サントリー食品インターナショナルが自販機限定で発売した「サントリー 天然水サイダー」(以下、天然水サイダー)が2019年4月の発売以降、学校施設に設置された自販機の売り上げランキングで10週連続首位をキープしている(6月中旬時点)。「懐かしさ」がコンセプトの商品がなぜ若い世代に支持されたのか。
天然水サイダー開発のきっかけは、自販機用炭酸飲料のラインアップ強化だったという。「炭酸飲料市場が『C.C.レモン』など色付きの有糖炭酸飲料と『天然水スパークリング レモン』などの無糖炭酸飲料に二極化していたので、サイダーのような無色透明で甘い炭酸のニーズがあるのではないかと考えた」と、同商品のブランドマネージャーで、サントリー食品インターナショナル ブランド開発第一事業部の平田結花氏は話す。
サイダーを展開するにあたって、18年の国内清涼飲料市場で販売数トップだった「天然水」ブランドから出すこと、同ブランドの支持率が高い30~40代をターゲットにすることはすんなりと決まった。「仕事の人間関係やSNSのつながりに疲れている人も多い。サイダーを飲むことで、素の自分に戻れてホッと安心できる瞬間を作りたいはず」(平田氏)。
30~40代を狙って「懐かしさ」を重視
「安心感」をキーワードに開発チームでサイダーのイメージを掘り下げたところ、幼少期や学生時代の思い出に結びついていることに気づき、「懐かしさ」をコンセプトにパッケージ開発を進めることになった。
青緑色のパッケージ、太めのゴシック体で書かれたサイダーのロゴ。懐かしさを念頭に置き、ラムネの瓶をイメージしてデザインされた天然水サイダーは、同社の読み通り、30~40代に売れた。だが、想定外だったのは10代を中心にした若年層の支持だ。
「有糖炭酸飲料はもともと若年層によく売れる。ただ新商品投入直後は目新しさもあってランキングの上位に来ても、徐々に落ち着いてくるのが一般的。天然水サイダーのように発売から約2カ月たっても首位から転落しないのは珍しい」と平田氏は話す。
「素朴さ」「手書き文字」が若い世代に新鮮に映った
ランキングが落ちないというのはリピート率が高いということ。中身を気に入って繰り返し購入している人もいるだろう。だが、SNSには学生と思われるユーザーがパッケージとともに空や車窓を写した投稿も目立つ。「インスタ映え」する商品として捉えられていると言えそうだ。数ある有糖炭酸飲料のなかで、なぜ天然水サイダーが若年層の心をつかんだのか。
「素朴でシンプルなデザインが、若い世代にとって新鮮で魅力的に映ったのではないか」とデザインを担当したサントリーコミュニケーションズ デザイン部の山岸彩乃氏は分析する。
懐かしさを掘り下げるなかで山岸氏がたどり着いたのが、一昔前の商品のパッケージデザイン。「印刷技術や画像処理技術が発達していないころの商品パッケージには素朴なデザインのものが多かった」(山岸氏)。この素朴さは「全国各地で売られている『ご当地サイダー』のデザインにも通じる」と平田氏も指摘する。
だが、懐かしさを感じられるだけの商品なら、他にいくらでもあるだろう。天然水サイダーのもう一つのポイントは、「親しみやすさ」だ。
サイダーのロゴの下には、青いボールペンで書いたような「澄みわたるおいしさ」の一文。安心感を伝えたいという思いを込めて、平田氏が手書きしたものだ。若年層、特に中高生は、授業中や自習時などに文字を書く機会も多い。そうした世代にとって、この手書きの一文は親近感を与えるものだっただろう。
また、自販機のPOPには山岸氏が手書きした「爽快! サイダー」の文字が印字されている。パッケージとPOPの筆跡をあえてそろえなかったのも大きなポイントだ。異なる人物が書いていることが一目で伝わり、まるで一点一点手作りしたかのような親しみやすさを演出できている。
「スタアバックス珈琲」のように、懐かしさやレトロを切り口にしたプロモーションはここ最近のトレンドだ。だが、はやりであればあるほど、単にレトロ一色にするだけでは埋もれてしまう。スタアバックス珈琲が「レトロさとスタバの先進的なイメージ」を掛け合わせたように、天然水サイダーも親しみやすさを掛け合わせたことで、他に差をつける「新たな懐かしさ」を作り出すことができたのだろう。