学校保健会からの推薦、「熱中症ゼロへ」プロジェクトへの参加 などを通して、商品をアピール
⽇本学校保健会からの推薦、「熱中症ゼロへ」プロジェクトへの参加 などを通して、商品をアピール

季節菓子のバリエーション展開を狙う

 塩分チャージタブレッツが夏の定番商品になった今、カバヤ食品が取り組んでいるのは「チャージタブレッツ」ブランドの強化だ。商品の知名度が上がる一方で、競合企業からも類似の製品が多数販売されるようになった。今後は「認知を上げる段階から、たくさんの商品の中から塩分チャージタブレッツを選んでもらう段階になる」と河村氏は話す。

 そのために取り組んでいるのが、シリーズの拡張だ。18年9月にはシリーズ商品として秋冬向けの「体温チャージタブレッツ」を発売。ショウガエキス、辛味物質を含むヒハツエキス、ビタミンCやポリフェノールを含むアムラ果実末を配合した。19年1月には、乳酸菌と甜茶(てんちゃ)エキス、べにふうき粉末を配合し、鼻に抜けるような清涼感を特徴とした「花粉爽快チャージタブレッツ」を発売している。

シリーズ商品として秋冬向けの「体温チャージタブレッツ」(左)と春向けの「花粉 爽快チャージタブレッツ」(右)を展開
シリーズ商品として秋冬向けの「体温チャージタブレッツ」(左)と春向けの「花粉 爽快チャージタブレッツ」(右)を展開

 河村氏によると、季節商品をシリーズ化するメリットは主に2つある。1つは、季節ごとのニーズに特化した商品は売り場が作りやすいため、カバヤの営業担当者も実際に販売する店舗も商品を売りやすいこと。売り時が決まっているので、通年で販売する商品に比べて人目につく棚に陳列されることも多い。2つ目が工場の生産ラインの有効活用になること。春は「花粉爽快チャージ」、夏は「塩分チャージ」、秋冬は「体温チャージ」というように、1年を通して同一ラインで商品を切り替えながら生産を続けられるのだ。

 16年に日本カバヤ・オハヨーホールディングスが設立され、事業会社となったカバヤ食品。ブランドの整理と再構築に取り組む中、同シリーズに懸ける期待は大きい。「塩分チャージタブレッツに続くヒット商品を育てたい」と河村氏は結んだ。

(写真提供/カバヤ食品)

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