レコメンドウィジェット広告サービスの再編が進みそうだ。日経クロストレンドの既報通り、ヤフーはレコメンドウィジェット型の広告サービス「Yahoo!コンテンツディスカバリー(YCD)」を、2019年9月30日に終了する。19年9月以降、順次入稿審査などを終了し、同月末で配信を停止する。

ヤフーは2019年5月15日、レコメンドウィジェット型広告「Yahoo!コンテンツディスカバリー(YCD)」を同9月30日に終了すると発表した
ヤフーは2019年5月15日、レコメンドウィジェット型広告「Yahoo!コンテンツディスカバリー(YCD)」を同9月30日に終了すると発表した
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 レコメンドウィジェット型広告とは、Webメディアの記事下に関連記事の一覧を表示できる機能を媒体社に提供する代わりに、一覧の枠の一部に広告を配信して収益を得るサービスだ。ヤフーはレコメンドウィジェット広告大手の米タブーラのシステム提供を受け、YCDを提供していた(関連記事)。

「CNN.co.jp」のサイトに掲載されたレコメンドウィジェット型広告
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 「今後、有力企業以外の淘汰は起こりえる」。マーケティングコンサルタントの高広伯彦氏はこう予測する。高広氏自身も19年5月まで、ヤフーの提携相手であるタブーラの日本法人に勤めていた。

 タブーラは1社独占契約を条件に営業活動をする。媒体社が複数のサービスを導入して、サイト利用者のデータが分散化すると、精度の高いレコメンデーションをすることが難しいとの考えからだ。しかし、日本企業は複数のサービスを導入して競わせることで、より収益性の高いサービスを見極めたい企業が多い。この日本市場のニーズとタブーラの営業方針が合わず、グローバルでは大手のタブーラも国内では苦戦が続くと高広氏は見る。

 米国発のレコメンドウィジェット広告の有力企業アウトブレイン ジャパンの嶋瀬宏社長も同様の見通しだ。「日本市場では今後、事業統合やサービス停止が相次ぐ。2年後には現在のプレーヤーの多くはおそらく残っていないだろう」。

再編が進むと見られる理由は市場の成熟

 その要因は市場の成熟にある。13年のアウトブレイン日本参入を機に、国内市場が活発化した。それから6年が経ち、新聞社のニュースサイトなど、広告業界でプレミアムメディアと呼ばれる大半のサイトにレコメンドウィジェット型広告が導入されている。「有力な媒体社の主要な配信面は、既に主要プレーヤーで埋まっている」と高広氏は言う。

 国内発のレコメンドウィジェット型広告事業のログリー吉永浩和社長も「主要プレーヤー同士で枠を奪い合っている状況だ」と説明する。こうした競争環境において、現時点で大手メディアに入り込めていない、あるいは開発力や資金力などで劣る事業者は淘汰が進む可能性が高い。競争激化の中で、選択と集中をするためにヤフーはサービス終了を判断した模様だ。

 市場の競争のポイントは大きく2つある。まず、最大のポイントが「収益性」。「レコメンドウィジェット型広告はコモディティ化している。それぞれの会社で広告配信のアルゴリズムに多少の差はあれど、圧倒的な差があるわけではない」と吉永氏は言う。より読者とマッチした広告を配信できるようにアルゴリズムを洗練させることは当然のことながら、「新機軸を打ち出さないと生き残れない」(高広氏)。そこで、各社独自の機能やツールで媒体社の収益化を支援する。

 例えば、ログリーは「Loyalfarm」と呼ぶ、媒体社向けのリピート読者育成ツールを提供する。これは媒体社に特化した解析ツールの一種で、流入経路や訪問頻度を分析することで、リピート読者の比率や層、リピーターを生みやすい記事の傾向などを分析できる。定着につながるコンテンツ制作や、狙うべき読者層の参考になる。読者が定着すれば、結果的に広告収益も増加が期待できるというわけだ。

 18年9月にはLoyalfarmのタイアップ広告の解析機能を強化。タイアップ広告の訪問者数などの基礎的な数値だけでなく、訪問者の属性や、読了率といった指標を自動的にレポート化する。広告営業部門のレポート作成にかかる工数の減少を目指した機能だ。今後、ログリーは媒体社が容易にサブスクリプションモデルを導入できるツールなど、広告以外の収益増加につながるサービス開発を目指す。

 一方、アウトブレインは広告技術を持つ企業を買収し、機能強化を進める。同社は18年に、イスラエルのUI(ユーザーインターフェース)自動最適化ツール開発のアドエンジンを買収した。同社の技術を自社の広告クリエイティブの自動最適化機能「アドエンジン」として取り込み19年から提供している。

 この機能は、配信する広告の枠の色やフォントのサイズなどを組み合わせた数千パターンのバリエーションを自動で作って配信し、効果の高いクリエイティブへと最適化する。これにより、クリックされやすいクリエイティブへと集約されることで、収益性が高まる。広告主側も効果向上が期待できる。アウトブレインは既存のレコメンドウィジェット型広告に加え、モバイルに対応するためフィード型の広告配信を強化しており、アドエンジンはモバイルへの配信の最適化にこそ効力を発揮するという。

フェイク広告を撲滅しなければ信頼を損なう

 ただし、収益性ばかりを追い求めて、読者の望まない広告ばかり配信しては、媒体としての信頼を損なう恐れがある。そのため、「信頼性」の担保が2つ目の重要なポイントになる。レコメンドウィジェット型広告は、従来のネット広告に比べてその傾向が顕著だ。

 明らかに広告と分かる枠を作る従来のネット広告とは異なり、レコメンドウィジェット型広告はサイトデザインに沿った機能の一部として導入されるネイティブ広告の一種であることがその理由。広告とはいえ、見た目上は記事への誘導リンクのように見えるため、閲覧者は広告という認識を持たずにクリックする。それが高いクリック率(CTR)につながっている。半面、期待と異なる広告ページが表示された場合、より「騙された」という印象を持たれやすい。

 メディアのブランド毀損につながる広告の最たる例が「フェイク広告」だ。マツコ・デラックスなどのタレントが、番組で紹介した商品かのように見せたネット広告が問題視されている。日本テレビ放送網が「マツコ会議」の番組サイトで、悪質な広告がネット上に広がっていると注意を促すほどだ。

「マツコ会議」の番組サイトでは、「フェイク広告」に対する注意を促している
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 「収益を追い求めるアフィリエイターが、さも番組で紹介されたかのように偽装したLP(ランディングページ)を作るケースが増えている」と、アフィリエイト広告市場に詳しいデジマチェーン(大阪市中央区)の西和人社長は指摘する。このLPに誘導するフェイク広告が、一部のレコメンドウィジェット型広告事業者を通じて配信されていた。

 「広告主についても広告事業者がきちんと評価しないと、メディアのブランド毀損につながってしまう」と吉永氏は警鐘を鳴らす。ログリーは広告主の掲載審査だけではなく、コンテンツ制作の段階から関与することで信頼性を高めようとしている。同社は18年12月にPR会社のビルコムと共同で、コンテンツマーケティングの支援会社クロストレックスを設立した。

 クロストレックスは顧客企業が抱えるマーケティング課題に対する解決策として、コンテンツマーケティング戦略の立案、コンテキスト制作、効果測定を請け負う。コンテンツマーケティング市場を支援することで、信頼の置ける企業コンテンツを生みだしていくのが狙いだ。そうしたコンテンツをログリーのレコメンドウィジェット型広告を通じて配信する。「クオリティーが担保された広告を提供できる体制を整える」(吉永氏)ことで、メディアの収益拡大を支援するとともに、広告の信頼性を高めている。

 「最終的に重要になってくるのは、ユーザーがクリックしたいコンテンツを配信できているかどうか」(アウトブレインの嶋瀬氏)。高広氏も「業界全体を挙げて、健全化しないと市場は伸びない」と危機感を強める。サービスの再編による競争環境の変化に合わせ、より消費者に寄り添った信頼性の高いネットワークの構築が求められるだろう。