新興のIT系QRコード決済サービス事業者としては最後発ながら、順調に事業を拡大している。サービス開始から4カ月強で、利用者数200万人、利用可能なスポット数135万を達成した。メルペイはこのまま地歩を固められるのか──。その強みと課題を追った。

メルペイを導入した都内の美容室。メルカリユーザーと相性がよいとされるアパレルや美容室などファッション系の店は、小売店の中で比較的導入に積極的だという
メルペイを導入した都内の美容室。メルカリユーザーと相性がよいとされるアパレルや美容室などファッション系の店は、小売店の中で比較的導入に積極的だという
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 2019年2月13日にQRコード決済サービスの提供を開始してから4カ月強で、利用者数は200万人、利用可能なスポット数は135万──。フリマアプリ「メルカリ」を運営するメルカリの100%子会社で、QRコード決済に代表されるスマートフォン決済サービス「メルペイ」を運営するメルペイ(東京・港)は、後発にもかかわらず順調に事業を拡大している。

 そのメルペイの決済サービス事業者としての最大の強みは、メルカリ上で決済サービスを展開しているため、ユーザーがメルカリでモノを売って得た“残高”を原資に使って決済できるところにある。

 他のQRコード決済サービスの多くは、銀行口座からいったんアプリにチャージした残高を使って決済したり、クレジットカードとひも付けて支払ったりする。その原資となっているのは、銀行口座経由でも、クレジットカード経由でも、大抵はユーザー自身やそのパートナーの給料が振り込まれている金融機関の口座だ。

 これに対して、ユーザーがメルカリでモノを売って得た“残高”は、いわば給料が振り込まれている金融機関の口座とは別の“財布”である。普段の生活を賄っていない別の財布のひもは、緩みがちになる可能性が高い。NTTドコモが運営するQRコード決済サービス「d払い」で起きている現象が、その可能性の高さを証明している。

 NTTドコモが、従来の通信回線契約に代わってdポイントクラブを顧客関係構築の軸と位置づけ、dポイントを利用できる小売店の開拓に積極的に動き始めたのは、ここ数年の話。それまでは、NTTドコモと通信回線契約を交わせば自動的にdポイントがたまっていくことを知らないNTTドコモユーザーが珍しくなかった。dポイントの使い道が事実上あまりなく、ユーザーの多くが関心を払わなかったからだ。

メルペイにたまったメルカリ売買高が決済に利用されている

 その結果、18年4月にd払いのサービスが始まり、決済の原資にdポイントが充当できるとなったとき、「自分の手元にdポイントがたまっていることに初めて気付いたNTTドコモユーザーが多数存在した」(NTTドコモのスマートライフビジネス本部プラットフォームビジネス推進部の伊藤哲哉ビジネス推進担当部長)。こうしたユーザーにとっては、いつの間にかたまったdポイントは、メルカリでモノを売って得た“残高”と同じく、普段の生活を賄っていない別の財布に等しい。そして実際、d払いで決済される金額全体の実に約53%が、dポイントによって支払われているのだ。導入した小売店(加盟店)からも、「d払いユーザーは、他のQRコード決済サービスと比べ、コンスタントにd払いを利用する」との声が多く上がっている。

メルペイのトップ画面
メルペイのトップ画面
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 メルペイでは、d払い以上の現象になる可能性が高い。メルカリ全体の年間売買高は約5000億円。この半分でもスマホ決済に流れ込むと仮定した場合、そのインパクトは、楽天がユーザー還元策として年間に注ぎ込む約2000億ポイントや、同じくNTTドコモが供給する約1600億ポイントをはるかに上回るからだ。

 実際、小売店の多くも、「メルペイはユーザーが決済する原資が別にあるサービスだと理解し、他のQRコード決済サービスと同列には見ずに、メルペイの導入を決める傾向が強い」(メルペイ執行役員の山本マーク氏)という。

メルペイ執行役員の山本マーク氏
メルペイ執行役員の山本マーク氏
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 メルペイの強みは、別の“財布”の存在だけではない。決済サービスを導入する小売店の開拓にも、仕掛けを用意した。

 メルペイは19年2月のサービス開始に当たり、小売店の開拓について、独自に開拓するだけでなく、競合他社との協調路線を採用した。三井住友カードと組み、非接触決済の電子マネー「iD」の端末が導入済みの小売店でも、利用できるスマートフォンの機種は限定されるものの、メルペイを利用できるようにした。他にも、互いの加盟店網を相手に開放したり、共同で開拓する目的で、LINE Pay、NTTドコモと加盟店アライアンス「Mobile Payment Alliance」(MoPA)を組んだり、KDDI(「au Pay」を運営)と個別に提携したりしている。

メルペイの決済手数料は1.5%と低い

 こうした協調路線に加え、「小売店の開拓には自ら積極的に取り組む」(山本氏)。その際、武器としているのが、原則、常に1.5%という、小売店が負担する決済手数料だ。

 LINE Pay(東京・新宿)が運営する「LINE Pay」とPayPay(東京・港区)が運営する「PayPay」は、方式・期間限定ながら、現在、小売店が負担する決済手数料ゼロで、導入を推し進めている。しかし、クレジットカードや「QUICPay」「iD」といった非接触決済の電子マネーを含む、既存のキャッシュレス決済サービス事業者や、他のQRコード決済サービス事業者は、相手が中小・零細の小売店、いわゆるチェーンに属さない個店であっても、決済手数料3%以上を課すケースがほとんどだ。

 こうした状況を踏まえると、メルペイが打ち出した決済手数料1.5%は、絶妙な値と言ってよい(場合によっては手数料ゼロで営業するケースもある)。他に決済手数料1%台をうたっているのは、デビットカードのインフラを活用しながらQRコード決済サービスを提供しようとしている3メガバンク主導の「BankPay」くらいだ。

 小売店、特に個店にとって、ユーザーの一定の利用が見込める決済サービス同士を比較した場合、決済手数料が低ければ低いほど、導入のハードルは下がる。どのキャッシュレス決済サービスを導入するか迷った個店が、メルペイを選ぶ可能性は決して低くはない。協調路線と独自開拓により、「利用可能なスポットを年内に200万まで広げる」(山本氏)という目標が達成される可能性は高そうだ。

後払いが想定以上に利用されている

 もう1つ。メルペイの強みになりそうなのが、4月23日からサービスを提供し始めた「後払い」機能である。実はメルカリ上で約2年間、試行してきた機能を、メルペイのサービス提供に当たって、採用したものだ。メルカリ上で発生する大量の売買データを機械学習させることによって、与信金額を設定するモデルを構築。その後も、モデルを磨き上げ、ユーザーごとの情報量が少ない条件下でも、個々のユーザーごとに設定する与信金額の精度を引き上げてきた。

 後払い機能の開発を指揮する石川佑樹・Credit Design Department Product Managerは、「メルカリ上では、メルカリのヘビーユーザーや、好みの品が出品されていたらすぐに購入したい強い趣味嗜好の持ち主が後払い機能を利用する傾向が強かった」と話す。メルペイで同じく後払い機能を提供すれば、メルカリで後払い機能を利用してきたユーザーが、リアル店での決済にも利用すると想定していたという。

メルペイの石川佑樹・Credit Design Department Product Manager
メルペイの石川佑樹・Credit Design Department Product Manager
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 ところが、実際にメルペイで後払い機能を提供してみると、「初めて後払い機能を利用する新規ユーザーなど、後払い機能を利用するユーザーが想定以上に多かった」(石川氏)。理由は2つある。1つは、キャッシュレス決済で使い過ぎを恐れるユーザーのニーズをうまく捉えたことだ。

ユーザーは後払いで利用できる与信額を自分で設定できる
ユーザーは後払いで利用できる与信額を自分で設定できる
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あといくら後払いで使えるかを、アプリ上でメーター表示した
あといくら後払いで使えるかを、アプリ上でメーター表示した
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 メルペイの場合、毎月の決済に使えるいわゆる与信額を、メルペイが定めた上限額以下の選択肢の中から、5000円以下、1万円以下のように、ユーザーが自分で選べる。しかも、自分が後払いの与信額のうちいくらを使い、あといくら使えるかを、アプリ上で分かりやすくメーター表示した。同じ後払いのクレジットカードの場合、自分がいったいいくらカードで支払ったかを知るのは容易ではない。毎月送られてくる請求書を待つか、カード会社のアプリを立ち上げたり、Webサイトにログインしたりする必要がある。これに対してメルペイの後払いは、「使い過ぎを恐れるユーザーに安心感を与え、積極的に使ってもらうことに成功した」(石川氏)と言える。

後払いで購入し、メルカリの売り上げで支払うサイクルが成立

 もう1つの理由は、メルカリ、メルペイというサービスと、後払い機能の相性の良さだ。例えば、あるユーザーがリアルの小売店で、欲しいと思っている、例えば1点ものの珍しい商品を見つけたとしよう。しかし、手持ちの現金はなく、決済アプリの中のチャージ残高も十分ではない。そこで後払い機能を使って購入。その後、購入した商品を十分に堪能した後、メルカリ上でまた売却するのだ。

 そうすれば、後払いの請求が来たとき、メルカリで売却した売り上げを原資に、同じアプリ内で支払うことができる。購入金額と売却金額の差額が小さければ、自分の懐をそれほど痛ませることなく、好みの品を入手し、楽しむことができるわけだ。クレジットカードとメルカリを組み合わせて同じことをするよりも、手間ははるかに少なくて済む。「今後、こうした使い方への認知がさらに広まれば、メルペイの利用がより増える追い風になる」と石川氏は話す。

 「リアルのフリーマーケットをモバイル上、ネット上に展開してユーザーの利便性を向上させたメルカリのように、将来、メルペイは、キャッシュレス決済のようにネットで当たり前のサービスを小売店などリアルの世界にも展開し、ユーザーの利便性をさらに向上させ、そこから収益を得ていきたい」と山本氏は、メルペイの将来展望を語る。キャッシュレス決済は入口という位置づけで、そこから決済を伴う各種のサービスを拡充させていく考えだ。

 その展望が実現するかどうか──。ここまでは順調にきているメルペイだが、課題もある。最も大きな課題と思われるのは、既存のメルカリユーザー以外への浸透だ。メルカリのユーザー数は非公表だが、1300万人程度と推定されており、LINEの約8000万人、楽天の約1億人といわれるユーザー数と比べると、まだ少ない。既存のメルカリユーザー以外にメルペイの魅力をどのように伝え、ユーザーをどこまで増やしていくか。そのためのメルペイの次の一手が注目される。

山本氏(左)と石川氏(右)
山本氏(左)と石川氏(右)
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(写真/志田彩香、写真提供/メルペイ)