JR東日本グループの日本ホテル(東京・豊島)が、米マリオット・インターナショナルと提携。2020年4月、東京・竹芝に高級ホテル「mesm Tokyo, Autograph Collection(メズム東京、オートグラフ コレクション)」を開業する。東京の水辺にどんな彩りを加えるのか。

2020年4月、東京・竹芝に開業するホテル「mesm Tokyo, Autograph Collection」。ロビーから高級感が漂う
2020年4月、東京・竹芝に開業するホテル「mesm Tokyo, Autograph Collection」。ロビーから高級感が漂う
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 東京湾に面し、浜離宮恩賜庭園と隣り合う東京・港区の竹芝エリア。水と緑に縁どられ、伊豆諸島、小笠原諸島へ向かう船の発着場としても知られる都心のウォーターフロントで、JR東日本グループが大規模な街づくりに乗り出した。

 敷地の広さは約2万3000平方メートル。一帯を「WATERS takeshiba(ウォーターズ竹芝)」と名付け、地上26階・地下2階建ての高層棟と、地上6階・地下1階建ての劇場棟、そして約430台を収容する駐車場棟を整備する計画だ。広場やテラスも配し、文化や芸術を発信しながら、心が潤う豊かさを生み出す街づくりを進めていくという。

 mesm Tokyoが入るのは、高層棟の16~26階。高層棟にはオフィスも入り、劇場棟には劇団四季の春劇場と秋劇場がオープン。既存の自由劇場と合わせて3館体制となる。高層棟と劇場棟それぞれの低層階では、アトレが商業施設を運営する。高層棟と駐車場棟が2020年4月、劇場棟は20年内に開業する予定で、水辺に新たなランドマークが生まれる。

WATERS takesibaは浜離宮恩賜庭園と向かい合う立地。ここに、高層棟、劇場棟、駐車場棟の3棟を整備する
WATERS takesibaは浜離宮恩賜庭園と向かい合う立地。ここに、高層棟、劇場棟、駐車場棟の3棟を整備する
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 mesmとは、英語のmesmerizing(メズマライジング)から取った。「魅了する、魔法をかけるという意味がある。ゲストの五感に心地良く訴え、魅了していくホテルにしていきたい」と日本ホテルの里見雅行社長は説明する。

日本ホテル社長の里見雅行氏。五感に訴え、魅了するラグジュアリーホテルを目指す
日本ホテル社長の里見雅行氏。五感に訴え、魅了するラグジュアリーホテルを目指す
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 日本ホテルは、首都圏を中心に計31ホテル5128室を展開している。国の重要文化財にも指定された東京駅丸の内駅舎内で東京ステーションホテルを運営し、ホテルメトロポリタンを県庁所在地や新幹線の停車駅を中心に開業。宿泊特化型ホテルとしてJR東日本ホテルメッツを拡大している。

 「その土地ならではの魅力をいかに体験していただくかに力を入れてホテルを運営してきた。竹芝でも、東京のウォーターフロントの魅力を、十分に体験いただけるようなラグジュアリーホテルをつくっていきたい」(里見氏)。

JR東グループ初の海外ホテルとの提携、双方の狙い

 mesm Tokyoは、東京ステーションホテルに匹敵するラグジュアリーホテルになる。新ブランドとして立ち上がるだけでなく、JR東日本グループとして初めて海外のホテルと手を携える点で、画期的なプロジェクトだ。JR東日本グループにとっては、マリオットの世界的なブランド力と会員組織を生かし、訪日外国人客(インバウンド客)の取り込みを強化できる。

 ホテル名として併記される「オートグラフ コレクション」は、マリオットの30あるホテルブランドの一つ。「Exactly Like Nothing Else」、すなわち他にはない体験を提供することを旗印に、30以上の国・地域で160軒以上が加盟している。マリオットという名を冠さず、各ホテルの独自性や個性に重きを置いているのが特徴で、日本では、東京・高輪のザ・プリンスホテル さくらタワー東京に続く2軒目。アジア太平洋地域では9軒目で、さくらタワーがリニューアルオープンを機に参画したのに対し、mesm Tokyoは新設ホテルとして加わる。

 マリオット側も「日本における認知度、存在感は、我々外資系には持ち合わせないほど極めて高い」(マリオット・インターナショナルで日本とグアムを担当するヴィクター大隅氏)とJR東日本グループに一目を置く。

「未知の息吹」に満ちた竹芝の価値

 両陣営を引き合わせたのは、竹芝という立地が持つポテンシャルにあった。「ウォータービューがありながら、高層ビルが連なる、とても素晴らしいスカイラインも望める。東京の中でも、非常にレアなロケーションだ」と、マリオット・インターナショナルでアジア太平洋地域の開発を担う、シニアバイスプレジデントのショーン・ヒル氏は語る。

マリオット・インターナショナルのショーン・ヒル氏。アジア太平洋地域の開発を担う
マリオット・インターナショナルのショーン・ヒル氏。アジア太平洋地域の開発を担う
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 羽田空港に近く、海外からの利便性が高い。にもかかわらず、その魅力はまだ知られていない。里見氏の言葉を借りれば、「未知の息吹に満ちている」。

 裏を返せば、唯一無二を売りにするオートグラフ コレクションにはふさわしい場所だった。「20年の東京五輪・パラリンピックによって、東京の水辺は、ますます注目を浴びる。その魅力は、これから我々が開拓していかなければならない」と里見氏は力を込める。

 竹芝地区はこの先、街の顔ががらりと変わる。東急不動産と鹿島も、総延べ床面積20万平方メートルを超すツインタワーを建設中。このうち、1棟は地上40階建ての超高層オフィスビルとなり、ソフトバンクグループと通信子会社のソフトバンクが20年度中にも、本社を構える。

 JR浜松町駅から竹芝エリアへ、首都高速都心環状線の上空を跨ぎ、全長約500メートルの歩行者デッキも整備される。面的な人の流れが生まれるのは、間違いない。まさに現在進行形で、スカイラインが大きく変貌しているのが、竹芝エリアなのだ。

東京の今を発信するホテルに

 mesm Tokyoのコンセプトは、TOKYO WAVES。変わりゆく街を象徴するホテルとして、「人の流れや空気感、伝統や革新の融合、新しい価値観など、東京の今をサービスやコンテンツに込め、次世代のアーバンラグジュアリーホテルを展開していきたい」と生沼久総支配人は語る。

 内装デザインは、世界的に名高いウィルソン アソシエイツ社に依頼した。「和の要素を現代的に再解釈したアクセントを入れ、お客さまの心、精神を鼓舞し、感動を呼び起こそうというコンセプトがある。ラグジュアリー感の中に、古典的な日本の建築様式にインスピレーションを受けたデザインが含まれている。足を踏み入れた瞬間、間違いなく、すごく感動するデザインになる」と、生沼氏は自信を見せる。

mesm Tokyoの総支配人に就任した生沼久氏
mesm Tokyoの総支配人に就任した生沼久氏
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 リーゼントヘアが目を引く生沼氏は、ウェスティンホテル東京の開業メンバーに名を連ね、シェラトン・グランデ・トーキョーベイ・ホテルの副総支配人、シェラトングランドホテル広島の開業準備室プロジェクトマネジャーなどを歴任。17年にはマリオットのライフスタイルホテル「モクシー東京錦糸町」で総支配人を務めた。

 生沼氏が今回、力を入れるのは、五感の中でも聴覚を刺激する音楽。「BGM(バックグランドミュージック)ではなく、FGM(フォアグランドミュージック)にしようと言っている。魅力ある音楽を選び、いい音で届けたい」。フォアとはバックの対義語。つまり、音楽自体が主役となる演出を指す。ロビーフロアでは、スピーカーを含め、音響設計に相当工夫を凝らす考えだ。

音楽重視の姿勢をアピールするため、ホテルの発表会は、東京・天王洲アイルのライブハウスで開催。冒頭からライブパフォーマンスを繰り広げた
音楽重視の姿勢をアピールするため、ホテルの発表会は、東京・天王洲アイルのライブハウスで開催。冒頭からライブパフォーマンスを繰り広げた
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 さらに、ジャパンブランドを強く打ち出す。メンズスキンケアの先駆けとして知られるバルクオムとバスアメニティを共同開発。猿田彦珈琲がmesm Tokyoオリジナルブレンドのコーヒーをプロデュースする。「メード・イン・ジャパンのホテルブランドとして、五感を魅了できる、ジャパンクオリティーの企業とコラボレーションしていきたい」(生沼氏)。

 客室数は、ツインルームが108(40〜44平方メートル)、キングルームが149(同)、スイートルームが8(95平方メートルが7室、180平方メートルが1室)の計265室。浜離宮恩賜庭園に面した客室は全室バルコニー付きで、眼下に都市の緑が広がる。宴会場やクラブラウンジ、フィットネスジム、ダイニング「Chef’s Theatre (シェフズ・シアター)」、宿泊客以外も利用できるバー&ラウンジ「Whisk(ウィスク)」も完備し、世界基準のホテルサービスを打ち出す。

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ホテルの客室、宴会場のイメージ
ホテルの客室、宴会場のイメージ
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 メインターゲットは「インディビジュアリスト」だという。「自身の価値観を持って、自信と自由に満ちあふれた、上質なものを好む感度の高い人々のことで、国籍、年代は問わない」(生沼氏)。そうした人々を呼び込むため、サービスでも「超一流をそろえる」(里見氏)。

 例えば、レストランのシェフには、仏プロスペール・モンタニェ国際料理コンクールで優勝した隈元香己(くまもと・こうき)氏を起用。ビストロとガストロノミーを組み合わせた「ビストロノミー」という新しいフレンチを、ライブ感あふれるオープンキッチンで提供する。流れ出る音、香り、臨場感を含めて演出し、“オーディエンス”の五感に訴えかける。

ダイニング「Chef’s Theatre」では、隈元香己氏がビストロノミーをテーマに美食を振る舞う
ダイニング「Chef’s Theatre」では、隈元香己氏がビストロノミーをテーマに美食を振る舞う
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 竹芝の水辺から着想し、「ホテルのロゴには、水がたゆたうイメージを込め、波長をリズミカルに表現した」(生沼氏)。eを反転させたのも意味がある。「東京の今やホテルを訪れる人々など、さまざまな波長が、このホテルで交わりあい、新しい変化が生まれてくることを、このeに象徴として込めた。ちょっとしたひねりを加え、唯一無二の体験を提供していきたい」と生沼氏は意欲を燃やす。

ホテルのロゴには、水がたゆたうイメージと唯一無二の体験を提供するという思いを込めた
ホテルのロゴには、水がたゆたうイメージと唯一無二の体験を提供するという思いを込めた
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日本展開を加速するマリオットの40by20戦略

 東京五輪・パラリンピックに向け、列島各地でホテルの建設ラッシュが続く。そのさなかに、mesm Tokyoはオープンする。供給過剰とみる向きもあるが、世界最大のホテルチェーンであるマリオットは、攻勢の手を緩めない。40by20。アジア太平洋地域で、2020年までにホテルの数を40%増やす目標を掲げている。

 「今は約750軒だが、これを1000軒まで増やす。(アジア太平洋地域は)まさに1日半から2日に1軒のペースでホテルがオープンしており、世界展開を拡大するキードライバーになっている。中でも日本のマーケットには計り知れない機会が多く眠っている。地方の活性化も含めて、まだまだ日本全体で需要がある」

 大隅氏はこう強調する。日本では43軒のホテルを展開しており、20年までに30軒以上が開業予定だという。もちろん、mesm Tokyoもこの一翼を担う。勝機があるとみるのは、過去最多のペースで、インバウンド客が増え続けているからだ。

マリオット・インターナショナルのヴィクター大隅氏。日本とグアムを管轄する
マリオット・インターナショナルのヴィクター大隅氏。日本とグアムを管轄する
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 「日本は世界中の旅行者にとって、これまで以上に魅力的なデスティネーションになっている。マリオットにとっても、日本の観光がさらに発展していくことは、成長のビジョンに欠かせない。ディマンドジェネレーションと言われる通り、来ていただける需要を作っていくのが、我々の仕事だ」(大隅氏)。

 20年には東京・銀座と虎ノ門に、最高級グレードのホテル「エディション」を、22年にはJR東京駅前の八重洲に、ブルガリ ホテルを開業する。いずれも日本初上陸だ。こうしたラグジュアリーホテルを増やす一方で、宿泊に特化した郊外型のホテル「フェアフィールド・バイ・マリオット」を全国に広げていく。「主要都市以外でも、観光客が訪れる場所であれば、非常に大きなチャンスがあると考えている」とヒル氏は語る。

 一方の日本ホテルも20年度までに、このmesm Tokyo以外に、JR東日本ホテルメッツを秋葉原(196室)、新木場(189室)、五反田(166室)、横浜(170室)、桜木町(274室)に、ホテルメトロポリタンを鎌倉(138室)、川崎(304室)に開業する予定だ。

 「ホテル全体の供給が増えても、しっかりとしたサービスで、お客さまに選んでいただけるホテルを作っていけると思っている。JR東日本の駅周辺に限らず、いい場所があれば考えていきたい」(里見氏)と拡大戦略を続ける。

 JR東日本グループは17年、「NEXT10」と銘打った成長ビジョンを策定した。「CITY UP!」をスローガンに、従来の駅中心のビジネスから一歩踏み出し、「くらしづくり(まちづくり)」に挑戦。エリア外への事業領域の拡大やオープンイノベーションなどにも取り組んでいる。竹芝は、高輪ゲートウェイと並び、グループ全体の成長を占う重要な再開発になる。

 竹芝のホテルで目指すのは、ホテルという枠を超えて、東京を代表するブランドに育てること。「20年、30年後には我々のmesm Tokyoを、東京ライフスタイルのアイコンにしたい。そのために我々は常にTOKYO WAVESを体現していく」(生沼氏)。ジャパンブランドとして世界に挑み、東京の水辺を変えていく。

(写真/古立康三)