かっぱ寿司がハワイ州観光局とコラボして投入したメニュー「ガーリックシュリンプ」が、想定の2倍という売れ行きで好調に推移している。ハワイと回転すしという異色のタッグはなぜ生まれたのか。その背景には、新たな客を呼び込みたいという双方の思惑があった。
2019年5月15日、全国のかっぱ寿司で「ガーリックシュリンプ」と「ハワイアンパンケーキ」の販売が始まった。ガーリックシュリンプは6月23日まで、パンケーキは7月15日までの期間限定メニューで、ハワイ州観光局が公認していることが売りの1つ。価格はどちらも390円(税別、以下同)と、1皿100円のすしがメインの同店の中では最も高い価格帯だ。それにもかかわらず、ガーリックシュリンプは想定の2倍という「高額メニューでは異例の売れ行き」(運営するカッパ・クリエイトの牛尾好智マーケティング部長)となっている。
ハワイ州観光局は15年から日本で「公認商品」を展開。第1号は日本マクドナルドの「ロコモコバーガー」だった。以降、タリーズコーヒーの「ハワイコナ100%コーヒー」、カルビーの「フルグラ トロピカルココナッツ味」などが公認されてきたが、いずれもハワイと親和性のあるブランドやメニューと言える。しかし今回は和のイメージが強い回転すしとの協業。これだけで意外感があるが、さらに看板メニューである寿司ではなくサイドメニューということで、二重の意味で裏切られる異色のコラボとなっている。
ハワイ州観光局の狙いは何か。「これまで交通広告中心でプロモーションしてきたが、展開できるエリアには限界がある。かっぱ寿司は全国にあり、しかも郊外や地方に多く立地している。これまでリーチが難しかった、ハワイにあまりなじみがない人たちにアピールできるのが魅力」(ハワイ州観光局PR&マーケティングマネージャーの宮本紗絵氏)。家族連れでの来店が多いことも、家族旅行に適しているハワイのアピールにつながるとみている。店内ではメニューへの掲示に加えて、注文用のタッチパネル画面などでも動画広告が流れる。また会計時には、ハワイへの航空券が当たるキャンペーンについて記載したチラシが手渡され、注文しない客へもハワイをアピールできると踏んだ。
一方のかっぱ寿司。ハワイには「ポキ」や「ロコモコ」などの名物料理があることから、当初はすしでのコラボも考えたという。しかし同社の場合、寿司は2貫で100円か180円と決まっており、かけられる原価には限界がある。「本格的なものを出すのは難しく“ロコモコ風”に留まってしまう」(カッパの牛尾氏)ことから断念。代わりに浮上したのがサイドメニューだった。
390円の値付けで本格感を出す
サイドメニューなら最高で390円まで値付けできるので、より本場の味に近いものを再現できる可能性が高まる。加えて、「以前からのファミリー層に加え、若い女性など新たな客層を取り込むためスイーツなどにも力を入れている」(牛尾氏)。このため、既に注文の3割程度をすし以外のメニューが占めるようになっている。そこで最終的に選ばれたのが、ハワイで人気のあるガーリックシュリンプとパンケーキの2つだった。
ガーリックシュリンプは大ぶりの海老を5尾使い、にんにくを利かせた濃厚な味わい。「メニューを作ったときは酒のつまみを想定していたが、幅広い客層に売れている」(牛尾氏)。濃いめの味付けにすることで、あっさりしたすしが食べたくなる効果も出ているといい、客単価アップに貢献しているようだ。
パンケーキはもっちりとした食感が特徴。ハワイの有名店では1000円を超える金額で提供されるものも多い中、390円に収めるのに苦労したという。その結果、「ココナツやベリーを使ったソースを使うことでハワイ感を出した」(牛尾氏)。6月5日から提供されている「ハワイアンパンケーキ~ドラゴンフルーツ&ベリー~」には、ハワイ産のはちみつを使用している。
5月から6月にかけてというメニューの展開時期も、実は戦略的なもの。ハワイ州観光局にとっては、書き入れ時である夏休みシーズンを控え、ハワイをアピールするには最適という考え。これに対してかっぱ寿司から見るとゴールデンウイーク明けで客足が鈍る時期で、話題性のあるキャンペーンを展開する必要があった。
成果は出始めている。店頭配布のチラシなどで告知しているプレゼントキャンペーンの応募数は1カ月足らずで2万件を超え、「約半数がハワイへの渡航経験がないと回答していることからも、新たな客層にアピールできていると実感している」(ハワイ州観光局の宮本氏)。今後は、同観光局が展開する観光プロモーション「発見ハワイ」への認知度が高まることを期待する。
ガーリックシュリンプのヒットにも引っ張られ、かっぱ寿司の5月の既存店売上高は、前年同月比5.4%増、客数も同4.1%増と好調に推移した。異色コラボはまずは成功と言えるだろう。
記事掲載当初、ハワイ州観光局公認商品の開始時期に誤りがありました。また、ハワイ州の組織名に不正確な記述がありました。本文は修正済です。 [2019/06/17 18:00]
(写真提供/ハワイ州観光局)