HiOLI(東京・目黒)は、2019年4月、アイスクリームの“サブスクリプションサービス”「Pint Club」を開始した。同社はECを主な販路と位置付けながら、東京・自由が丘に店舗を構える。リアルな体験を通じたマーケティング施策を展開し、クチコミで集客。月額2700円と高額ながら、想定の1.5倍の申し込みが寄せられているという。

HiOLI(東京・目黒)は、店舗をショールームと位置付け、アイスクリームのサブスクリプションサービス「Pint Club(パイントクラブ)」の申し込みにつなげる
HiOLI(東京・目黒)は、店舗をショールームと位置付け、アイスクリームのサブスクリプションサービス「Pint Club(パイントクラブ)」の申し込みにつなげる

 Pint Club(パイント クラブ)は、HiOLIが展開するアイスクリームブランド「HiO ICE CREAM(ヒオ アイスクリーム)」を月額制で楽しめるサービス。ネットから申し込むと、毎月、パイントカップ(473ミリリットル)に入った2種類のアイスクリームが自宅に届く。

 現在ラインアップされているサブスクリプション商品は2つ。定番のミルク味と毎月異なる季節のフレーバーをセットにした商品と、お任せフレーバーと季節のフレーバーのセット商品だ。価格はそれぞれ、送料込みで2700円となる。ハーゲンダッツのパイントサイズがメーカー希望価格850円であることを鑑みれば、送料込みでも少々割高という印象を受ける。

パイントカップ(上)と、ギフトやトライアル用のミニカップ(下)
パイントカップ(上)と、ギフトやトライアル用のミニカップ(下)

 それでも滑り出しは好調だ。サービスが始まって1カ月が経過した時点で、サブスクの新規入会数は「想定の1.5倍」と代表取締役兼CEO(最高経営責任者)の西尾修平氏は明かす。HiOLIはまだネット広告を活用した集客策などを実施していない。それでも申込者が順調な理由は、リアル店舗を通じて提供する高い体験価値にある。

サービス開始と同時に店舗開設の理由

 HiOLIは、サブスクアイスを展開するECサイトを“本店”と位置付けながらも19年4月のサービス開始と同時に東京・自由が丘に店舗「Atelier(アトリエ)」をオープンした。ECを本店としたのは、都内に足を運ぶのは難しいが、おいしいアイスを自宅で楽しみたいという全国の消費者に届けられる利便性と、物理的・時間的な制約を伴わないECなら、毎月異なる素材や味、産地に対するこだわりをリアルタイムに、そして惜しみなく紹介できる点にある。

外から店内や厨房が見えるガラス張りの工房。アイスは一つ一つ手作りして販売している
外から店内や厨房が見えるガラス張りの工房。アイスは一つ一つ手作りして販売している

 一方、製造工房も兼ねるAtelierは、本店へと誘導する体験の場、いわばショールームという位置付けだ。HiOLIは従来の大量生産・大量消費のモノづくりとは逆を行き、素材本来の良さを生かすために、各作業工程に最適化した機械やテクノロジーを活用する。例えば、空気を含ませながら高速で素材をかき回し、短時間で冷却するイタリア製のアイスクリームマシンを採用している。口の中でとろける、滑らかな食感に仕上がるのが特徴だ。

 それを顧客に見える形で、小ロットで製造する。そうした強いこだわりを持つ商品ゆえに販売価格は上がる。イートインで、アイスを楽しめるリアル店舗で体験してもらうことで、価格に納得してもらう。それがPint Clubへの加入につながると考えている。

サブスク登録につながる、巧みな体験設計

 西尾氏は、3つの価値を重視したモノづくりを心掛ける。1つ目が、素材本来の良さを引き出したアイスクリームを作ること。2つ目は、少量ずつスモールバッチ(小ロット)で丁寧に製造すること。西尾氏自ら全国50カ所以上の生産者を回り、厳選した素材だけを使用している。まとまった量の確保が難しい希少性の高い素材でも、少量生産であればアイスの材料として活用できる。

 そして、最後は、顔の見えるモノづくりだ。Atelierで、あえてガラス張りを採用しているのも、アイスへのこだわりを伝えるため。店舗では来店客だけでなく、通行人からもアイスを1つずつ手作りしている中の様子がよく見える。また、それが結果的にSNS映えする店舗デザインとなっている。

 自由が丘という洗練された町並みによく合うガラス張りの店舗は、同店の存在を知らない人の間でも目を引くことだろう。通りがかった人や来店客が工房でアイスを作る様子を撮影して、SNSなどでシェアをする姿は容易に想像がつく。

東京・自由が丘の店舗「Atelier(アトリエ)」はガラス張りを採用して、通行人の関心を誘う
東京・自由が丘の店舗「Atelier(アトリエ)」はガラス張りを採用して、通行人の関心を誘う

 「会社発信で思いを主張するだけではなく、顧客が自ら友人にシェアしてくれることが、何よりも信頼につながるのではないか」と西尾氏は言う。

HiOLIの代表取締役兼CEO(最高経営責任者)の西尾修平氏
HiOLIの代表取締役兼CEO(最高経営責任者)の西尾修平氏

 実際、Pint Clubは口コミで会員が増加している。一度店頭で食べた顧客が、友人を連れて再来店するケースは多い。そして、体験後にPint Clubの会員になるなど、客が客を呼ぶ流れを作れている。もちろん新規会員獲得策の実施を検討しないわけではないが、それよりも重視するのはファンの熱量が伝搬していく、口コミを起点とした顧客の広がり方だ。

 そして、もう1つ西尾氏のこだわりを感じられる点がある。それは、「透明性」だ。HiOLI のWebサイトで紹介されるのは、原材料の生産者にとどまらない。写真家やWebデザイン会社まで、ブランドに関わる企業・人をすべて紹介する徹底ぶりだ。

 米国では、透明性を重視した経営の成功例が表れている。米アパレルメーカーのエバーレーンは、生地や縫製、流通コストなどをすべてオンライン上で開示する。製造原価をあえて見える化したことで、ミレニアル世代から圧倒的な支持を集めた。フェイクニュース問題などが取り沙汰される中、透明性が企業力につながることを示している。

ブルーボトルコーヒーの創業者に教えを請う

 西尾氏のモノづくりに対する強いこだわりは、実は米ブルーボトルコーヒーから大きな影響を受けている。西尾氏は創業前に米国へ渡り、半ば飛び込みでブルーボトルコーヒーの創業者ジェームス・フリーマン氏に会いに行った。そこで、自身が構想しているアイスクリームビジネスや、モノづくりにおける考え方について意見をもらったという。

 時間にして30分程度だったが、フリーマン氏による、「丁寧なモノづくりをし、商品と向き合っていくこと」という教えは、西尾氏のブランド戦略の方向性に大きな影響を与えた。

 HiOLIの 創業からほどなくして、19年4月22日に一本のニュースリリースが配信された。題名は「HiO ICE CREAMとブルーボトルコーヒーがコラボレーション」。ブルーボトルコーヒーでHiO ICE CREAMを使用した、コーヒーフロートやコーヒーゼリーを期間限定で販売するという内容だ。新興ブランドにもかかわらず、ブルーボトルコーヒーとのコラボが実現したのは、かつて西尾氏がモノづくりの教えを請うた、フリーマン氏からのエールと言えるかもしれない。

 洗練された商品、ブランドからコーヒー界のアップルと呼ばれたブルーボトルコーヒー。その背中を追う西尾氏は、店舗での体験と月額制を組み合わせたアイス事業で顧客への新たな消費体験の提供を目指す。

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