あらゆるモビリティをつなぎ、1つのサービスとして提供するMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)の世界で、JTBが拡大を狙うのは、地域交流事業だ。全国に根を張るネットワークを生かし、他社と戦略的に手を組んでいく。では、主力のパッケージ旅行は、MaaS時代にどう変わるのか。

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JTBは地域交流事業を、次のビジネスの柱として大きくしようとしている
JTBは地域交流事業を、次のビジネスの柱として大きくしようとしている
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「色がない」からパートナーになれる

 JTBが考える地域交流事業とは何か。それは、地域と観光客の両方にメリットがある仕組みを作っていくことにある。その一例として、JTBの古野浩樹執行役員法人事業本部副本部長が挙げるのが「ラゲージ・フリー・トラベル」。パナソニック、ヤマトホールディングスとの3社連合で、2018年から展開する外国人旅行者向けのサービスだ。

 コンセプトは「日本を手ぶらで楽しもう」。旅行前、旅行中にオンラインで集荷を予約すれば、発行されたQRコードを、空港やホテルの専用端末にかざすだけで、次の目的地まで荷物を配送してくれる。送り状は不要で、料金はクレジットカードから自動決済される。既に数百件のホテルが加盟し、18年秋には大手旅行サイト「エクスペディア」でも予約できるようになったことで、利用者が伸びている。

 「さまざまな交通機関をワンストップで予約、決済できるというMaaSの仕組みの中で、このサービスが使えれば、地域住民のためにもなる。このまま訪日客が増え続け、バスや電車に大型のスーツケースがどんどん入ってきたら、市民生活は破綻する。だからこそラゲージ・フリー・トラベルを世の中の常識にしたいし、ぜひMaaSの中で確立したい」(古野氏)。

 AIタクシーの実証実験(前編参照)も観光客向けに見える一方、地域に観光客を呼び込むという視点で捉えれば、地域交流事業そのものである。タクシーは国の認可事業だが、旅行商品化して募集型企画旅行の形で行えば、柔軟に運行できる。だからこそ、実証実験のパートナーとしてJTBが選ばれる。

 「JTBは(企業としての)色がない。いろいろな企業とプラットフォームを築けるという強みはあると思う」。こう語るのは、JTBコミュニケーションデザインの黒岩隆之氏(営業推進部アカウントプロデュース課チーフマネージャー)。経済産業省が主宰する新モビリティサービスの研究会にも名を連ね、新たなビジネスの芽を探っている。

紙のパンフレットをデジタルで展開

 黒岩氏は、MaaSの時代は、これまで紙のパンフレットで展開してきたことが、デジタルに置き換わるとみる。「目的と移動を組み合わせた”デジタルのパッケージ旅行“をリアルタイムで提供できる。デジタルであれば、旬な情報を伝えられる。旅の質が高まり、次の旅へと誘うスパイラルにつながる可能性がある」。

 旅の質が高まるのは、一人ひとりに最適化された旅程が、より簡単に組めるようになるからだ。「A地点からB地点へ移動するのに、全員が金太郎あめのように同じ動き方をする必要は全くない。利用者の趣味は何か。外が雨なのか、晴れなのか、道路は渋滞しているのか。すべての情報をクラウドに集め、AIが最適化して配車することで、十人十色の行程表ができる。(観光客が押し寄せる)オーバーツーリズムの問題の解決にもつながる」(黒岩氏)。

 それは、地域や法人にも当てはまる。「ドイツの観光局が、もう紙のパンフレットを作っていないように、我々もこれからは、いかにデジタル上でマーケティングを行っていくかが重要になる」(古野氏)。

 例えば、紙のスタンプラリーをデジタルスタンプラリーに置き換えるだけで、顧客情報や移動ルートのデータがたまる。デジタル上でクーポンを配ることで、参加も促しやすい。「あまたの人に対して、どうぞご自由にお持ちくださいとパンフレットを渡すのではなく、一人ひとりに訴えるワン・ツー・ワンマーケティングでアプローチできる会社にならないといけない」と古野氏は力を込める。

 MaaSは移動革命と表現されるが、移動だけの革命ではない。移動と、移動後の宿泊、体験、グルメまで含めれば、提案できる選択肢は無限に広がる。それを1つのパッケージに仕立てるのは、JTBの得意分野でもある。

 「例えば、ビジネストラベルなら、出張先で『あなたが好きなレストランが近くにありますよ』『趣味のウオーキングを、このエリアでしたらどうですか』とアプリでレコメンドする。そういうサービスも考えられる」(古野氏)。

 支店ごと、地域ごとに、こうしたコンサルティングに力を入れることで、ゆくゆくは「コンテンツプロバイダーのオーナー的なポジションに就きたい」と古野氏は語る。

 MaaSという枠組みの中で生まれるさまざまなサービスを、デジタルパッケージとしてうまく組み合わせ、旅行商品として提供しながら、地域に実装していく。リレーで言えば、アンカーの役割を担いたいと考えているのだ。

超大型投資をせずにビジネスを拡大

 1912年の創業から100年余り。JTBは旅行会社として、日本のツーリズムをけん引してきた。今や、旅行以外でも存在感を示し始めている。「日本旅行業協会の会員でありながら、東京オリンピック・パラリンピックに関わり、MICE(学会や展示会などのイベント)も、企業の福利厚生サービスも展開している」(古野氏)。

 19年5月にはJEITA(電子情報技術産業協会)の副会長に、JTBの田川博己会長が就任した。三菱電機やNEC、ソニー、富士通、パナソニックなど、家電メーカーが名を連ねるなか、理事会社の一つに任命されたのは「JEITAが目指すソサイエティ5.0はテクノロジーだけでは、社会に実装できないから。旅行会社だからというよりも、地域の活性化を担うネットワークがあるからこそ期待された」と古野氏は見る。

 MaaSを広く捉えれば、JTBの事業領域はさらに広がる。「IR(統合型リゾート)にも関われると考えている。なぜなら、IRはスマートシティ構想につながる話だから。超大型投資を伴わずに、新たなビジネスを世の中に広げられると考えれば、MaaSはありがたい」(古野氏)。100年に1度のモビリティ革命の普及期において、JTBは、地域とサービスをつなぐ“接着剤”として存在感を増していく。