あらゆるモビリティをつなぎ、1つのサービスとして提供するMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)の世界に、旅行大手のJTBが名乗りを上げた。オンデマンド配車技術を持つ未来シェア(北海道函館市)と提携し、全国各地で実証実験を繰り返している。その意図を、前後編に分けて解き明かす。
「観光地を拠点とした『観光型MaaS』のオペレーターを目指す」。JTBは2019年3月、こんなタイトルで、プレスリリースを打った。
観光型MaaSとは、さまざまな交通手段を組み合わせ、観光地をスムーズに移動できるようにすること。JTBは未来シェアと資本業務提携し、特に交通網が手薄な地方の社会課題を解決したいと表明した。
福島県会津若松市、長野県諏訪市、鳥取県境港市、静岡県の清水港──。地方の観光地やクルーズ船の寄港地を舞台にしたMaaSの実証実験で、JTBの名を目にする機会が増えてきた。相乗りタクシー解禁をにらみ、未来シェアの他、NTTドコモとも組み、AI(人工知能)を使った配車サービスを試験的に実施。観光客を導くラストワンマイルの争いに加わった(関連記事「相乗り解禁でチャンス? 鍵握る配車システム“日米両雄”の戦略」)。
「ツアーには、移動するという意味がある。つまり、MaaSとはツーリズムそのもの。ツーリズムでJTBが関わらないというのはあり得ない」と古野浩樹執行役員法人事業本部副本部長は語気を強める。
JTBをMaaSへと向かわせたのは、旅行という本業の先行きに対する危機感だ。訪日外国人客向けに切符を代理販売する創業期(第1の創業)を経て、「我が社の第2の創業となったパッケージ旅行が厳しくなっている」(古野氏)。
旅行代理店というビジネスは、タビマエ(旅行前)の予約を取り込むことで成り立ってきた。「ルック」や「エース」といったパッケージツアーを大量に造成し、店頭で販売することで、JTBは大きく業績を伸ばした。
しかし、スマートフォンが爆発的に普及し、24時間いつでも予約、決済ができるOTA(オンライン旅行会社)が台頭。店に足を運ぶ必要すらなくなった。「これはかなり深刻な話で、タビナカ(旅行中)での体験、予約にどう接点を持つかというのが非常に重要になってきた」と古野氏は語る。
JTBは15年、アソビュー(東京・渋谷)に出資。アソビューは、レジャー、伝統工芸、料理など旅先で楽しめる体験型コンテンツを集めた予約サイト「asoview!」を運営している。タビマエからタビナカへと、JTBがビジネスの軸足を移すターニングポイントになった。
そこにMaaSという“100年に1度”の大波が押し寄せた。本業を取り巻く環境が激変するなか、JTBは、もう一つの事業に会社の命運を託した。それは、地域交流事業である。「観光に役立つだけではない。地域住民のためにもなる」(古野氏)という視点で、MaaSと向き合うことにしたのだ。
MaaS時代に生きるビジネスモデル「DMC」とは
「旅行会社からDMC(デスティネーション・マネジメント・カンパニー)へ」。JTBは、地域交流事業という名の元に、全国および世界各地から目的地(=デスティネーション)へと人を呼び込むマネジメント事業を展開してきた。
「定住人口が減っていくなか、交流人口で増やすことで地域を活性化する。そのために地域の宝を掘り起こし、磨き、デジタルマーケティングで発信することで“創客”し、そこから得られたデータに基づいて誘客プランを立てるというPDCAを回している」と古野氏は言う。こうしたソリューションを提供するビジネスを、グループの「第3の創業」に据えた。
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